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NHK大河ドラマは根本的に間違っている…「鎌倉殿の13人の御家人」が史実としてやったこと

プレジデントオンライン / 2022年7月24日 13時15分

鎌倉幕府2代将軍 源頼家像(画像=建仁寺/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons)

鎌倉幕府初代将軍・源頼朝が亡くなった後、幕府はどのように政治を動かしていたのか。歴史学者の濱田浩一郎さんは「NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、2代将軍・頼家と、13人の有力御家人による権力争いが描かれているが、これは史実と異なる」という――。

■「13人の家臣が集まり、日本で初の合議制をした」は本当か

NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の第27回「鎌倉殿と十三人」(7月17日放送)で、主人公・北条義時をはじめとする御家人13人が集結し、2代将軍・源頼家に「13名でございます」と紹介した。これに対し、頼家は自らの側近衆を紹介。義時らが形成した「13人」を牽制する挙に出た。頼家と有力御家人たちの利害が対立する様子を描いている。

脚本を担当した三谷幸喜さんは、ドラマのPRで作品の意図を次のように書いている。

「『鎌倉殿』とは、鎌倉幕府の将軍のことです。頼朝が死んだあと、2代目の将軍・頼家という若者がおりまして、この頼家が2代目ということもあって、『おやじを超えるぞ!』と力が入りすぎて暴走してしまう。それを止めるために、13人の家臣たちが集まって、これからは合議制で全てを進めよう、と取り決めます。これが、日本の歴史上、初めて合議制で政治が動いたという瞬間で、まさに僕好みの設定です」

鎌倉幕府内の13人の有力御家人(これが、「鎌倉殿の13人」)が、頼家を牽制するために、皆で寄り集まって、会議をし、政治を進めていく。これが、いわゆる「十三人の合議制」なるものだ。

しかし、この合議制は存在しなかったというのが私の考えだ。

■13人の御家人のメンバー

本題に入る前に、13人の有力者は誰なのかを簡単に触れておきたい。

【図表1】鎌倉幕府内の13人の有力御家人

整理してみると、京下りの官人(大江、中原、二階堂、三善)、頼朝と近しい、もしくは縁戚にある武士(時政、義時、比企、安達)、その他、豪族(梶原、足立、八田、三浦、和田)となるであろう。

■頼家の権力を奪っていたわけではない

幕府を開いた源頼朝は、建久10年(1199)1月に突如、死去する。頼朝の後継者は、長男の頼家である。頼朝が亡くなった同じ年の4月、『吾妻鏡』(鎌倉時代の後期に編纂された歴史書)には次のような一文が見える。

「訴訟のことについて、頼家が直接、判決を下すことを停止する。今後、大小のことにおいては、北条時政、同義時、広元、康信、親能、義澄、知家、義盛、能員、盛長、遠元、景時、行政らが相談して決めること。そのほかの者は、訴訟のことを容易に頼家に言上してはならない」(『吾妻鏡』の地の文)と。

この文章は、それこそ、冒頭の三谷さんの言葉のように、頼家の権力を剝奪し、13人の有力御家人が合議によって政治を前に進めようとしたものと解釈されてきた。

しかし『吾妻鏡』の文章をよく見てみると、13人以外の者が「訴訟のことを容易に頼家に言上してはならない」とあるように、頼家の訴訟への介入を全否定したものではない。ただ、頼家に訴訟のことを言上できる対象を13人に限ったというだけの話である。

■訴訟に直接判断を下す頼家

それを証明するかのように『吾妻鏡』には、この記述以降も、源頼家が訴訟に介入する事例が存在するのだ。

有名な事例でいうと、陸奥国葛岡(現在の宮城県大崎市)にある新熊野神社の境相論(所領の境界を巡る紛争)に頼家が「介入」したことだ。神社の者は、地頭の畠山重忠に判決を下してほしいと要望するが、重忠は「神社に贔屓していると思われる」ということで、自分で判断することはできないとして辞退。

この問題は、三善康信を通して、頼家のもとに持ち込まれた。頼家は、差し出された境界付近の絵図を見ると、急に筆をとり、墨で絵図の真ん中に線を引いてしまう。そして、こう言い放つのだ。

「土地の狭い広いは、その人の運不運だと思い諦めよ。わざわざ使者を出して、現地を調べる必要もない。今後、境界争いは、このように結審する。だから、そのつもりでいよ。それがダメだと思うような者は、裁判を起こさないように」と(『吾妻鏡』正治二年=一二〇〇年五月二十八日条)。

頼家の言動が正しいか否かは別にして、彼は力強く、訴訟に介入している。それどころか、「鎌倉殿の13人」の一人、三善康信が頼家に訴訟を持ち込んでいるのだ。

この事例を見ただけでも「頼家の暴走を防ぐために、13人の家臣たちが集まって、これからは合議制で全てを進めようと取り決めた」わけでもないし、そうした実態があったわけでもないことが窺えよう(13人のなかの誰かが頼家に取り次ぎをしている例は見られるが)。

■13人が一堂に会した史実はない

同年6月には、梶原景高(景時の次男)の未亡人の所領を頼家が安堵(あんど)(土地の所有権を承認、保証)している(同書 正治二年六月二十九日条)。

ちなみに、この年の1月に、梶原景時や景高は、幕府の討伐を受け、敗死している。その景高の妻(未亡人)は、自分への処分がどうなるかと怯えていたが、所領が安堵と決まり、胸を撫で下ろしたようだ。これは単なる所領安堵というよりは、政治絡みの案件と言えるだろう。

「十三人の合議制」といわれることから、13人が一堂に会して、談合したように思うかもしれないが、現在のところ、それを示す史料はない。

■実際にあった「合議」の中身

とはいえ、一部のメンバーによる「合議」がなかったわけではもちろんない。

例えば、(頼家は既にこの世にいないが)義時の最大の危機とも言える承久の乱(1221年)の時だ。

同年5月19日、北条政子は御家人たちの前で有名な演説をしている(安達景盛が政子の言葉を代読)。

北条政子
北条政子(作者=菊池容斎/PD-Japan/Wikimedia Commons)

「皆、心を一つにしてよくお聞きなさい。これが今度の最後の命令です。頼朝様の恩は山より高く、海より深いものです。感謝の気持ちは浅いものではないはず。

それなのに、逆臣の告げ口のために、道理の通らない朝廷の命令が出ました。侍としての名誉を守ろうと思う者は、足利秀康や三浦胤義を討ち取って、鎌倉を守りなさい。但し、朝廷側に付きたいと思う者は、今、この場で宣言しなさい」

という有名なものである。

この後、義時の屋敷に北条時房(義時の異母弟)・北条泰時(義時の長男)・大江広元・足利義氏をはじめとする御家人らは、集まり会議が開かれた。

議題は、朝廷軍を関東で迎え討つべきか、それとも上洛して討つかということであった。両論出て、なかなか意見統一できないなか、大江広元が「われらが足柄峠と箱根山の道に関を築き待っていても、長期間となれば、倦んで、それが敗因となるでしょう。運を天に任せ、都に進撃するべきです」という主張をする。

しかし、義時はその段階でも、結論を下していない。京都に進撃すべきか、関東で迎撃するか、2案を携えて、姉の政子のところに向かうのだ。

政子の意見は「上洛しなければ、朝廷軍を破ることはできない」というものだった。それによって、義時は軍勢を上洛させる決意をするのであった。

■あえて史実にないことを描いている

以上、見てきたように、北条一門や有力御家人らが集まって、会議をすることはあったが、いわゆる「鎌倉殿の13人」全員が集まって、合議したとする史料は現時点では存在しない。

よって「鎌倉殿の13人」(十三人の合議制)なるものは存在しなかったと言えよう。

では、なぜ、脚本家の三谷さんは史実にないことを描いたのだろうか。

ご存知の方も多いと思うが、三谷さんは、これまで会議を題材にした作品を手がけてきた。アメリカ映画の名作『十二人の怒れる男』(1957年)のオマージュ作品といわれる映画『12人の優しい日本人』(1991年)は、日本に陪審員制度があったらという架空の設定を基に、12人の陪審員がある殺人容疑者の判決をめぐって議論を繰り広げるコメディである。要は、会議を描いた作品。

また、織田信長死後の後継問題や領地再分配を決めた清洲会議を小説に仕立てたりされている(2012年。2013年に映画化)。これも会議の話である。

よって、会議(合議)作品は、三谷さんの得意分野。先に紹介した「僕好みの設定」という言葉には、これまで会議作品を手がけてきた三谷さんの思いが込められているように感じる。それ故に、あえて、史実にはない、「十三人の合議制」を描くことにしたのではないか。

合議制が大河ドラマのなかではどのように描かれるのか。今のところは分からないが、「鎌倉殿の13人」の面々が会議をする様子も、楽しく描いてくれると期待している。

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濱田 浩一郎(はまだ・こういちろう)
作家
1983年生まれ、兵庫県相生市出身。歴史学者、作家、評論家。姫路日ノ本短期大学・姫路獨協大学講師を経て、現在は大阪観光大学観光学研究所客員研究員。著書に『播磨赤松一族』(新人物往来社)、『超口語訳 方丈記』(彩図社文庫)、『日本人はこうして戦争をしてきた』(青林堂)、『昔とはここまで違う!歴史教科書の新常識』(彩図社)など。近著は『北条義時 鎌倉幕府を乗っ取った武将の真実』(星海社新書)。

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(作家 濱田 浩一郎)

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