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乳がん 北斗晶さんはこれからいくら払うのか?

プレジデントオンライン / 2015年10月28日 8時45分

北斗さんが乳がんを告白したブログで、現在もほぼ毎日記事を更新中。(http://ameblo.jp/hokuto-akira/)

■がん治療は「手術の後」にお金がかかる!

2015年9月23日、元女子プロレスラーでタレントの北斗晶さん(48歳)が乳がんに罹患していることをブログで告白し、翌24日に右乳房全摘手術を受けた。

同日、女優の川島なお美さん(享年54)が、胆管がんのため逝去されたこともあり、各種メディアにおける「がん」関連の報道が増えている。

北斗さんは、ご自分のがん告知を受け、それにともなう身体的、精神的な苦悩や家族への想い、がん検診の必要性など、さまざまなメッセージをブログに綴っている。そのなかにがんとお金に関するコメントも登場している。

「ぶっちゃけ、癌の手術はお金がかかるよ。保険に入ってないと大変な事になっちゃうからね!!!」(2015年9月23日付け「北斗晶オフィシャルブログ」より一部引用)

▼「個別化治療」が進む、乳がん治療―タイプによってさまざま

報道によると、北斗さんは、10月上旬にいったん退院し、月末から再入院して半年間の化学療法に入るという。そして来春には、放射線療法やホルモン療法を行う予定とのこと。

北斗さんとがんとの闘いは始まったばかり。2009年に同じ乳がんの診断を受けた私が言いたいのは、がんとほかの病気との大きな相違点は、手術が治療のほんの入り口にすぎないということである。術後には、がん治療という、長く、出口の見えないトンネルが待ち構えている。

お金の面もそれは同じ。がんの診断確定までの診察や検査の費用や手術・入院の費用以上に、今後の治療スケジュール次第では、費用がかさむ可能性がある。

個別化治療(*)が進んでいる乳がんの治療は、がんの広がりの程度以外に、乳がん細胞が持つ生物学的特徴(ホルモン受容体の発現程度、組織学的異型度、HER2受容体増幅の有無など)や患者自身の女性ホルモンの状況(閉経前・後)といったものとともに非常に細かく分類されている。

*個別化治療…がんの遺伝子の特徴や患者の状態に応じて、最適な治療法を決定すること。オーダーメイド医療、テーラーメイド医療ともいう。

■手術・治療など費用は、3年で178万円

北斗さんが今後どのような治療を受け、どれくらいお金がかかるのか。このテーマで原稿執筆を編集部から依頼されたが、こういったことを単なる憶測で述べるのは、同じ乳がん患者としてやるべきではない(誰だって、自分のことをあれこれ好き勝手に言われるのは嫌なものだろう)。

とはいえ、もし乳がんに罹患した場合、どれくらい費用がかかるのかは、多くの方々の関心事であると思う。そこで、北斗さんと同じステージII B期の乳がん患者Aさんの実例を挙げてご説明しよう(費用一覧は、後述)。

A子さん(45歳)は約3年前に乳がん告知を受けた。

右乳房全摘手術後、化学療法と放射線療法を受け、現在もホルモン療法を続けている。北斗さんと同じくリンパ節廓清を行ったA子さんは、約1年前からリンパ浮腫を発症。定期的に治療に通うが、全額自己負担のため、費用がかさむのが悩みだ。

A子さんが、がん告知前後からかかった費用は約3年間で約178万円。

健康保険などが適用になる手術や再発防止のための化学療法、放射線療法、ホルモン療法や定期検査の費用は約100万円だが、差額ベッド代など実費負担のものが約15万円、治療の副作用を緩和させるための費用や交通費、リンパ浮腫の治療費などは全額自己負担で約63万円かかっている。

このように、病院に支払った医療費以外に、さまざまな費用がかかるのとはA子さんは想像もしなかったという。

たとえば、治療の副作用による脱毛のためのウイッグ(かつら)や帽子の購入費。吐き気や倦怠感、頭痛などを緩和するための漢方薬の費用。再発予防を考えて健康食品やサプリメントの服用などなど。

毎日、野菜ジュースが欠かせなくなり、専用のジューサーも買ったし、主治医から肥満は大敵と言われたので、スポーツジムやヨガにも通った。その費用は、A子さんの毎月の家計をじわじわと圧迫するが、再発・転移を考えると、やめられないという。

なお、一般にがんは早期で発見されれば、再発リスクも低減され、費用負担が軽くなる可能性がある。ただ、その方の症状に合わせて治療を行うので、費用はケースバイケースだ。

第3次対がん総合戦略研究事業「がんの医療経済的な解析を踏まえた患者負担の在り方に関する研究」2013年度報告書(代表/濃沼信夫・東北薬科大学教授)によると、がん患者の平均自己負担額は、ステージI 69.3万円、II 67.2万円、III 90.5万円、IV 114.2万円。ステージIII以降は、明らかに高額化していることがわかる。

■乳がんステージIIB期の「支払一覧」

前出・A子さんが3年間で支払ったのは次の通りだ。

▼A子さん(45歳・会社員/罹患後の現在の年収450万円/既婚・子ども有)の事例

[罹患後3年間にかかった費用]約177万5000円(高額療養費適用後の金額)

約3年前にしこりに気付き、某大学病院を受診。乳がん(右乳房)II B期と診断される。2カ月後、乳房全摘手術を行うため入院(14日間)。リンパ節廓清を行う。術後、抗がん剤、放射線、ホルモン療法をした。また、手術蒔に腋窩リンパ節郭清を受けたため、1年前からリンパ浮腫を発症。月1回リンパ浮腫外来で、リンパドレナージを行う。

【治療等に関するおもな支出】

[1:検査・診断 費用]
マンモグラフィ検査、超音波(エコー)検査、マンモトーム生検、MRI検査など/12万円 → 自己負担3割……《約3万6000円》

[2:入院・手術(14日間)
a. 入院費・手術費 費用/100万円 → 自己負担3割……30万円 → 高額療養費適用後の自己負担(所得区分:一般)……《約8万8000円》
b. 差額ベッド代/1日約1万円×14日間 → 自己負担……《約14万円》
c. 食事代の一部/1食260円×3×14日間 → 自己負担……《約1万1000円》
d. 入院時の諸経費(生活雑貨、パジャマ代など)/実費負担……《約2万円》
e. 入院時の家族にかかった費用(家族の外食費、通院のための交通費など)/実費負担……《約1万円》

[3:術後、化学療法(6カ月間)
a. AC療法(3週ごと4回)+パクリタキセル(毎週12回)/13万円+68万円=81万円 → 自己負担3割……《約24万3000円》
b. 化学療法副作用を緩和費用(ウイッグ、健康食品・サプリメント、漢方薬など)/実費負担……《約22万円》

[4:術後、放射線療法(5週間)
25回照射(週5日×5週間)費用/約47万円 → 自己負担3割……1回約5000円×25回+1万6000円(初回のみ管理費)=《約14万1000円》

[5:術後、ホルモン療法]
a. LH-RHアゴニスト製剤・皮下注射(リュープリン12週ごと2年間)費用/約67万円 → 自己負担3割……《約20万1000円》
b. 抗エストロゲン薬・飲み薬(ノルバデックス5年間内服の場合)費用/約70万円 → 自己負担3割……《約21万円》
c. 定期検査費用(3カ月に1回の視触診・血液検査・超音波検査、年1回のマンモグラフィ検査など、放射線治療後5年間)費用/約24万円 → 自己負担3割……《約7万2000円》

[6:腋窩リンパ浮腫対策]
a. リンパドレナージ(リンパマッサージ)費用/全額自己負担……1回約1万円×12回=《約12万円》
b. リンパ浮腫予防の弾性スリーブ代費用/1着約2万円×2着=4万円 → 自己負担……《約8000円》
*2008年4月から保険適用となり、術後リンパ浮腫の場合は弾性スリーブ・ストッキング代の7割(あるいは9割)が返還(弾性スリーブは1万6000円が上限)。年2回(半年ごと)、1回に2着まで認められる。

[7:交通費など]
いずれも実費負担
a. 通院のための交通費等(3年分)……《約10万円》
b. がんの関連書籍代……《約3万円》
c. 会社や保険会社等に提出する診断書費用など……《約2万5000円》
d. 乳がん用補正下着など……《約10万円》

■乳房再建にはいくらかかるのか?

がんとお金の問題は、かかる治療費だけではない!

ちなみに私の場合、再発防止の治療はホルモン療法のみだが、この約6年間で約330万円かかっている。その約半分が乳房再建費用だ。その当時、人工物再建は保険適用外で、全額自己負担だったためだ。

もし、今後A子さんが乳房再建を行うなら、自家組織再建の場合はおおよそ約30万~60万円。また、自家組織でない場合は、ティッシュエキスパンダー挿入手術(皮膚を拡張)に約10万~20万円かけた後に、シリコンインプラントへと入れ替えるのに別途約30万円がかかる(いずれも3割負担の場合。ただし、高額療養費適用後はさらに軽減可で、70歳未満で年収約370~770万円までの方なら実質的な自己負担は約8万円程度となる)。

そして、がんとお金で考えなければならないのは、がんにかかる治療費(支出)のことばかりではない。がんによって会社や仕事を休んだり、辞めたりした場合の「収入減」の問題もある。

前掲のA子さんにしても罹患前の収入は約600万円あったという。がん患者の就労に関する調査によると、罹患後2~3割の人が退職しているという結果もある。がんによる支出の増加と収入の減少。まさに家計にとってはダブルパンチといえるだろう。

▼女性の罹患率第1位! 乳がんを予防するには?

さて報道では、北斗さんが毎年乳がん検診を受けていたことも大きく取り上げられている。北斗さんは、毎年きちんと検査を受けていたのに、なぜ発見できなかったのかについては、中間期がん(*)の存在やがん検診の見落とし、非常に早いスピードで大きくなるがんのことなどが挙げられている。

*乳がん検診を受けてから次の検診までの間に自覚症状が出現して、発見された乳がんのこと。

いずれも、さもありなん。とくに乳がんはとても診断の難しいがんだそうだ。これまでも全国各地で、乳がんと誤診されたために乳房を切除された医療事故も少なくない。

実際に私も、検診で良性だと言われていたにも関わらず、急に悪性だと告げられた患者さんのお話を何人も耳にしている。

現在、乳がんの対策型検診として推奨されているのは、40歳以上を対象に2年に1回の「マンモグラフィ検査+視触診」である。ただし、年齢に応じてマンモグラフィ検査と超音波検診を併用するなど、定期的に適切な検診を心掛けることが重要である。

そして、検査の見落としを防止し、精度をアップさせるためにも、マンモグラフィ検査を受ける場合は、日本乳がん検診精度管理中央機構の「検診マンモグラフィ読影認定医師」に認定されている医師がいる病院かどうかもチェックしておきたい。

ただし、検診は100%の保障ができるものではない。「検診を受けたから2年間は安心」と思い込まないこと。乳がんは唯一自分で発見できるがんとも言われている。普段から自分の胸をチェックする「自己検診」をしておけば、直径2cm(1円玉サイズ)の早期がんの状態で発見することも不可能ではない。

もし、がんが見つかったとしても、早期に発見でき、適切な治療を行うことができれば、がんは完治する病気だということを覚えておいて欲しい。

(ファイナンシャルプランナー 黒田 尚子)

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