子どもの「探求型学習」「アート思考」親は何を助ければいい?指針が見えてくる1泊2日、アートビオトープ那須
OTONA SALONE / 2022年11月9日 21時0分
昨今、「非認知能力(スキル)」という言葉をよく耳にします。「認知能力(学力)」と対照で用いられる言葉で、意欲、協調性、粘り強さ、忍耐力、計画性、自制心、創造性、コミュニケーション能力といった、数値測定できない個人の特性による能力全般を指します。
これを鑑み、自己肯定感を保って「デザイン思考」「アート思考」も身につけさせるべし。この流れでよく耳にするのが「探求型学習」です。
指示に整然と従わせる旧来の軍隊ライクな日本の学習から脱し、子どもが自らの興味に従って「してみたいこと」を持ち、その実現までの行動を自律的に考え、組み立てる。併せて、子どもがゴールにたどり着けるよう、周囲の大人が「よい具合に」選択肢を提示し助力していく。
……というような正論、その必要性もよくわかる。おっしゃる通りだと思います。けれど「親は何をすればいいのか」具体的な行動がわからないのです。そもそも、私たちもそんな教育は受けていないので教えようがない。意欲はあれど、どうしていいのかわからない!
このような漠然とした不安に焦るママの皆さま。探究学舎を受講させ、アートクラスに子を突っ込み、中受するかしないかさんざん迷いと、本当にどこまでいっても迷い悩みは尽きません。そんな中、小学校4年生の娘との1泊2日でひとつの答えを得ました。「親もいっしょに体験すると、親なりに腹落ちするものがある」。ポイントは「丸投げせず、親も一緒に教わる立場になる」「親も課題を自分ごととして一緒に考える」だと思えたのです。この気づきをシェアします。
水庭で知られるアートビオトープ那須。「いま、生きて作り出されている」アートの地
東京から東北新幹線で約1時間の「那須塩原」。駅前からのバス送迎約30分で「アートビオトープ那須」に到着します。
建築家・石上純也氏が手掛けた建築的な思考が新しいランドアート「水庭(みずにわ)」と2020年にオープンした坂茂氏による14棟15室の「スイートヴィラ」が有名。
そのほか、長期滞在にも適した「レジデンス」、水庭を正面に臨むフレンチレストラン「レストランμ」で構成されています。「レジデンス」には本格的な設備を備えたガラスと陶芸のスタジオが付帯し、国内外のアーティストの滞在制作を支援する「アーティスト・イン・レジデンス」プログラムが定期的に実施されています。
アーティストは滞在中、自分自身の作品制作を行いながら、ワークショップを通じて地元の人々や施設を訪れる人々と交流します。そもそもの施設の成り立ちが「ウィズ・アーティスト」として構想されたものであり、私たち滞在者はアーティストと共に手を動かしながらこの地での滞在を楽しむ、というイメージでしょうか。現オーナーのお母様である二期倶楽部創業者・北山ひとみ氏のアートと自然、そしてホスピタリティの思想を受け継ぎ、発展させているのだそうです。
凡百の「ガラス体験教室」にはない「説明」と「選択」から始まった
……というような予備知識はほぼない状態でスーッと到着し、荷物を置いて、30分もしないうちに最初のアート体験、吹きガラス体験に参加しました。
この時点では施設概要も思想もまったくわかっていなかったため、私は観光地によくある吹きガラスの講座を想像していました。でも、最初に説明を受けた時点でなにか様子が違うんです。
まず、ご覧の通りに現役作家でもある先生がずっとつきっきりです。過去私が参加した吹きガラスは「ガラスをぷーっと吹く体験」をする場所で、客が指定の位置に立つとスタッフがどんどんガラスを持ってきてくれる、ある種の流れ作業でした。それでも「ものすごく熱いな」「ガラスってたくさん吹かないとふくらまないな」という貴重な記憶は十分に残っています。その割に工程そのものはあまり理解していませんでした。
今回も最初の段階で完成品を見ながら形、つける色や技法の説明を受けるところまでは一緒でしたが、ここからあとは先生が「なぜなのか」の説明をしてくれていることにまず驚きました。
具体的にいうと、「はーい、この釜は何度です。では、ガラスは何度だと思いますか?」というような観光地的な説明はありません。「今回は何を使って何をする」「どういうことをするとどういう結果になる」「そのためにこういう道具を使い、こういう方法をとる」という「技法の解説」が順を追って詳しく行われるのです。
この時点で私はこのテンションをまだ掴めていません。しかし、体験している子ども本人は敏感に反応し、「なぜ転がすという行為をするのか」「自分はそのためにどう動かねばならないのか」を理解して自身が望む結果に向けてその知識を即座に反映している様子が見て取れます。
あれ?? この体験、ちょっと私が知っていて、想像してた何かと違う。
この予感は続く「インディゴ染め体験」で確信へと変わりました。
これはただの「体験」ではない。タデ科の植物の説明からスタートした
「インディゴ染め体験」は、その場でタオルやTシャツなどを購入しても、自分で染めたいものを持参することも可能です。今回はSDGsの観点から、袖口を泥で汚してしまってもう着られないTシャツを持参したものの、混紡だったため染まるかがわからず、もう1枚持参した綿100%のブラウスも染めることにしました。
これも凡百の染色体験ならば「次に何をしていください」という指示に従って手を動かすのみですが、今回も先生が「インディゴとは」という説明を丁寧に続けてくれています。
日本の藍染で使う藍とは少し違う種類だが、同じタデ科であること。世界中のさまざまなエリアでその土地にあるタデ科の植物が染色に使われており、ミイラを包む布を染めた痕跡もあるため、防腐効果などは古代から知られていたであろうこと。この溶液は何度に温めてあり、どのような方法で温めるのかというポイント。発酵・酸化・還元をうまく利用した染色であること。思うように染めるのはとても難しく、染めてみないとわからない部分があること。どの工程では何を考え、どの点に気を付けることでどのような仕上がりを得られるか。そのためにいま何を具体的にすべきか。注意点は何か。
ムラが出やすい染物ですが、一気に投入してきちんと浸透させること、絞ったあとはしっかりと空気に触れさせることなどの説明を受け、子どもなりに注意深く作業をした結果、もう捨てるしかなかったTシャツがよい感じの1枚に生まれ変わりました。
ちなみに、10gにつき88円で染めることができるため、ホワイトデニムのジャケットを持参して天然インディゴ染めに、という大人の楽しみも可能。一般的な800g程度のジャケットならば約7000円で染められる計算です。染めたいものを持ち込む際は水ですすぎだけを行って干し、洗剤や柔軟剤を落とした状態で持参してください。
陶芸も同様に「作りたいもの」をその場で考え、自ら選んで具体的な形にしていく
2日目に体験した陶芸は、その集大成のようなものでした。先生はガラス体験と同様に現役の陶芸作家の成田さん。インディゴ染めをしている間に同じ部屋でずっと作品を作っていた姿が記憶にあります。
今回は手びねり体験に参加しました。最初にどんなものを作れるか、おおまかな作例の解説を受けるのですが、並んでいる作品を見ながらこの作品がどう作られているのかという説明が大変に詳しい。凡百の「今日はこれを作ります、まずこうしてください」講座ではなく、「どんなことをしたいですか?」「それはできます、これはできません」というカウンセリングから始まるのです。
ここまできて、これはかつて海外留学した際に美術の授業で驚いたことだったと思い出しました。義務教育での日本の美術教育は「今日はみんなで野菜をスケッチします、これがお手本で画材はこれです」という唯一解ありきの横並びでしたが、海外では「この工房を使ってできる美術技法にはこれがあります。エッチングです、転写です、版画です、油性の絵具です、オイルパステルです。では、あとはあなたが1年かけて作る作品を考えてください。先生はあなたの相談に乗ります」という方法なんですね。日本人である私はこのあと何をしていいかわからず指示待ちになってしまった。なるほど、日本は世界から30年遅れてその教育から脱しようとしているんだ。やっと理解できてきた。
ちなみに、ろくろ体験を選ぶと、ほぼ先生がつきっきりで教えてくださるそうです。陶土を3回にわけた場合、1回目は思うようにいきませんが、2回目でまあまあ、3回目でかなり狙った形になるとのこと。試行回数を稼ぐことは大切です。
私は記念品ではなく「日常で使えるもの」を作りたかったため、相談の上で型を使ったお皿を作成しました。子どもはお薄に使えるような抹茶茶碗を作成。素焼きのあとにかける色はこの場で見本から選んで先生にお任せし、約2か月後に完成品が届きます。
▶【後編】体験して見えてきた「子どもの探求学習、親は何をすべきか」ということ。意外にシンプルな結論は…?
≪OTONA SALONE編集長 井一美穂さんの他の記事をチェック!≫
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