電機産業を輸入超過に転落させた「現場主義」の呪縛 - 池田信夫 エコノMIX異論正論
ニューズウィーク日本版 / 2013年12月17日 18時25分
このような江戸時代の生産性向上を、歴史学者の速水融氏は勤勉革命(industrious revolution)と呼んだ。それは資本集約的な技術進歩による産業革命とは対照的に、労働集約的な人海戦術で、与えられた資源をぎりぎりまで効率的に使うものだった。
その伝統は、現代の会社に継承されている。ここでは終身雇用で従業員共同体の秩序が維持され、外資のような外からの介入は拒否される。会社の目的は共同体の存続だから、経営者の使命は利潤追求ではなく雇用の維持である。
こういうシステムは、与えられた目的を実行するときは大きな力を発揮する。日本と同じ勤勉革命型のアジア諸国で、製造専業のOEMメーカーが成功しているのもこのためだが、日本はその段階を過ぎた。高賃金でコスト競争力がないので、残る道は知識集約型のソフトウェアに転換するしかない。
このためには製造部門を切る決断が必要だが、ボトムアップの現場主義では、こういう大きな決断ができない。自分で自分の外科手術はできないのだ。それを社長がトップダウンでやろうとしても、現場の集合体である役員会が認めない。株式も持ち合いになっているので、資本の論理が機能しない。
江戸時代に全国を300の藩に分断して人口の移動を禁止した幕藩体制は、世界史上でも異例な長期の平和をもたらした。17世紀には勤勉革命で生産性は向上し、日本の人口は1200万人から3100万人に急増したが、18世紀に人口増は止まり、幕末には3200万人にしかならなかった。
この原因は、人口の固定化である。勤勉革命は与えられた土地を使い切ると生産性が限界に達するので、人口増加が止まると成長も終わる。江戸時代の人口成長の限界は、明治の開国で突破されたのだが、人口の減少する日本が資本主義に「開国」するのはいつのことだろうか。
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