中国漁船300隻が尖閣来襲、「異例」の事態の「意外」な背景
ニューズウィーク日本版 / 2016年8月12日 15時46分
そして南シナ海。8月6日、中国人民解放軍空軍広報官は南シナ海での「戦闘巡行」が始まったことを宣言した。今後は戦闘機や爆撃機、偵察機、空中給油機からなる編隊が定期的に南シナ海をパトロールするという。尖閣諸島近海でも船舶と航空機による定期的な巡行(パトロール)を実施している中国だが、わざわざ「戦闘」という挑発的な言葉をつけ、爆撃機まで飛ばすというのは"異例"としか言いようがない。
そう、8月に入って尖閣諸島、韓国、南シナ海という3つのスポットにおいて、中国は"異例"の強硬姿勢を見せているのだ。
原因は政治の季節、大国になりきれない中国
中国外交は本来、きわめて柔軟だ。7月24日から26日にかけて開催されたASEAN関連外相会議ではその真価を発揮し、経済援助をちらつかせたかと思えば、一方的な行動を取り締まる南シナ海行動準規範の早期制定に言及するなど精力的な外交を展開。ASEAN外相会議の共同声明から中国批判の文言を削除するという成果を手に入れている。
うまく批判を回避したというのに、そこで「戦闘巡行」などと言い始めれば、せっかくの成果はおじゃん。国際社会の批判は必然だ。これまでの外交努力を無駄にするような強硬姿勢は、外交よりも優先される論理があることを意味している。
その論理とは国内政局にほかならない。中国は今、"政治の季節"を迎えているのだ。中国の大事を決める北戴河会議が7月末から始まっている。避暑地として知られる河北省秦皇島市北戴河区で毎年夏に開催される秘密会議だ。会議の位置づけについて明確な規定はないが、この政治指導者と長老たちによる夏休み中の井戸端会議は政策、人事に決定的な役割を果たす。来年には次期政権最高指導陣を決める第19回中国共産党全国代表大会(十九大)が開催されるとあって例年以上に重要だ。
しかも習近平は党大会で"異例"の人事を狙っている。江沢民、胡錦濤と2代続いた「総書記2期10年」という枠組みを覆し、習近平体制を3期15年に延長すること。この戦略が次第に有力視されるようになってきた。"異例"の人事を成功させるためには反対派に一切の批判材料を渡してはならない。そのための"異例"の強硬外交が一気に展開されたのだろう。
このように読み解けば中国の動機は理解できるのだが、しかし国内政治を優先させるあまり外交をしっちゃかめっちゃかにしても構わないというのはいかがなものか。中国の国際的影響力が弱かった時代ならばいざしらず、だ。国際政治に責任を持ち大人の姿勢を見せるのが大国である。
中国が大国として振る舞うよう、国際社会のネットワークに引き込むというのが米オバマ政権の戦略だったが、そろそろ任期は時間切れだ。そしてオバマ大統領の後釜になりかねないのが、国内政局のためならば外交は平気でないがしろにするドナルド・トランプ氏だ。トランプ氏が勝利した場合、「中国を大人にする」試みが失敗し、「米国が中国にあわせてお子様になる」という悲劇的な転換点となるだろう。
[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)
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