イギリスEU離脱と中国の計算
ニューズウィーク日本版 / 2016年6月26日 19時35分
この24カ国は、一朝一夕に「突然」加盟意向を表明したわけではない。
この日のために、早くから交渉が進められていた。
つまり中国はイギリスがEUから離脱する日に備えて、ドイツのメルケル首相との関係を緊密化してきただけでなく、AIIBの強化をも、もくろんできたのである。来年には加盟国が80ヶ国を越え、日本が中心となっているADB(アジア開発銀行)(現在、67ヶ国)を抜くことになる。
そして中国の目は、西欧から中央アジアあるいは東欧との連携にも向けられていた。
上海協力機構とプーチンの訪中
中国やロシアが主導し、中央アジア諸国が参加する上海協力機構の首脳理事会が6月23日と24日、ウズベキスタンのタシケントで開かれていた。上海協力機構はもともと安全保障のために設立されたもので、どちらかというとNATOに対抗する目的があったが、1991年末のソ連崩壊以降の中国の電撃的な動きが、この性格を象徴している(これに関しては2015年10月26日付の本コラム「安倍首相中央アジア歴訪と中国の一帯一路」で詳述)。
今般の上海協力機構で注目すべきは、インドとパキスタンが正式メンバーとなることが意思確認されたことだ。インドのモディ首相と習近平国家主席の「うれしそうな顔と握手」が、中央テレビCCTVで何度も映し出されたし、ネットでも数多く報道された。
それに続くロシアのプーチン大統領の中国公式訪問(6月25日)。
この報道は中露両国から大々的に宣伝され、まるで「イギリスのEU離脱を祝賀する」と言わんばかりのプーチンの勢いが感ぜられた。
CCTVだけでなく、ネットにおける関連写真の多いこと!
中露は「互いの核心的利益」を重視することを強調し、プーチン大統領は、これまで中立だった南シナ海問題に関しても、中国寄りの姿勢をアピールしている。
イギリスがEUから離脱すれば、NATOの力も弱まる。となれば今年6月13日付のコラム「尖閣接続水域進入は中露連携なのか?――中国政府関係者を直撃取材」から透けて見える中露の思惑が、ここで一段と強化されることになる。
G8だろうが、G7だろうが、先進国だけが形成しているサミットになど、いかなる実体的効果もなく、9月初めに中国で開催されるG20こそが「地球を動かす」と、習近平は叫びたいからだ。
イギリスのEU離脱で、ダメージを避けながら漁夫の利を模索する中露の行動には、警戒が必要だろう。
AIIBの顧問に就任したという鳩山元首相が、日本に災禍をもたらさないよう、祈るばかりだ。
[執筆者]
遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
遠藤 誉(東京福祉大学国際交流センター長)
この記事に関連するニュース
-
プーチン氏が5月に訪中、習近平氏と会談へ 欧米との対立で中露連帯をアピール
産経ニュース / 2024年4月26日 8時0分
-
習国家主席がドイツのショルツ首相と会談、自動車、GX、AIなどで協力呼びかけ(中国、ドイツ)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年4月18日 16時15分
-
なぜ「欧米から経済制裁」のロシア経済がV字回復しているのか…中国にすべてを握られたプーチン政権の末路
プレジデントオンライン / 2024年4月18日 7時15分
-
中国車輸入が大きな流れも、ショルツ首相「公平な競争が前提」―独メディア
Record China / 2024年4月16日 14時0分
-
公正な自動車市場を望む、「不当廉売」は厳禁 訪中の独首相表明
ロイター / 2024年4月15日 20時18分
ランキング
-
1トランプ氏、第2期政権の権威的ビジョン語る タイム紙インタビュー
AFPBB News / 2024年5月1日 19時58分
-
2米下院議長解任へ採決要求 強硬派、支援予算を批判
共同通信 / 2024年5月1日 23時35分
-
3イスラエル首相「ラファに入りハマスの大隊を全滅させる」…「戦闘をやめるという考えは論外だ」
読売新聞 / 2024年5月1日 22時33分
-
4ICJ、独イスラエル支援停止の請求却下
AFPBB News / 2024年5月1日 16時49分
-
5ラファ侵攻、改めて表明=米国務長官と会談―イスラエル首相
時事通信 / 2024年5月1日 22時21分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください