G20と「人民の声」の狭間で――中国、硬軟使い分け
ニューズウィーク日本版 / 2016年8月29日 16時0分
王毅外相は「訪日」したのではないとして笑顔を見せることも報道も禁じながら、二階幹事長には笑顔を見せ、谷内局長の訪中は大々的に報道する。追い詰められ硬軟使い分ける中国は、北朝鮮非難声明にまで賛同した。
笑顔を見せるか否かはネットユーザーの声に支配されている
尖閣諸島沖で漂流していた中国漁船の船員の命を日本の海上保安庁に救助された中国政府は、ネットユーザーの非難の声に追い込まれ、ようやく日本の功績を認めた。そのような面目丸つぶれの中、王毅外相が訪日することは「売国行為」に等しく、中国は対応に苦労した。そこで日中韓外相会談開催の日程調整発表を延期するなど苦しい抵抗を試みたものの、結局、8月24日に東京で開催された。
9月4日から中国の浙江省杭州市で開催されるG20に対する悪影響を避けるためである。
それでもなお、中国の外交部をはじめ中国政府系サイトは一律に「王毅外相は"訪日"などしていない。日本がどうしても日中韓外相会談開催のために日本に来てくれと頼んでくるので、仕方なく、"その用件を果たすために日本に行った"だけである」と書いた。
日本のメディアが「習近平政権はじまった以来、初めての訪日」と書いたことに対しても、「日本のメディアは"訪日"でないことを、分かっているのか!?」などと、実に苦しい批判をしていた。
このような状況だから、もし王毅外相が岸田外務大臣などに笑顔でも見せようものなら、どれだけ「売国奴」として叩かれるかわからない。そこで中国政府全体の方針として、笑顔を見せてはならない場面と見えてもいい場面を使い分けたのである。
二階幹事長に笑顔を見せたのは、二階氏は中国では強烈な親中派と位置付けられているからだ。
特に2015年5月に当時総務会長だった二階氏が3000人からなる訪中団(財界や日中友好団体の関係者らで構成)を率いて訪中し習近平国家主席と面談した際、握手した習主席の手を高々と掲げて見せたことがある。
このとき習主席は二階氏率いる訪中団の一行を「正義と良識のある日本人」などと褒めたたえた。
そんなこともあり、二階氏に会う時は笑顔を見せてもいいし、また「日本語を話しても許される」のである。
王毅外相はもともと駐日本国の中国大使を務めていた人。そのころは親日的態度で、日本語もペラペラ。しかし中国にとっては、「(歴史を反省しない)敵国日本の言葉を使うことは、日本にへつらったに等しい」。したがって習近平政権誕生以来、日本の要人と会う際に日本語を使うことはご法度となっている。それでも親中派とされている二階氏に対しては、「日本の中に敵と味方を形成する」という習近平政権の戦略においては、許可されているのである。
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