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ウクライナ債務不履行が招く危機の連鎖

ニューズウィーク日本版 / 2014年3月10日 12時4分

 野党勢力が激しい反政府デモでヤヌコビッチ大統領を追放し、80人以上の死者を出したウクライナで、欧米寄りの北部・西部とロシア寄りの南部・東部の間に分裂の危機が忍び寄っている。

 だが分裂を回避できるかどうかは、重要かつ関連する2つの問題の一方にすぎない。もう1つの問題は、金融システムの崩壊をいかに防ぐかだ。

 ウクライナの対外債務問題の見通しは、政治情勢と同じくらい暗い。急いで数百億ドルの金融支援を行わなければ、ウクライナの中央銀行の外貨準備は底を突き、外貨建ての国債はデフォルト(債務不履行)することになる。そうなれば、ロシアやEU諸国を通じ、影響は世界に及ぶ可能性がある。

 ウクライナの短期対外債務は、政府と民間を合わせて約660億ドル(うち460億ドルが企業債務)に上る。だが、国の支払い能力の目安となるウクライナ中銀の外貨準備は約150億ドル。返済額の2割しかカバーできない。民間銀行でも資金流出が続き、わずか数日で預金の最大7%が引き出されたという。

ルーブル暴落の危険性

 政府債務だけを見ても、今年中に返済しなければならない対外債務は元利合わせて62億ドル。加えて、国営ガス会社ナフトガスがユーロ建て社債16億ドル分の償還を9月に控えているほか、ロシアの国営ガス大手ガスプロムに16億ドルの未払い金もある。

「合わせると、ウクライナ政府は今年中に94億ドルの外貨が必要になる」と、ロンドンのコンサルティング会社、キャピタルエコノミクスはみる。

 それだけではない。経常収支も急速に悪化している。ウクライナの今年の経常赤字は130億〜140億ドルと、それだけで外貨準備を帳消しにする額になる見込みだ。

 通貨下落も追い打ちをかける。通貨フリブナは2月だけで18%下落した。ウクライナの外貨準備が減れば減るほど通貨は下落し、対外債務の支払いにますます苦しくなる悪循環だ。

 EUは3月5日、既に向こう数年間に少なくとも110億ユーロ(約1兆5400億円)の金融支援を行うと発表。アメリカやIMF(国際通貨基金)も支援に向けて動き始めているが、それだけでは到底カバーしきれないだろう。



最初に打撃を受ける国は?

 政治の混乱が長引けば、経常赤字と政府債務の膨張でデフォルトになる最悪のケースに至る可能性も高くなると、スイスの大手投資銀行UBSのアナリストは警告する。

 そのとき、まず直撃を受けるのはロシアと旧ソ連圏だろう。ロシアの銀行はウクライナの企業などに280億ドルを貸している。それが回収不能になるという懸念から、通貨ルーブルは今年に入って10%下がった。またカザフスタンは輸出競争力を維持するために通貨を大幅に切り下げた。

 欧州諸国の銀行の中には、ウクライナ国債を大量に保有している金融機関もある。しかもウクライナ経由のパイプラインでロシアから天然ガスを輸入している。04年にウクライナで親欧米の政権が誕生後、ロシアがガス供給を停止して欧州諸国も大混乱に陥った。

 ウクライナは1人当たりGDPが3800ドル程度の貧しい国だが、デフォルトすれば、新興国や欧州経由で危機が波及する可能性もある。世界経済にとって、気の抜けない時期がまた始まったのかもしれない。

[2014.3.11号掲載]
マイク・オベル

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