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なぜ中国共産党は習近平の暴走を止めないのか…中国が「世界の嫌われ者」に転落した根本原因

プレジデントオンライン / 2022年10月21日 11時15分

2022年10月18日、第20回党大会主席団第2回会議を主宰する習近平氏。 - 写真=中国通信/時事通信フォト

■独裁体制の成功例とも言われてきた「10年交代制」だが…

中国の習近平総書記は、一体いつまでトップで居続けるつもりなのか。10月16日、5年に一度の中国共産党の党大会が始まった。ここでは党の最高指導部である政治局常務委員(現在7人)の人事が行われる。

中国共産党は1981年の「歴史決議」で、毛沢東時代の反省を踏まえ、「徳と才を兼ね備えた指導者らによる集団指導体制を必ず樹立し、いかなる個人崇拝も禁止する」「指導者・幹部の事実上の終身制を撤廃する」と掲げていた。

ところが、10月11日に採択された41年ぶりの「歴史決議」には、「個人崇拝禁止」や「集団指導」の文言は記されなかった。そして、今回の党大会で、習近平総書記の異例の3期目が決まる見通しだ。このまま終身となる可能性もある。

習近平総書記の独裁体制を強める中国はこれからどうなるのか。神戸大学の梶谷懐教授(中国経済)、神戸大学の李昊(りこう)講師、中国政治ブロガーの水彩画氏の3人に聞いた。

■3期目だけでなく4期目までが確実視されている

——日本のメディアでは「党大会の注目点は習近平総書記が3期目に突入するかどうか」と言われてきましたが、専門家の間ではかなり前から確定的と見られてきました。

【李昊(神戸大学講師)】2018年3月の憲法改正で国家主席の任期制限が撤廃されました。この時点でほぼ確実とみられていました。3期目どころか、4期目、つまり少なくとも2032年までは習近平トップでいくだろうというムードが濃厚です。もちろん、予想外の事態は起きるものではありますが、アクシデントがなければそうなるでしょう。

【水彩画(中国政治ブロガー)】ロシアがプーチン大統領とメドヴェージェフ首相(当時)を入れ替えたように、習近平総書記と李克強首相が入れ替わるという方法で体裁を取り繕うかなとも思いましたが、長期政権そのものは既定路線でしたよね。

——メディアでは「反対勢力の巻き返しがあるはず。水面下では激しい争いが……」的な読み解き方がされる一方で、専門家の間では「中国共産党が一致団結して強いリーダーを作ろうとした結果の今」という見方も有力と聞きました。

■沈黙を守りアシストに徹した胡錦濤

【李昊】国がさまざまな問題を抱えている時に、「現状を変えるために強いリーダーが欲しい」という空気が生まれるのは中国だけではありません。日本の第2次安倍晋三政権もそうしたムードに後押しされて、官邸への権力集中という政治体制の組み替えへとつながりました。

習近平総書記がここまでの権力を手にしたのは彼個人の力ではなく、中国共産党内部からの強い支持があったためだと考えています。その中でももっとも決定的な支持者となったのは胡錦濤前総書記です。胡錦濤は2002年に総書記となりますが、江沢民元総書記の介入により権力の掌握が進まず苦労しました。

胡錦濤氏
胡錦濤氏(写真=Dilma Rousseff/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons)

2012年の党大会のあと、胡錦濤は全ての役職を習近平に譲り、沈黙を守りました。表だってはもちろんのこと、リークや噂話のレベルでも体制批判の動きを一切見せていません。習近平にとってはなによりもありがたいアシストだったはずです。

【水彩画】胡錦濤は引退時に「裸退」とやゆされました。江沢民は総書記からは退いたものの、中央政治局常務委員に子飼いを複数送り込み、いわば院政を敷いていました。今度は胡錦濤が院政を敷く番だと思ったらすべてのポストから退き裸で辞めていった、なんたる甲斐性なしか、と嘲笑されたわけです。

ただ、今振り返れば、習近平をアシストするためだったと言われれば納得できる部分はあります。胡錦濤がどう考えていたかはともかくとして、少なくとも習近平にとってはプラスに働いたことは間違いないでしょう。

そもそも総書記が10年で交代するというルールをきっちり守ったのは胡錦濤だけ。江沢民は天安門事件後で失脚した趙紫陽の後を引き継いだ期間があるので、13年もの間、総書記の座にありました。その意味では2期10年のルールは絶対的なものではなく、状況によって変えうるものであったわけです。

■習近平によって中国は変えられてしまったのか

【梶谷懐(神戸大学教授)】英語圏のメディアでは「習近平のパーソナリティーによって中国はがらりと変わり、独裁が強化された」との論調が主流ですが、ややミスリーディングではないではないでしょうか。まず江沢民、胡錦濤、習近平という三代の総書記の方針、政策には、大きな共通項があります。

その共通項とは、中国共産党への「新しい社会階層の取り込み」です。市場経済導入後に新たに生まれた企業家、中産層、自営業者などを中国共産党に取り込んでいくことが必要でした。江沢民は企業家の取り込みを進め、胡錦濤は農民の税金免除や社会保障など再分配強化で、発展から取り残された人々の取り込みを図ったわけです。

習近平も市場の効率を高める改革を進めており、そこは前政権からの継続性があります。異なるのは、富裕層を叩く「共同富裕」で庶民の不満を和らげようという姿勢が目立つところでしょう。それぞれアプローチの違いはあれど、目指す目的は共通している。だから胡錦濤も習近平の邪魔をしなかったのではないでしょうか。

——胡錦濤ら共産党関係者が望んだ結果が今の習近平だと。

【李昊】そこが難しいところです。当初は「強いリーダーが必要だ」で習近平の権威強化に合意があったとしても、その合意が今も続いているかはわかりません。いったん強力なリーダーが誕生してしまえば、その後に後悔しても枷はつけられないわけです。2018年の憲法改正の時点で、こんなはずじゃなかったと後悔した共産党関係者もいたのでは。

■大切なことは大量の会議ではなく、休暇中の面会で決まる

——素人にはさっぱりわからないのが、中国の強いリーダーってどう決まるのかという点です。選挙があるわけでもなければ、クーデターがあったわけでもない。どういう理屈で「いまは反論できる」「いまは言えない」と決まるんでしょうか?

【李昊】中国共産党は成立以来、革命政党らしく秘密主義を貫いています。なので、その意志決定のメカニズムは根本的にはわからない、と言わざるを得ません。ただ回顧録や流出した記録などから一部は推察できます。

中国共産党は大の会議好きで、大量の会議を開催しています。会議での合意が正式決定となるわけですが、会議前にひたすら根回しする時間があるわけです。そこで落としどころが決まり、あるいは反対はできないという雰囲気が醸成されていく。

有名な根回しの場としては北戴河会議があります。会議と名前がついていますが、実際には避暑地である河北省北戴河に、中国共産党の高官や引退幹部が休暇のために集まるのです。ここで一緒に散歩したり、個別に面会したりしながら、意見交換を重ねます。このような非公式な会合がその後の政治決定を大きく左右しうるのです。

■自民党とはまったく違う中国共産党の「派閥事情」

【水彩画】胡耀邦元総書記を辞めさせた会議とか、本当にそんな感じだったようで、もう辞めさせる同意はできていて会議を開いたら出席者みんなでガンガン詰めて追い込んでいったという。総書記解任は会議で決まったわけですが、その前の根回しですでにルートは設定されていたわけです。

天安門
写真=iStock.com/kool99
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kool99

——会社で言うと、「大事な話は全部、喫煙所で決まる」ですね。また、よく報じられているのが派閥です。高級官僚の子供たちで作る太子党、上海で勤務経験のある上海閥、共産主義青年団出身者の団派などがよく取り上げられます。最終的に会議で決定するのであれば、いくら根回ししても、所属メンバー数が多い派閥の意見が通るのでは?

【李昊】日本人がぱっとイメージする派閥、たとえば自民党の派閥と中国共産党の派閥とはまったく別物なんですね。自民党の派閥は誰がどのグループに属しているかは明確にされます。ところが中国の派閥は誰がメンバーなのかはわからない。

「あの人は上海でのキャリアがあるからきっと上海閥なのだろう」と、周囲が推測しているだけなのです。下手をすると、本人はその派閥のメンバーと全く交流がないということもあるわけです。

——周囲からは「××派」と思われていても、本人はハテナという状況がある、と。

■複数の派閥とつながりがあるため、誰と親密なのかが見えにくい

【李昊】複数の派閥とつながりを持つこともあります。韓正副首相、中央政治局常務委員はまさにその典型です。江沢民の地盤とされる上海でキャリアを積んでいるという意味では、江沢民と縁があります。同時に、共産主義青年団の出身で、共青団の上海市委員会のトップまで務めています。そして習近平が上海市トップだった時にナンバー2として支えました。上海閥、団派、習近平派と3つもレッテルを貼る要素があるわけです。実際に誰と親しいのかは外からだとよくわからない。

江沢民氏
江沢民氏(写真=Kremlin.ru/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons)

【水彩画】最終的にどの派閥なのだとは言い切れないですし、政治的な力関係が変われば、かつての縁を頼って古なじみとの関係強化といった裏切りもありえるし、よくわからない世界ですよね。

——表に見えない、関係構築や合意作りの関係強化や意思疎通が大事なんですね。

■習近平は剛腕の独裁者ではなく「人造皇帝」である

——「習近平が豪腕を発揮し反対勢力を一掃。皇帝のような独裁体制を確立へ」という、ありがちな見立ては間違っていて、「やっぱリーダーは強くないと……みんなの支持で作られた人造皇帝・習近平が爆誕」と理解するべき、ということはわかりました。それでは、その作られた最強リーダーはこの10年でどんな成果を残せたのか、というのが気になります。

拙著『なぜ、習近平は激怒したのか』(祥伝社新書、2015年)で詳述しましたが、胡錦濤政権末期はいわゆるネット世論の突き上げがすさまじく、労働者や農民もネットを利用することで、大々的なデモや集会を展開できるようになりました。こうしたネット世論を鎮圧したというのは成果かもしれません。ただし、今の米中関係の悪化やコロナ禍に対応しきれずの経済減速など、課題もあります。「最強リーダー」を作った甲斐はあったのでしょうか。

【李昊】今の時点で評価することは難しいのですが、中国共産党内部からは「国力を高め、国際社会での存在感を高めた」「新疆ウイグル自治区と香港を安定させた」「経済を発展させた」というあたりはポジティブに評価されているのではないでしょうか。一方でネガティブ要素は今後の経済です。足元はだいぶ怪しくなっていますから。

——新疆、香港は中国外から見るとマイナス要素に思えますが、中国共産党の評価では加点項目なんですね。

【李昊】中国国民や中国共産党の幹部たちがどう考えているのかというのが大事です。彼らの評価もおおむねポジティブなように見えます。海外から見ると、言論の自由が大きく後退したのがマイナスに見えますが、当の中国国民はこの点を問題視している人は多くないように思います。

■不動産リスクで1億4000万人いる富裕層の生活が破綻する可能性も

【李昊】ちなみに客観的に見ても、ナショナリズムのコントロールは大きく評価できるポイントではないでしょうか。習近平政権下で愛国主義が高まったと言われますが、その一方では歴史問題で日本と衝突することはなくなりましたし、暴力的な反日デモも起きていません。政権にとっても厄介なナショナリズムの暴発について歯止めが利くようになったのは一つのポイントです。

【梶谷】ただ、現時点でその大きさを推し量るのは難しいですが、経済の構造上、過去の成功をも吹き飛ばしかねないリスクが忍び寄っているのも事実です。

『21世紀の資本』(みすず書房、2014年)が世界的なベストセラーとなったトマ・ピケティの新刊『イデオロギーと資本』では中国の格差拡大を指摘しています。興味深いのは資産の上位10%と下位10%の比較ではアメリカ並の超格差社会になっているのに、上位下位1%の比較ではそこまで格差は開いていない点です。

つまり、超富裕層が資産を独占しているというよりも、上位10%(14億人の10%は1億4000万人!)という、かなりボリュームのある層の資産が増えて格差の原因になっているわけです。

この上位10%とはつまりは大都市でマンションを持っている人々です。中国の不動産は2003年頃から上昇が始まり、その後も経済成長率をやや上回る程度の安定したペースで値上がりが続きました。大都市のマンションを手に入れられれば、中国の経済成長の恩恵を受けることができ、築いた資産によって老後も安泰。一方でマンションを持たなければ取り残されるという二極化が起きています。

マンションが林立する中国の都市
写真=iStock.com/CHUNYIP WONG
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CHUNYIP WONG

この格差の解消も難しいですが、直近では不動産価格の先行きが不透明化しつつあります。もし不動産価格が下落するようなこともあれば、上位10%の人々のライフプランがめちゃくちゃになってしまう。次の5年はこのリスクに直面します。

■「マンションは投機対象ではない」をスローガンに掲げてきたが…

——「マンションは投機対象ではなく住むためにある」をスローガンに大都市の不動産価格抑制を目指してきたのは習近平政権です。それで本当に価格が下がりそうになったらピンチっていうのはちょっと……。また、大都市ではなく郊外や田舎の都市化を進めたのも売れないマンション在庫につながっています。

【梶谷】大都市への人口集中の抑止、地方の新型都市化という政策は失敗だったと評価せざるを得ないでしょう。50万人から100万人規模の都市に人口を集めようとはしたものの、サービス業がなかなか発展せずに、都市のメリットを発揮できていません。

地方、郊外の新型都市建設とほぼ同時期に提唱されたのが一帯一路です。中国が世界の新秩序を作ろうとしているといった受け止められ方をしている一帯一路ですが、根本は経済的要因に根差しています。中国国内の過剰な資本、生産能力を大都市に集中させていてはいけない。そこで別の出口として、地方や郊外の都市化とともに、海外のインフラ建設に乗りだしたのです。

■肝いりの「一帯一路」もフェードアウトしつつある

【梶谷】しかし、この一帯一路もすでに尻すぼみです。というのも一帯一路が提唱された初期は人民元がドルに対して高くなっていた時期で、世界から中国にマネーが流れ込む資本過剰の状況にありました。しかし今のトレンドは元安に変わり、むしろ資本流出を心配しなくてはならない状況です。さらに長期的に考えても、人口減少に伴う貯蓄率の低下によって資本はむしろ縮小へと向かう。

さらに「途上国を苦しめる債務の罠だ」「国際社会の秩序を変えようとしている」という批判が寄せられたことは、中国政府にとっては思いも寄らぬ逆風だったのではないでしょうか。実は習近平総書記も最近では一帯一路という言葉をあまり使わないようになり、徐々にフェードアウトを目指しているように見えます。

——3人のお話を聞いて強引にまとめてみます。「統治」「経済」「外交」の3要素で評価すると、統治は○、経済は先行き不安の△、外交は国際的地位を高めたものの中国脅威論の台頭を招いたという意味で△といったところでしょうか。

「強いリーダーを作り出す」という中国共産党の大胆な賭け、それが果たしてリスクに見合うだけの収穫をもたらしたのかが問われています。

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高口 康太(たかぐち・こうた)
ジャーナリスト/千葉大学客員准教授
1976年生まれ。千葉県出身。千葉大学人文社会科学研究科博士課程単位取得退学。中国経済、中国企業、在日中国人社会を中心に『週刊ダイヤモンド』『Wedge』『ニューズウィーク日本版』「NewsPicks」などのメディアに寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか』(祥伝社新書)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)、編著に『中国S級B級論』(さくら舎)、共著に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書)『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA)などがある。

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梶谷 懐(かじたに・かい)
神戸大学大学院経済学研究科教授
1970年、大阪府生まれ。神戸大学経済学部卒業後、中国人民大学に留学(財政金融学院)、2001年神戸大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学)。神戸学院大学経済学部准教授などを経て、2014年より現職。著書に『「壁と卵」の現代中国論』(人文書院)、『現代中国の財政金融システム』(名古屋大学出版会、大平正芳記念賞)、『日本と中国、「脱近代」の誘惑』(太田出版)、『中国経済講義』(中公新書)など。

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李 昊(り・こう)
神戸大学講師/日本国際問題研究所研究員
2020年、東京大学大学院 法学政治学研究科 総合法政専攻博士課程 修了(博士)。公益財団法人日本国際問題研究所を経て現職。専門は現代中国政治。

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水彩画(すいさいが)
中国政治ブロガー
2004年からブログ「中国という隣人」を運営。共著に『中国S級B級論 発展途上と最先端が混在する国』(さくら舎)がある。

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(ジャーナリスト/千葉大学客員准教授 高口 康太、神戸大学大学院経済学研究科教授 梶谷 懐、神戸大学講師/日本国際問題研究所研究員 李 昊、中国政治ブロガー 水彩画)

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