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失明するのを待っているだけ…「とりあえず眼圧を下げる」そんな治療に頼る日本の眼科は危険すぎる【2022編集部セレクション】

プレジデントオンライン / 2022年10月13日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Xesai

2022年上半期(1月~6月)にプレジデントオンラインで配信した人気記事から、いま読み直したい「編集部セレクション」をお届けします――。(初公開日:2022年6月28日)
目の健康を保つには、なにが重要か。眼科医の深作秀春さんは「日本の失明原因の第1位は緑内障だ。緑内障は、一般に“眼圧の高さ”だけが原因だと信じられ、国内ではそれを下げる治療ばかりが行われている。実際には患者の7割が正常値におさまっていて、適切な治療を受けられていない例も多い」という――。

※本稿は、深作秀春『緑内障の真実』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

■緑内障の原因は本当に“眼圧”だけなのか

まずは、緑内障の正体について考えましょう。

正直に言えば、答えはまだ分かっていません。「そんなことはないだろう、いつも“眼圧が高いから”などと言われ、多くの薬を出されていたのに」という声が聞こえてきそうです。

そうですね、私も眼科医として最初に緑内障を勉強したときには、常に目の圧である眼圧を測定して、治療効果があったかどうかを判断していました。以前から現在に至るまで、「緑内障とは、眼圧が上昇するため、視野や視力に異常の起こる病気である」と信じられてきています。

■そもそも“目安の数値”が日本人に合わせたものではない

長い経験で分かってきたことは、眼圧が高いと、視神経という「見るための脳神経」が障害される傾向があるのは間違いないということです。ただ、患者それぞれに、どの程度の眼圧なら視神経の障害を止められるかは、非常に難しい課題なのです。

また目安としての正常眼圧の概念は、戦後すぐの頃に、ドイツで提唱されました。眼圧の測り方としては、重りで目を押して「角膜の歪み」を測る方法で測定されました。この際に、目の見え方が正常な方の歪みを測定して、「正常眼圧」とされたのです。ちなみに正常眼圧は、10mmHgから20mmHgとされています。

ですから、眼科外来にかかると、眼圧計で目の圧を測られて、高いか低いかを必ず見られます。でも、「はじめに」でも述べたように、この正常眼圧は、角膜の厚みが600ミクロンほどのドイツ人で眼圧測定をして求められた値です。一方で、日本人の角膜は550ミクロンほどと薄いため、日本人の眼圧は低く測られます。500ミクロン以下と、さらに薄い角膜の方もいます。

そうなると、角膜の厚みに合わせた眼圧測定値の補正が必要です。薄い角膜の場合には、測定値に値をプラスします。換算表では角膜厚に応じて、445ミクロンでプラス7mmHg、490ミクロンでプラス4mmHg、515ミクロンでプラス2mmHgなどと換算されます。つまり、角膜の薄い日本人にとっての「正常眼圧」は、もっと低くあるべきことが分かります。

■血流の悪さ、強度近視、遠視も原因に…

ところがさらに、緑内障が「眼圧」だけが理由で起きているのではないことも分かってきました。

特に、私がドイツで学んでいた時には、視神経の周りの血流について多くの議論をしたものです。明らかになったのは、「血流が悪い」ということによっても、緑内障につながる視神経障害をきたすということです。

さらに、長い眼軸による強度近視や、逆に短い眼軸による遠視眼(図表1)でも、緑内障が起こることもよく分かってきました。

【図表1】眼軸と近視・遠視
出典=『緑内障の真実』

多くの電子顕微鏡での細胞レベルの論文により、強度近視では「視神経の機械的圧迫」が篩状板(しじょうばん)(図表2)(目の中と外の境にある視神経が通る組織の周りの硬い組織)で起こることで視神経障害が起き、緑内障となることも分かってきています。

【図表2】篩状板
出典=『緑内障の真実』

この篩状板による圧迫は、血流障害もきたします。つまり、視神経への「機械的圧迫」と、栄養や酸素を供給するための「血流の低下」が同時に起きていることが推測されます。

■近視が緑内障を引き起こすメカニズムとは…

強度近視で多いこの篩状板での圧迫は、眼球が近視化時に伸びることによる篩状板の構造変化が原因でしょう。

多くの方は、近視の本体を誤解されています。近視が進むとは、目の長さが長くなることで起きます。この目の長さが伸びる過程で、眼球の壁を通る視神経が、ちょうど狭くなっている篩状板という眼球強膜とつながっている硬いリング状の部分を歪ませ変形させます。これにより、視神経乳頭部分の組織血流が悪くなる(図表3)のです。

【図表3】強度近視では視神経(篩状板)が圧迫される
出典=『緑内障の真実』

また、視神経周りの軸索絞扼障害や、軸索流の低下も起きて、そのもとである網膜視神経節細胞が死に、視力低下や視野欠損が起きます。ですから、強度近視は緑内障を起こしやすいのです。

20歳を過ぎれば、通常、近視への変化は止まります。しかし、20歳を過ぎても近視がどんどん進むとしたならば、それは「強度近視」という病気なのです。

■原因は子供時代、充分に浴びなかった“紫外線”にあった

現在、世界的に目の近視化が強まって、強度近視の方が増えています。

この原因の多くが、子ども時代に太陽光を十分に浴びないからだろうと推測されています。子ども時代に太陽光を浴びる機会が少ないと、目の硬さに貢献する膠原線維が細いままなのです。

ですから、子どもの将来の強度近視化を防ぎたいならば、小さい頃から太陽の下で十分に遊ばせたり、屋外のスポーツに参加させることなどが重要です。太陽光に含まれる紫外線や青紫の可視光線は、目の中の膠原線維を太くして、互いにくっつけ、眼球が硬くなる引き金になります。

さらに、20歳を過ぎても眼球が伸びて強度近視化するのは、目の膠原線維の強度が弱くて柔らかい一方、眼圧は相対的に高いために、柔らかい眼球が眼圧により伸びていって、近視化が進むのです。

ですから、強度近視の方は、繰り返しになりますが、自然の太陽光での紫外線を浴びることと、早期から緑内障用の点眼治療をして、眼圧を下げることが大切です。

強度近視は緑内障につながると述べました。軽い段階で緑内障を診断できれば、緑内障治療薬で眼圧を下げて、眼軸が伸びる強度近視への変化も予防できます。この意味でも、緑内障の早期発見、早期治療は、じつに重要なことなのです。

■「最初にすべきは白内障手術」なのはなぜなのか

さて、近視の反対の遠視眼では、眼軸が短くなっています。このために水晶体が虹彩を押し上げて、目の水の流れる隅角を狭くします(図表4)。

【図表4】近視(広隅角)と遠視(狭隅角)
出典=『緑内障の真実』

このように狭隅角を招く遠視眼では、夜間などは、瞳孔が暗さで拡大することで、虹彩が周辺に寄り、隅角がより狭くなります。すると、ますます目の中の水の流れが悪くなります。

水の流れの抵抗が高くなると、線維柱帯を通ってシュレム管、さらに静脈へと至る水の流れが阻害され、眼圧が高くなります(図表5)。この高眼圧によって緑内障も起こしやすいのです。

【図表5】目の中の水(房水)の流れ
出典=『緑内障の真実』

他方で、遠視眼の狭隅角は、水晶体、特に白内障が原因となることが多くあります。このため、遠視眼での緑内障は、多くが白内障手術により解消されます。

じつは、「緑内障治療において、まずは最初にすべきは白内障手術である」という宣言が、国際眼科学会で何年も前にされました。遠視眼での緑内障は典型的な例ですが、白内障が緑内障の原因の多くにもなりかねないのです。

■白内障手術を早く受けないと手遅れになる患者が多い

特に水晶体は、爪や髪の毛と同じ外胚葉系由来の細胞なので、生涯成長し、大きくなります。ですから、70歳以上の方では、白内障手術をしないで放置していると、白内障が成長して虹彩を上に持ち上げるために、水の流れる場所である隅角が狭くなります(図表6)。

【図表6】白内障の進行と隅角の変化
出典=『緑内障の真実』

このため眼圧が上がり、緑内障となるのです。

この結果、白内障で見えなくなる前に、緑内障で目がだめになる方が多くいます。外来でよく経験するのですが、患者にすれば、「そろそろ見えなくなってきたので、白内障手術をしてほしい」と当院を訪れます。

しかし、私が診ると、患者の目が緑内障の末期である、という例が多くあるのです。緑内障治療のことも考えると、白内障も早く見つけて、早めの白内障手術を施行したほうが良いのです。

この際に、視野が狭くなっているならば、同じ軸上で全ての距離がよく見えるような「多焦点レンズ」を選ぶのが最良です。

視野が狭くなっているので、単焦点レンズを入れた後に遠近両用メガネなど作っても、視野が欠けてしまい、遠近両用メガネでは狭い視野となってメガネの効果がなくなります。多焦点レンズであれば、視野が狭くなっても、残った中心部の視野で、ほぼ全ての距離がよく見えます。

■7割の患者は正常値の範囲内なのに…

日本においても岐阜県多治見市での疫学調査により、緑内障患者のなんと7割が、正常眼圧とされる10~20mmHgの範囲であったとのことです。

つまり、眼圧が高くて視神経障害が起きるのは3割で、残りの7割の緑内障は、主に眼圧ではない他の原因で起きていると、日本でも研究者は示唆しているのです。

深作秀春『緑内障の真実』(光文社新書)
深作秀春『緑内障の真実』(光文社新書)

ところが、緑内障治療現場では、眼圧を何とか下げようとするだけで、他の要素の治療など考えもしません。さらに末期となった患者にさえ、点眼薬による不十分な眼圧降下を行い、視野がどんどん欠けていくのに、ただ待っているだけという例も多いのです。

もっといえば、分からないことには蓋をしたまま、「緑内障治療といえば、とりあえず眼圧を下げる点眼薬を出しておき、失明に至るまでの期間を長くしていればいい」という状況なのが、日本の現状なのです。

緑内障とは、シンプルにいえば、「様々な原因で起こる視神経障害を含む病気の集まりである症候群」であるということです。つまり、緑内障を単純に考えてはいけないということです。

単に「緑内障にどのような点眼薬を与えるか」といった議論や本も見かけますが、そんな単純化をすることが、日本では緑内障の治療がまともにできない原因となっているのではないでしょうか。

■軽症も含めると、罹患者は推定1000万人以上

この観点からいえば、単純に点眼で対応しているだけでは、視神経障害を抑えることなどできない方が多いのは当たり前です。眼圧の基準でさえいくつもあるのですから、「単純に点眼薬に長い間頼っているだけでは、失明するのが当たり前」だといえます。

先ほども書きましたように、視神経の機械的圧迫が確認された強度近視群では、強度近視にならないようにする治療も緑内障の治療ですし、目の水の流れが悪くなる遠視眼の目では、白内障が緑内障の最も大きな原因です。早めの白内障手術だけで救える緑内障もあるのです。

日本の単純な統計によってさえ、少なくとも600万人以上の患者がいる病気が緑内障です。これは重症の患者数です。しかし、緑内障は軽症から治療することが最も重要です。

この軽症者も数に入れ、さらに高齢化が進んでいることを考えると、日本の緑内障患者数は、1000万人以上はいると思っています。そして、この患者たちが、早期に治療を開始すれば、100歳にわたる人生でも、良い視機能を全うできると思っています。

しょせんは失明への時間を延ばす治療の補助にすぎない点眼薬でも、早期に開始することで、大きな意味を持ちます。早期に発見し、早期に治療することが、緑内障では最も重要なのです。

このためには、皆さんが正しい緑内障の知識を持ち、積極的に「自分で治すんだ」という意思を持って、治療に参加することが重要なのです。あなたの緑内障への意識を変えてください。

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深作 秀春(ふかさく・ひではる)
深作眼科院長 眼科外科医
1953年神奈川県生まれ。運輸省航空大学校を経て、国立滋賀医科大学卒業。横浜市立大学附属病院、昭和大学藤が丘病院などを経て、1988年深作眼科を開院。これまでに20万件以上の手術を経験。アメリカ白内障屈折矯正手術学会(ASCRS)にて常任理事、ASCRS最高賞を20回受賞。世界最高の眼科外科医を賞するクリチンガー・アワード受賞。『視力を失わない生き方 日本の眼科医療は間違いだらけ』『緑内障の真実』(以上、光文社新書)、『世界最高医が教える 目がよくなる32の方法』(ダイヤモンド社)、『視力を失わないために今すぐできること』(主婦の友社)など著書多数。

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(深作眼科院長 眼科外科医 深作 秀春)

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