攻撃的、反抗的…職場の「苦手な人」と仕事をしなければならないときに効く"禅の言葉"
プレジデントオンライン / 2021年8月6日 8時15分
■「苦手な人とは?」を考える
「苦手な人」と一口にいっても、いろいろなタイプの人がいます。まず、これを細分化して考えてみましょう。私が思い浮かぶタイプは、次の5つです。
② 怖いと感じている人
③ 過去に嫌なことをされた人
④ 生理的にいやな人
⑤ 高圧的な態度の人
それぞれについて、順に説明しましょう。
■新しいことを始めると反発してくる「可能性を阻む人」
仕事上で自分が何か新しい挑戦をしようとすると、反発したり、反対意見を言ったりして可能性を阻む人がいます。生き方が後ろ向きで、愚痴ばかり言っているから苦手と感じる人も多いでしょう。確かに近くにいると、その人のネガティブな影響を受けてしまうので、できるだけ関わりたくありませんよね。
でもどうしても仕事をしなければいけないとしたら。そのときに大切なのは、自分がいっしょに仕事をすることをちゃんと引き受けて、その人とベストな距離感を自分で決めていくということです。すべては自分次第。これを禅語で「主人公」と言います。
主人公というのは、一般的に物語の中心人物を指しますが、禅の場合は、すべて自分が選択したものとして引き受けて、その中で最大限に輝くということをあらわします。
そもそも会社というのは自分で選んで入っているわけですから、そこを引き受けないと、いつまでも環境のせいにして、成長のチャンスを摘むことになってしまいます。そういう生き方はつらい。ですから、会社に入ったことも、その人と仕事をすることも、まずは自分が引き受けることが大切なのです。
■コミュニケーションは「実験」の繰り返し
距離感をはかるときは、いろいろと実験してみるしかありません。そうすると「いったん持ち上げると、気持ちを察してくれる」「聞くことに徹すれば、本音で話してくれる」など、距離感の最適解が見つかってきます。コミュニケーションに正解はありません。同じシチュエーションでも相手の気分や、こちらの声色や姿勢で変わってきますので、ていねいなコミュニケーションを積み重ねていってほしいですね。
こうした経験が役立つのは、仕事だけでありません。自分の人生を切りひらいていくときも、アンチになる人や可能性を阻む人が出てきますから、仕事を予行練習ととらえるといいでしょうね。
■「自分の無知がさらされる」恐怖
自分自身が「この人は苦手だ」と、単に思い込んでいるケースもあります。もともと人は自分の知らないことを相手が知っていると「自分の無知がさらされる」「自分のポジションが危うくなる」など、恐れの感情がわいてきます。恐れは嫌い、苦手と近い感情ですから、こういった人に出会うと「あっ、苦手」と、ざっくりととらえてしまうのです。これは非常にもったいないことです。質問形式でもいいので、どんどんその人から話を聞き出したほうがいいですね。
本来、誰にとっても世の中は知らないことだらけなのに、現代社会ははったりが必要な場面が多いので、知識が必要と思いすぎている人が多い。でも「これはどういうことですか? 知らないので教えてください」と相手に聞いて、その人がていねいに教えてくれたら、苦手どころか「あの人、最高に面白い!」となるかもしれないのです。
「教えてください」と言って嫌がる人は、あまりいませんから、そもそも気持ちのいいことが起こりやすい。それをせずに苦手と決めつけるのは本当に惜しいことです。ぜひ実験的にトライしてみてください。
■妄想が膨らんで苦手になるケース
「あのときに、あの人からこんなことをされた」という記憶から、苦手になるパターンです。
これは、そもそも事実かどうか怪しい。たとえば「あの人があなたのことを低く評価したらしい」と同僚から聞いたとしても、そこから「あの人は昔から私のことを低く評価している」「あのときも誘われなかった」と考えるのは妄想です。まず、それが事実かどうか、冷静に検証することが第一の解決法になります。
妄想ではなく、約束にすっぽかされた、遅刻したなど、本当に何かされた場合は、約束や時間を守るのが大事と思っている人からすると、自分の中の大事な価値観が裏切られたと感じて苦手になるわけですね。
ただ、これは一回の事件やできごとで「あの人は苦手」と決めつけて、自分から人との関わりを減らしている可能性があります。この場合、過去の出来事を自分の中で再編集するのがおすすめです。
■過去を捉え直す「リチュアル」
具体的には、自分の機嫌がいいタイミングに、そのときの出来事を思い浮かべます。たとえば散歩が好きな人なら、散歩をしているときに、そのときの出来事を思い浮かべると「あれも愛だったんじゃないかな」と、記憶がポジティブに再編集されます。それを何度か繰り返すと、記憶の書き換えが完了し、一人でもんもんと頭を抱え込むこともなくなります。
自分が良い状態のときに、違う捉え方を試みてみると「あんなものの見方をするのは、もうやめよう」と思える。これを「リチュアル」と呼びます。訳すと「お作法」ですね。お坊さんは、いつもリチュアルがあります。お線香をあげて、手を合わせて、お経を読む……そのたびに感謝をするくせがついているのです。
過去を捉え直すことを、例えば散歩や洗顔という心地の良い習慣の中に組み込むことで、ポジティブに物事を捉えることが生活の中に溶け込んでいきます。反対に、落ち込んで自分の状態が悪いときに1人で考えても良い方向には進みませんので避けましょう。
■「生理的にいやな人」にはどう接したらいいか
「コップの持ち方がむかつく」「やることが雑」など、相手の仕草や習慣が単純に嫌いという、ちょっと厄介なパターンです。これは「人はこうあるべき」と完璧主義になっていることが原因ですので、もう少しやわらかく考えて、完璧主義からはなれるといいですね。
日本社会はある程度、マナーがよく、かつ均質化されていますから、ちょっと悪い癖があると、そこが目立つ可能性があります。でも世界中を旅して、いろいろな人を見ると「あの人の癖がいやだと思ったけれど、そんなことを言っている場合じゃないな」ということが見えてきます。今は旅をすることがなかなか難しいですが、映画を観たり、本を読んだりするだけでもいいと思います。その「いや」は、単純に視野が狭くなっていることへの警鐘であることに気づくことができるでしょう。
■「高圧的な人」もいったんは受け入れてみる
高圧的な人や攻撃的な人と仕事をすることはつらいですね。ただそう思っている人の言動も、「もしかしたら自分との相性に原因があるのではないか」と考えていったん引き受けてみてほしいと思います。最初にお伝えした「主人公」です。そこで、ぜひトライしてほしいのが、今まで使ったことのないカードを使ってコミュニケーションをとることです。
たとえば、今まではこのパターンとこのパターンと2枚のカードしか使っていなかったけれど、「感謝から伝える」「相手を尊重する」といったカードは使っていなかった。そういう使っていなかったカードが見つかったら、ぜひ使ってみてほしいのです。
人は知らないうちに相手との相性で言動が決まっている場合があります。自分の言動を変えると、相手の言動が変わる可能性があると知っておいてください。
気を付けたいのは、自分が悪いのではないか、いたらないから攻撃されるのではないか、と自分を責めてしまうケースです。
この場合、恐怖に近い感情が出てきてしまっています。恐怖を感じると、人は冷静でいられなくなります。ですから自分を正常な状態、少しでも楽な状態に戻す、まさに瞑想に近い癒やしの時間を設ける必要があります。
そのうえで、相手に対して自分が感じている恐怖について、素直に表現することが大切です。
■職場でも、「助けを求めるカード」を使っていい
具体的には「私は、こういう感情を抱えていて困っています。この状態をよくするために最善の努力をしますから、どうか助けてください」と相手に素直に助けを求める。職場において「助けを求めるカード」を使ってはいけないと思っている人は多いようですが、決してそんなことはありません。
そのカードを使ってみると、こちらが相手を信頼していることが伝わる可能性がありますし、頼みごとをされて幸せに感じる人も多いと思います。反対に自分を頼ってこないから「なんだ、かわいくないな」と威圧的な態度でパワーバランスを示してくる人もいます。自分をとりつくろわず、素直に伝えることは、とても大事なのです。
実は私自身、過去にこういったパワハラ的な人と仕事をしたことがあります。そのときに怒りで対処する方法もありましたが、それはせず最適な距離感を保ち、これまで絶対に使わなかったカードを使ったことで、結果的に学び合える関係になりました。どんな相手でも、適切に距離をとりながら、対処のカードを繰り出していくことで結果が変わってきますから、あきらめないでほしいですね。私にとって、このときのレッスンはあまりに大きく、今の自分をつくってくれたといっても過言ではありません。
■1つの物事には4つの見方がある
いろいろなパターンをお話ししましたが、最後にお伝えしたいのは、苦手な人と巡り会ったときは、自分の成長のチャンスということです。
禅には「一水四見(いっすいしけん)」という言葉があります。これは一つの水は、四つの見方があるということ。たとえば人間からすると水は飲めるものですが、他の生きものは、全く違うとらえ方をします。天人という天界の空を飛べる生きものなら、水を瑠璃色のガラス板ととらえます。魚からすると、水は住処だし、空気のようなもの。一方、餓鬼という鬼は、火の世界の生きものなので、水とは相いれません。つまり、この言葉は、それぞれがそれぞれの都合でしか、ものごとを見ていないということを意味するのです。
苦手な人と仕事をすることを、運が悪いと捉えるか自分が成長していけるチャンスととらえるかで得られる結果はおのずと変わってきます。「一水四見」を心に留めておくと、どんな環境でも、自分を成長させていくことができるでしょう。
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両足院 副住職
京都「両足院」副住職。両足院で生まれ育ち、3年間の修行を経て僧侶に。アメリカFacebook本社での禅セミナーの開催やフランス、ドイツ、デンマークでの禅指導など、インターナショナルな活動も。7月には禅を暮らしに取り入れるアプリ「InTrip」をリリース。著書に『月曜瞑想』(アスコム)がある。
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(両足院 副住職 伊藤 東凌)
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