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「キログラム」の定義は3年前に変わっている…日常生活には欠かせない"世界の測り方"の秘密

プレジデントオンライン / 2022年12月16日 11時15分

90%のプラチナと10%のイリジウムでつくられたメートル原器(写真=NIST Webサイト/PD-USGov-NIST/Wikimedia Commons)

科学には、さまざまなオモテとウラがある。何の関連もなさそうな2つの事柄が、実は背中合わせだったりする。左巻健男編『科学オモテウラ大事典』(東洋館出版社)より、「宇宙ステーション」と「おなら」、「メートル法」と「キログラムの定義」についてお届けしよう――。

■肉眼でも観測できる「国際宇宙ステーション」

オモテ
国際宇宙ステーション
人が生活できる「宇宙の研究所」

宇宙を飛ぶ国際宇宙ステーション(ISS)は、望遠鏡を使わなくても肉眼で簡単に観測できる。夕方や明け方の空がまだ薄明るい時間帯に、一等星をはるかにしのぐ明るさでゆっくり動いていくからだ。ISSの軌道計算から、どの場所に何時ごろ見えるかという目視予報がされている。

例えば、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のWEBサイトにある“「きぼう」を見よう”には、「きぼう」/ISSが、いつ、どの方角に見えるかについて、10日先までの目視予想情報を掲載している。予報をもとに、天気のよい日、予報の10分前くらいに広く開けた場所に行って、肉眼ですーっと移動していく明るい光を探してみよう。

はじめに双眼鏡や望遠鏡を使うと視野が限られてしまい、見つけるのが難しい。最初は必ず肉眼で探そう。ISSはサッカー場くらい巨大な施設だが、日本はその一部となる日本実験棟「きぼう」を開発して参加しているので、「きぼう」を見ることはISSを見ることになる。

ISSは、地上から約400km上空にあり、1周約90分というスピードで地球のまわりを回っている。米国、日本、カナダ、欧州各国(イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スイス、スペイン、オランダ、ベルギー、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン)、ロシアの計15カ国が協力して計画を進めながら利用している、人類にとって国境のない場所の1つだ。ISSには2000年11月2日から宇宙飛行士が滞在を開始していて、現在は約6カ月ごとに交代している。

ISSは落下し続けながら地球の周囲を回っていることで内部は無重量状態になっているので、宇宙飛行士や物がふわふわ浮かんでいるようすが見られる。長期滞在している宇宙飛行士たちは、宇宙環境での科学実験や研究、地球や天体の観測などとISSの保守作業を行っている。

■真剣におならを研究していたNASA

ウラ
おなら
NASAがおならの成分を研究

私たちの胃や腸内には、口から飲み込んだ空気や腸内で発生するガスが存在する。外部にはそれらがげっぷやおならとして排出される。

口から飲み込まれたり、腸内で発生したりするガスのほとんどは、血液中に吸収され、肺を通って呼吸の時に排出される。腸内とは、主に大腸である。げっぷやおならとして排出されるのは、お腹に入ったガスのわずか10%に満たない。おならの量は食べ物や体調によっても異なるが、1回で数mLから150mLほどで、1日では約400mL~2L出ると言われている。

おならの研究に真剣に取り組んだのは、アメリカ航空宇宙局(NASA)の研究チームだ。狭い宇宙船内で臭くて有毒なおならがたまったらまずい。そのうえ宇宙食は、量は少ないが高カロリーなので、おならの生産効率が高く、水素ガスやメタンガスの産生量も多い。場合によってはガス爆発の危険性があるのだ。

NASA
写真=iStock.com/nathanphoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nathanphoto

■おならには約400種の成分が含まれている

NASAの研究によって、おならにはなんと約400種の成分が含まれていることがわかった。食生活などによって成分やその割合が変わるが、主な成分は、飲み込まれた空気中の窒素が60~70%、水素が10~20%、二酸化炭素が約10%で、そのほか、酸素、メタン、アンモニア、硫化水素、スカトール、インドール、脂肪酸、揮発性のアミンなどが含まれている。窒素や酸素は、食べ物と一緒に口から飲み込まれた空気の成分だ。そのほかのガスは、腸内細菌によってつくられる。

水素が多いのは、大腸内にいる水素産生菌の仲間が水素を出すからである。通常、糖質は胃や小腸で消化されて吸収されるが、吸収不良で大腸に来た糖質は、水素産生菌の仲間のエサにされて水素がつくられる。かなりの量のデンプン(マメのような食品では10~20%程度)が、小腸での消化を逃れて大腸の結腸において分解され、水素ができるのだ。

■フランスが中心になって統一された「メートル法」

オモテ
国際単位系(SI)
科学でも経済でも大切な世界共通単位

「国際単位系」(Le Systeme international d'unites略してSI)は、1960年に国際度量衡総会で採択された世界標準の単位系である。

世界には、その国や地域で独自に発達して使い慣れた計量制度がある。日本では尺貫法(しゃっかんほう)が使われていた。しかし、国際化が進み、さまざまな単位が並立するようでは換算に手間取り、不便で間違いのもとになる。そこで、19世紀後半からフランスが中心となって、メートル法をもとに国際的に単位を統一する方向に進んだ。日本も1885年にメートル条約に署名した。

メートル条約の最高決議機関が国際度量衡総会である。私たちは毎日のようにいろいろな物の量を計測し、あるいは計測されたデータを利用している。個人の日常生活から国の間の貿易のような経済活動、日曜大工から最新の科学技術による物づくりまで、さまざまな量の計測の基礎になるのが単位である。

世界中の誰もがいつでも正確に再現でき、精密に決まっていることが望ましい。そこで、科学技術の進歩に伴い、単位の定義が改定されることがある。

クロム
写真=iStock.com/afishman64
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/afishman64

■2019年に4つの基本単位の定義が改定された

2019年5月には4つの基本単位の定義が改定された。

SIは7つの単位「長さ:メートル(m)」「質量:キログラム(kg)」「時間:秒(s)」「電流:アンペア(A)」「熱力学的温度:ケルビン(K)」「物質量:モル(mol)」「光度:カンデラ(cd)」を基本単位とする。ほかの全ての単位は原則として基本単位を組み立てて表す。

例えば、速度は(m/s)、密度は(kg/m3)などだ。簡単にするために固有の名称をもつものもある。力は組立単位で(mkg/s2)だが「ニュートン(N)」、エネルギーならば(m2kg/s2)を「ジュール(J)」と呼ぶ。数値の桁数が極端に大きくならないよう、3桁ごとに大きさを表す接頭語(ナノ、マイクロ、ミリ、キロ、メガなど)が決められていて、単位と結合して使うことができる。

■金属の塊ではなくプランク定数が基準に

ウラ
キログラム(kg)
キログラムの定義が変わった!

2018年11月に開催された第26回国際度量衡総会において、「キログラム」を含む4つの基本単位の新しい定義が採択され、2019年5月20日から適用された。「キログラム」の定義は、原器という一つの物から切り離し、変化しない物理基礎定数「プランク定数」と結びつくことになった。

1795年、「キログラム」は質量の単位として誕生した。0℃、1Lの水の質量であるとしたが、水は蒸発したり温度によって体積が変化したりする。そこで精度の高い「国際キログラム原器」がつくられ、1889年以来130年もの間、質量の唯一の基準だった。

左巻健男編『科学オモテウラ大事典』(東洋館出版社)
左巻健男編『科学オモテウラ大事典』(東洋館出版社)

直径と高さが約39mmの円筒形分銅で、安定した素材のプラチナ90%とイリジウム10%の合金でつくられており、二重ガラス容器に入れて厳重に保管されていた。しかし、1991年に洗浄後、詳しく計測をすると1億分の5キログラム(=50マイクログラム)、指紋で付く油脂1個分ほど減少していた。科学技術の進歩で求められる測定精度が上がり、これでは計測の基準には向かなくなったのだ。

そこで「キログラムは、プランク定数hを正確に6.62607015×10-34Jsと定めることによって設定される」と定義した。プランク定数は量子力学の基本定数である。直感的には非常にわかりにくい定義だが、例えば、光子のエネルギーと、特殊相対性理論によるエネルギーと質量の等価性から、質量を表すことができる。これによって、一つの原器に頼るのではなく、いろいろな方法で質量を計測できる可能性が生まれた。

単位の定義が変わっても、急に体重が軽くなったり重くなったりするわけではない。日常生活には全く影響はないレベルの精密さでプランク定数は決められている。現時点では実用的な質量の測定方法が大きく変わることはないが、将来は技術の進歩によって広範囲で質量の精密な測定が可能になると期待される。

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左巻 健男(さまき・たけお)
東京大学非常勤講師
東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。

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(東京大学非常勤講師 左巻 健男、川越看護専門学校非常勤講師 田崎 真理子)

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