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廃業目前だった下請け専業の町工場が"おしゃれブランド"で売り上げ20倍を実現した驚きの手法

プレジデントオンライン / 2022年8月4日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tumsasedgars

商品やサービスのブランド力を高めるにはどうすればよいのか。高千穂大学の永井竜之介准教授は「ブランドづくりで『まるで欧米ブランド』のハロー効果をしたたかに活用することは、有効な戦略の1つだ」という――。

■「モノづくりは得意だが、ブランドづくりは苦手」な日本企業

「モノづくりは得意だが、ブランドづくりは苦手」

これは、多くの日本企業に共通する悩みの種だ。商品やサービスの質を高める「モノづくり」は得意でも、それを大きな価値として広める「ブランドづくり」は苦手にしている。だから、モノは良くても思うように売れない。

ブランドとは、もともと自社商品の目印にすぎなかったが、それが「このブランドのモノは良い」という信頼の証として優れた品質やデザインの目印になり、価値そのものを創り出している。アパレルが良い例で、同じような品質やデザインでも、有力なブランドのロゴマークが入るだけで何千円、ときには何万円も上乗せして支払う顧客が大勢いるという事実は、ブランドの価値を証明している。

■ブランドの価値を高める「ハロー効果」とは

ブランドの価値について考えるとき、キーワードとなるのが「ハロー効果」だ。ハロー効果とは、物事を評価したり判断したりする場面で、目立った特徴に引きずられて、他の特徴の評価・判断が歪められる傾向である。好きな物事や有名な人のことは、客観的に考えれば優れていない部分まで、すべてを良く感じやすい。ブランドで言えば、有名ブランドや高級ブランドだと、品質もデザインもサービスもすべてが優れているように錯覚しやすくなる。ブランドの価値が高まれば高まるほど、ブランドのハロー効果は大きくなる。

ブランドの価値を高め、ハロー効果を大きくできれば、顧客が商品から感じる価値を高めることができる。また、問題や不祥事などのトラブルが起きても、「それでも、このブランドなら信頼できる」と思って顧客であり続けてもらえる。「攻め」の意味でも「守り」の意味でも、ブランドのハロー効果は企業の強力な味方になってくれる。

日本の消費者がハロー効果の影響を特に大きく受ける対象が、欧米ブランドだ。「欧米信仰」は今なお根強く、アパレル・コスメ・ジュエリー・時計・車をはじめ多くの分野で、欧米ブランドはハロー効果を発揮し、「より良い」「よりオシャレ」として価値を高めやすい。

■日本人から絶大な支持を受ける欧米のハロー効果

例えば、「中国では夏にザリガニ料理を食べる」と聞いたら、「ザリガニなんて」と敬遠するだろう。しかし、「スウェーデンなど北欧の夏の定番はザリガニ料理」と聞くと、「意外! 食べてみたい」と興味を持つ人が多いのではないか。実際、スウェーデン発のグローバル企業のイケアでは、毎年、恒例のザリガニフェアが好評だ。他にも、「ヒマワリの種を中国ではおやつに食べている」と聞けば「ヒマワリの種なんて」と否定的に思えるかもしれないが、「ヒマワリの種は、米国でメジャーリーガーが試合中に食べる栄養補助食品」と聞くと、急にスマートな印象を持ちやすくなる。同じ物事でも、欧米のハロー効果があると、私たちの印象は好転しやすい。

■「まるで欧米ブランド」で成功した3つのメイドインジャパン

欧米ブランドは、日本の消費者にとって第一印象が良く、オシャレでスマートな良いものとして受け入れられやすい。ここでは、「まるで欧米ブランド」で常識を覆した3つの「メイドインジャパン」のヒット事例として、マークスアンドウェブ、バルミューダ、サヴァ缶を取り上げる。

アメリカ国旗と自由の女神
写真=iStock.com/narvikk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/narvikk

この3つの事例に共通するのは、「製品力でファンを掴み、ブランド力で広める」という成功ルートだ。いずれも、商品を手に取ってもらう「入口」には、顧客を感動させるほど高い「製品力」がある。メイドインジャパンならではの高い技術力やこだわりで、「目利き」の顧客を唸らせ、味方につける。そして、インフルエンサーの発信力や社会的な追い風も味方につけて商品を広げていく。

そのとき、商品に詳しくない「素人」のライトなユーザー層を取り込む場面で、「まるで欧米ブランド」が大きな効果を発揮する。パッと見の第一印象から「良いモノ」「オシャレなモノ」として納得感を与える「ブランド力」によって、勢い良く普及し、ヒット商品として定着するのだ。実際、3事例とも、ライトなユーザー層は欧米ブランドと錯覚して、日本ブランドとは気づかずに利用している場合が少なくない。

モノづくりの強みを活かすために、ブランドづくりで「まるで欧米ブランド」のハロー効果をしたたかに活用することは、有効な戦略の1つだ。それぞれの事例について詳しく見ていこう。

■事例1 墨田区の町工場発の「マークスアンドウェブ」

自然由来の石鹸やシャンプー、スキンケア用品、化粧品などが人気の「マークスアンドウェブ」は、下請け専業から自社ブランドを成功させ、「まるで欧米ブランド」で町工場の常識を覆したヒット事例だ。

マークスアンドウェブを展開する松山油脂は、1908年に東京都墨田区で創業され、雑貨商に始まり、戦後からはずっと大手の下請けとして固形石鹸を作る町工場を続けてきた。しかし、1980年代以降、大手が低コストの海外製造へシフトを進めると、業績は低迷し、4代目が廃業を視野に入れた頃、後を継いだ5代目の現社長が自社ブランドの立ち上げに踏み切った。

「作る」も「売る」も自ら決められない下請け専業の立場から抜け出すため、自社の強みである釜焚き製法と無添加のモノづくりにこだわり、1995年に初の自社ブランド「Mマークシリーズ」を立ち上げた。100時間をかける釜焚き製法によって天然の保湿成分を保った低刺激の石けんを、ロフトの店頭の販売員へ試供品として配り、「顔を洗える石けん」と伝えて品質を実感してもらった。すると評判を呼び、販売員からバイヤーの手に届き、商品を気に入ったバイヤーからの連絡で取引が実現した。ロフトから東急ハンズ、ナチュラルハウスなど次々に販売を拡大していくことに成功した。

しかし、Mマークシリーズが軌道に乗っても、既存の取引プロセスでは、なかなか小さな町工場としての強みを発揮しにくかった。意思決定や行動の早さを活かし、顧客の声・ニーズを直接感じ取ってすぐに次の商品開発に反映させるためには、新しい売り方が必要だった。そこで、商品が顧客の手に届くまでに卸・小売・販売員などが間に入らない、直営店ビジネスを2000年からスタートした。そのための新ブランドが、自分たちが自信を持って作ったお気に入り(マークス)を広める(ウェブ)という意味を込めた「マークスアンドウェブ」だ。

■欧米ブランドらしさと日本製らしさの二面性がファンの心を掴む

マークスアンドウェブは、自然の草花から抽出した精油をブレンドし、安全で、環境に負荷を与えない、ヨーロッパのハーブ文化への憧れをこめた「まるで欧米ブランド」と言える。パッケージの商品名や説明書きはすべて英語表記で、欧米ブランド流のデザインをまとっている。その一方で、広告・販売のコストを抑え、毎日使える価格で提供するコストパフォーマンスに優れた商品づくりが徹底されている。

欧米ブランドのようにオシャレでありながら、日本製ならではの信頼性と安全性、使いやすさを併せ持つ。その二面性でファンの心を掴んでいった。東京駅前の丸の内ビルディングにわずか1.25坪で出店した1号店が評判を呼ぶと、リピーターを増やし、クチコミでファンを広げた。直営店は全国約80店舗まで拡大し、2021年のグループ全体の売り上げは92億円で、下請け専業から抜け出して以来、売り上げを20倍以上に伸ばす成功を収めている。

■事例2 日本家電の常識を覆した「バルミューダ」

「まるで欧米ブランド」と聞いてパッと思い浮かびやすいヒット事例として、家電ブランドのバルミューダもあげられる。バルミューダは、「まるで欧米ブランド」で日本家電の常識を覆す快進撃を続けている。

2003年に創業し、東京都武蔵野市に本社を構えるバルミューダは、自らを「クリエイティブとテクノロジーの会社」と表し、高品質でオシャレなデザイン家電で人気を集めている。創業時はノートパソコン用の冷却台やデスクライトの開発・販売をしていたが、2009年のリーマン・ショックの苦境を機に、独自の技術で自然の風を再現した扇風機「The GreenFan」を開発して一躍注目を集めた。

世界で1番美味しいトーストが食べられる体験を提供する「The Toaster」、前後だけでなく自由自在に動ける掃除機「The Cleaner」をはじめ、キッチン・空調・オーディオ・照明など商品展開を広げている。基本的には1つの商品に対して「BALMUDA The……」という1モデルのみで、相場を大きく上回る高価格設定が貫かれている。

■「シンプル・イズ・ベスト」の価値が顧客の支持を集める

バルミューダの特徴として、自社工場を持たず国内外の工場に製造委託し、自社は設計やデザイン、ブランディングなどに専念している点がある。そうして生み出す商品は、「顧客にどんな体験を提供できるか」を重視している。だから、「The Toaster」の商品ガイドブックの表紙には、商品ではなく、焼き上がったトーストの写真が採用されている。顧客に届けたい体験を実現するために、「選択と集中」を徹底したモノづくりで、「シンプル・イズ・ベスト」といえる価値を突き詰めた商品を生み出し、顧客に支持されている。

日本の多くの家電メーカーは、商品の開発・改良にあたって多機能化を追い求めやすい。その結果、「いらない機能が沢山あって、値段が高い」という評価を受け、高品質ではなく、過剰品質な商品に陥って失敗するケースが少なくない。それに対してバルミューダは、逆に機能を絞り込み、そこで最高品質を創りあげることに専念している。多機能ではなく絞り込んだ高機能と高デザインで、高価格でも納得して選ばれるオシャレ家電になっているのだ。

家に招いたお客に自慢したくなる、欧米ブランドを彷彿とさせるクールなデザインで、なおかつ日本ならではの高い機能性と細部までこだわり抜いた設計が共存している。デザインと機能性の両立によってバルミューダは成長を続け、創業初年度には600万円だった売り上げを、2021年は約180億円、じつに3000倍にまで飛躍させている。

■事例3 「まるで輸入食品」サヴァ缶

「サヴァ(Ça va?)缶」は、「まるで輸入食品」で従来のサバ缶の常識をひっくり返したヒット事例だ。サバ缶といえば「和風で低価格」が当たり前で、シニア層が好んで食べるものというのが定番イメージだった。それを「洋風で高価格」で、若年層も食べたくなるものとして一新した。

サヴァ缶は、魚のサバと、フランス語の「Ça va?(サヴァ/元気ですか?)」をかけて、被災した岩手から全国へ「元気?」と呼びかけるイメージで名付けた商品だ。東日本大震災で被災した漁業従事者を支援するため、被災地の食に関わる産業支援を目的に設立された「東の食の会」、岩手県の特産品を販売する岩手県産、食品製造販売を手掛ける岩手缶詰の三者の手で生み出された。

復興支援のため、漁獲量や単価が安定しているサバの缶詰商品を全国に販売することを「東の食の会」が提案したことをきっかけに、商品開発がスタートした。商品の核になったのは、地元の美味しいサバを、「安くお得に」ではなく、しっかりと高い付加価値の商品にする方針だ。作り手たちの支援となるためには、品質に見合った高い価値を創り、利益をもたらす必要があったためである。高価格でも、食べた人に満足してもらえれば、受け入れてもらえると考え、ヨーロッパで広く食べられている「イワシの油漬け」にならい、「サバのオリーブ油漬け」という高品質・高価格の商品を開発した。

魚のイラスト
写真=iStock.com/Stefan Nikolic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Stefan Nikolic

■ド派手な海外風デザインと洋風の味付けがクチコミで広がりヒット

和風の味付けで100円程度の安価なイメージのサバ缶を、洋風の味付けで360円という思い切った高価格、そして、まるで輸入食品に見えるド派手なパッケージの尖った海外風デザインの商品が作られた。周囲から「こんなの売れるわけがない」と何度も言われ、不安視する声は多かったという。実際、発売から数カ月は販売に苦戦したが、食べてみた顧客の評価は高く、じわじわとクチコミで広がり、さらに、女性誌やTVメディアの「サバ缶」ブームの波に乗ることでヒットしていった。

栄養価が高くて美味しく、病気の予防や体質の改善にも有効で、健康や美容に効果的な栄養食品としてサバ缶が注目を集め、魚介類缶詰の市場で不動のトップだったツナ缶の販売数を追い越すほどのブームとなった。その追い風も受け、健康志向が高く、こだわりを持った若年層を取り込むことに成功した。輸入食品のように見えて、岩手県産のサバを使ったメイドインジャパンのサヴァ缶は、そのままで食べても美味しく、アレンジレシピも豊富に展開できると人気だ。復興支援の様々な取り組みが、継続させる難しさに直面する中、サヴァ缶は、2013年の発売から販売数1000万缶を突破し、ヒット商品として定着している。

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永井 竜之介(ながい・りゅうのすけ)
高千穂大学商学部准教授
1986年生まれ。専門はマーケティング戦略、消費者行動、イノベーション。産学官連携活動、企業団体支援、企業との共同研究および企業研修などのマーケティングとイノベーションに関わる幅広い活動に従事。主な著書に『マーケティングの鬼100則』(ASUKA BUSINESS)、『嫉妬を今すぐ行動力に変える科学的トレーニング』(秀和システム)、『リープ・マーケティング 中国ベンチャーに学ぶ新時代の「広め方」』(イースト・プレス)などがある。

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(高千穂大学商学部准教授 永井 竜之介)

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