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5選のプーチンは「民主主義国の衰退」を熟知し、西側は「ロシア知識」が足りない

ニューズウィーク日本版 / 2024年3月26日 18時5分

しかも民主国家の政治文化では、問題に対して「解決」を求めがちだ。だがロシアや中東諸国が引き起こす大きな問題は、解決など望むことができず、同盟国やパートナー国の協力を得て何とか現状を維持することで精いっぱいということもある。

そのようなときは、短期的な政治工作やネット世論の突発的な盛り上がりにいちいち動じてはいられない。さらには、第2次大戦の流血と惨事を経て設定されたヨーロッパの国境線をも越えて、真の危機は何なのかを大衆に理解させなくてはならない。その理解を持続させるための継続的な投資も必要だ。

いま西側は過去50年のどの時点にも増して、固い信念を持つ指導者を必要としている。そして私たちが民主主義社会の何を重んじ、その社会に対して何を望むのか、それを実現し維持するためにどれだけの代償を払う用意があるのかという点について、継続的で十分な情報に基づく公の議論が必要とされている。

ロシア・リテラシーが必要

民主主義の諸制度が外部からの情報操作や干渉の標的になっている今、こうした議論は極めて重要だ。これら外部勢力は人々の間に疑念や不信を植え付け、民主的な政府に対する国民の信頼を損なおうと狙っている。

そこで問題になるのが、ロシアに関する知識の不足だ。例えばオーストラリアでは、もともと少なかったロシア関連の専門知識が絶滅寸前ともいえる状況になっている。私が籍を置く大学も、もっと早いうちにロシア語教育やロシア研究に再投資すべきだった。

ロシアは今後も目が離せず、混乱をもたらし続ける国だ。私たちは「ロシア・リテラシー」を向上させて、この国への理解を深めなくてはならない。さらに西側は、ソ連崩壊後のロシアに対する政策の効果を時として台無しにしてきた誤解や無関心を真摯に、そして批判的に評価すべきだ。

ロシアは、破壊工作を行う西側の欺瞞と裏切りの「無実の被害者」だ──プーチンと彼を支持する諸外国の首脳やメディアはそんなプロパガンダを唱えているが、私たちはこれに屈してはならない。

プーチンは、ウクライナはアメリカとイギリスにだまされており、ロシアはかつて植民地にされた国々の味方だとも主張する。この言い分が一定の支持を得ていることは、対ロシア制裁への支持が広まらないことから明らかだ。私たちが暮らすインド太平洋地域でも、プーチンの主張は間違いだと全ての国が考えていると思い込むべきではない。

ロシアは国家の存亡を懸けたともいえる西側諸国との戦争において、歴史や道徳、さらに神までもが自らの側に付いていると確信している。それが今、私たちの目の前にある現実だ。しかも元駐ロシア英大使のブリストウが指摘したように、「ロシアの若い世代が今後の展望について、より民主的で西側寄りの見方を受け入れると仮定するのも危険」だろう。

それでも私たちは、ロシアの未来は輝かしい過去の延長線上にあるというプーチンの見方に賛同しないロシアの人々に、背を向けてはならない。彼らは決して無視できる少数派などではない。

今後、西側の課題はロシアにとってよりよい未来がどのようなものかを、対立を超えて明確に示すこと。そしてその選択肢をしっかりと視野に入れ続けていくことだ。

Peter Tesch, Visiting Fellow at the ANU Centre for European Studies, Australian National University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


ピーター・テッシュ(元オーストラリア駐ロ大使)


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