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「非効率でボロボロ」そんな日本郵政との提携を選んだ楽天の本当の狙い

プレジデントオンライン / 2021年3月22日 18時15分

資本提携で合意し、ボード越しにこぶしを合わせる日本郵政の増田寛也社長(右)と楽天の三木谷浩史会長兼社長=2021年3月12日、東京・大手町 - 写真=時事通信フォト

3月12日、楽天が第三者割当増資で2423億円を調達すると発表した。このうち日本郵政が8.32%にあたる約1500億円を出資し、楽天の4位株主になる。経済評論家の加谷珪一氏は「両者の提携は、成功する可能性が高い。日本郵政は経営の合理化が進んでおらず、それが楽天にとっては大きなメリットになる」という――。

■日本郵政と資本提携を行った楽天の狙い

楽天は2021年3月21日、第三者割当増資を行い、日本郵政などから約2400億円を調達すると発表した。

楽天は携帯電話事業に新規参入しており、今後も継続的に巨額投資を実施する必要がある。同社はかつて盤石の財務体質を誇っていたが、直近の自己資本比率は5%まで低下しており、財務基盤の強化が求められていた。今回の資本提携によって、継続的な投資にある程度の道筋を付けたことになる。

同社にとって今回の資本提携には、物流インフラの強化という目的もある。

楽天はECサイトの出店者から出店料を徴収するビジネスモデルであり、基本的に商品の配送は出店者に任せてきた。一方、ライバルのアマゾンは自ら商品を販売しており、時間をかけて自前の物流インフラを構築し、サービスの強化を図っている。

当初は重い先行投資が必要ない分、楽天が有利に事業を展開したが、ネット通販が社会に広く普及し、利用者が求めるサービス水準が高まるにつれて、物流網を自社で管理するアマゾンと楽天のサービス格差が拡大してきた。

楽天は、一時、独自の物流網の構築を試みたものの、あまりうまくいっているとはいえず、アマゾンとの差は縮まっていない。今回、日本郵政と本格的に提携することで、配送センターの共同構築などを通じて、物流システムを高度化できる可能性が見えてきた。

それでは日本郵政にとって、今回の提携にはどんなメリットがあるのだろうか。もっとも大きいのは、低収益に苦しむ事業子会社である日本郵便のテコ入れだろう。

■収益性も低く海外展開にも失敗

日本郵政は2007年に民営化され、8年後の2015年に株式の上場を果たした。だが民営化後のグループ経営はあまりうまくいっていない。このところの世界的な株高で、多少、値を戻したが、上場以降、基本的に同社の株価は下落を続けている。買収した豪州物流企業の業績悪化によって4000億円の損失を計上するなど、期待された海外展開も頓挫している。

資本構成もいびつだ。グループ内には、日本郵便、かんぽ生命保険、ゆうちょ銀行という事業会社があり、日本郵政はその持ち株会社となっているが、かんぽ生命、ゆうちょ銀行が独自に上場し、持株会社とは親子上場の関係になっている。

先進諸外国では利益相反を避けるため基本的に親子上場は許容されないケースがほとんどであり、本来なら日本郵政グループも3社に分割した上で、それぞれが上場すればよい話である。

だが、そうなっていないのは、民営化したとはいえ、ユニバーサルサービス(地域によって格差のない公平なサービス提供)が義務付けられた日本郵便の収益制が低いという特殊事情があるからだ。

■日本郵政が非効率な経営をしているからこそ、楽天にメリットがある

日本郵便は全国で約2万4000カ所の郵便局を運営しているが、郵便事業は近年、急速に縮小している。ゆうパックなどの宅配事業は拡大しているものの、ヤマト、佐川との差は依然として大きい。

日本郵便は、金融商品の販売といった付帯事業を加えることで何とか業績を維持してきたが、2019年にはかんぽ生命が提供する保険商品の不正販売問題が表面化した。強引な商品販売を行った背景には、何としても手数料収入を確保したいという同社の焦りがあったと考えられる。

2016年5月28日、新宿区の郵便局
写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

今回、楽天との提携によって、宅配の取扱量が増えるのは確実であり、加えて各地の郵便局には楽天モバイルの販売カウンターが設置される。これは郵便局がドコモショップやauショップに早変わりするようなものであり、楽天にとっては携帯電話サービスのシェア拡大が、日本郵政にとっては手数料収入の拡大が期待できる。

このように、楽天と日本郵政の資本提携には相互にメリットがあるが、一方で微妙な関係ともいえる。その理由は、日本郵政の経営合理化が進まず、全国に多数の郵便局を維持していることが、皮肉にも楽天にとって大きな魅力となっているからである。

もし日本郵政の経営合理化が進み、郵便局が再編されたり、宅配事業における単独での収益拡大に成功すれば、楽天にとって日本郵政はあまり魅力的な存在ではなくなり、同時に日本郵政にとっても楽天との一体化は足かせになる可能性もある。

だが筆者は、当分の間、楽天と日本郵政のシナジー効果は続くと見ている。その理由は、現時点において日本郵政の経営合理化が実現する可能性は極めて低いからである。

■いまだに圧倒的な影響力を誇る「全国郵便局長会」

日本郵政は、民営化を実現したにもかかわらず、官営だった時代の体質を色濃く残している。その原因のひとつとされているのが全国郵便局長会の存在である。全国郵便局長会は、民営化以前に特定郵便局だった郵便局の局長で構成される団体で、かつては全国特定郵便局長会(全特)という名称だった(全特の呼称は今でも使われている)。

日本の郵便制度は明治時代に整備されたが、明治政府には十分な資金がなく、全国、津々浦々に郵便局を設置する経済的余力がなかった。このため地域の名士などに土地や建物を提供してもらい、郵便業務の取り扱いを委託する形で郵便局網を整備したという経緯があり、これが特定郵便局の前身である。

2万4000カ所ある郵便局のうち4分の3が特定郵便局をルーツとしているので、郵便局の大半がこれに該当することになる。

特定郵便局長は地方の地域の名士が多かったということもあり、地域社会に絶大な影響力を行使してきた。全特は事実上、自民党の集票マシーンとして機能しており、2013年の参院選では全特出身の候補が43万もの票を獲得。比例代表でトップ当選を果たし、組織力の強さを見せつけた。全特は日本郵政の経営にも大きな影響を及ぼしており、2016年には全特出身者が日本郵便の役員に就任している。

全特から経営陣を出すことについては、全特が経営陣に取り込まれるとの危惧が内部から出たとも言われるが、外部から見れば、全特の意向が日本郵政の経営に強く反映されているように見える。その後、全特出身者は役員には就任していないが、大きな影響力を行使できる存在であることは間違いない。

実際、郵便局に課された厳しい販売ノルマを達成するためには、全特の力を借りなければ実現できないとも言われており、日本郵政の経営陣と全特はまさに持ちつ持たれつの関係になっている。

■事実上の世襲も認められてきた特定郵便局長

では、全特はその絶大な政治力を駆使して何を実現しようとしているのだろうか。もっとも大きいのは全国に張り巡らされた郵便局網の維持だろう。

各地の郵便局について、宅配サービス拠点として見た場合でも、金融機関の支店として見た場合でも、その数は過大である。つまり、これほど多くの郵便局が維持されているのは、ユニバーサルサービス維持のためであり、こうした理由から、特に官営時代においてはコストは度外視されてきた。

2020年7月18日、千葉県鋸山の麓にある金谷郵便局
写真=iStock.com/kuremo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuremo

だが今の日本郵政は民営化された営利企業であり、しかも市場に上場し、投資家からか資金を集めている。持続的な利益成長が求められるのは当然であり、郵便局網の再編はそのひとつの方策となり得る。

一方、特定郵便局長は公務員という立場ではあるが、ある種の自営業者でもあり、事実上の世襲が認められてきた(公務員なので、形式的には世襲という形にはなっていない)。当然のことながら、これは特定郵便局を経営する人にとっては大きな利権であり、何としても維持したいと考えるはずだ。

■楽天との資本提携は日本郵政のいびつさに拍車をかける

政府内部でも日本郵政のあり方にはさまざまな意見がある。日本郵政株の売却益は、復興財源として見込まれており、株価の低迷によって高値で売却できないことは、財政当局にとって困った事態である。

だが、すべてを市場原理に任せ、郵便局の維持がままならなくなれば、地域の過疎化に拍車をかけてしまう可能性があり、地方創生という理念に逆行する。

このように複雑な事情が絡み合う形で日本郵政の経営は行われており、一連の利害関係を整理するのは難しい。そして、合理化が進まない日本郵政の体質によって、多数の郵便局が維持されていることは、楽天にとって皮肉にも大きなメリットとなっている。

しかも、楽天との資本提携はこうした日本郵政のいびつなガバナンスに拍車をかける可能性が高い。日本郵政としては楽天に1500億円も出資する以上、資金の行き先である携帯電話事業が軌道に乗り、郵便局の手数料拡大に寄与しなければ意味がない。

加えて、楽天と日本郵政の物流面での一体化が進めば、楽天の方も簡単には関係を解消できなくなる。つまり今回の提携によって楽天と日本郵政は同じ船に乗ってしまったということであり、これはある種の相互依存関係といってよい。ただでさえ複雑だった日本郵政の利害関係者の中に、楽天という民間企業も含まれた格好だ。

先端的で合理的な(はずの)IT企業と、複雑な利害関係を持つ政府系企業の資本提携という奇妙な関係は、人口減少による市場縮小を前に、先行きが不透明になっている日本経済の現状を如実に反映している。

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加谷 珪一(かや・けいいち)
経済評論家
1969年宮城県生まれ。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村証券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。その後独立。中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行うほか、テレビやラジオで解説者やコメンテーターを務める。

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(経済評論家 加谷 珪一)

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