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「子供のため」と言われれば誰も反対できない…官僚のポストを増やすだけの「こども家庭庁」の残念さ

プレジデントオンライン / 2023年5月10日 10時15分

こども家庭庁発足式であいさつする岸田文雄首相(左端)=2023年4月3日、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

■少子化という大問題を解決できるのか

またしても新しい役所が誕生した。「こども家庭庁」。岸田文雄首相が、わが国の経済社会の持続性と包摂性を考える上で最重要政策だと位置付ける「次元の異なる少子化対策」を担う役所だ。担当閣僚には小倉將信・内閣府特命担当大臣が就き、発足直前には「こども・子育て政策の強化について(試案)」とする方針を示した。岸田首相は、6月に閣議決定される「骨太の方針」に、「将来の予算倍増に向けた大枠」を盛り込むとした。

今年1月の施政方針演説で岸田首相は、足下で進む少子化について、「社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際と呼ぶべき状況」だと危機感をあらわにした。その上で、こども・子育て政策を「待ったなしの先送りの許されない課題」だとした。確かに、2022年の出生数は80万人を割り込むなど少子化は深刻だ。昨年10月時点で7歳のこどもは100万人いるので、わずか6年で20%も減ることになる。20歳の人口は120万人だから、過去20%の減少には13年かかっていたが、その2倍以上のスピードで少子化の影響が社会を襲うことになる。「社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際」というのは決して大袈裟ではない。

そんな大問題を「こども家庭庁」は解決していけるのだろうか。

■まるで厚生労働省の「子会社」

少子化問題はそもそも、ひとつの官庁の政策領域に収まらない。小倉大臣名で公表した「試案」の「基本理念」にも、①若い世代の所得を増やす、②社会全体の構造・意識を変える、③全ての子育て世帯を切れ目なく支援するとある。若い世代の所得を増やすには、当然、所得再分配を担う税制をどう変えるかが問題になるし、企業収益を増やす産業政策が重要になる。これまで厚生労働省が担ってきた労働政策や子育て支援策だけでは完結しないからこそ、新しい役所を作り、省庁横断的な機能を持たせようと考えたのだろう。

首相が「最重要政策」だと言うならば、新しい役所は、他の既存官庁よりも強い権限を持つスーパー官庁であるべきだろう。設置法上では内閣府の外局として設置されているのだが、どうも政策の中味を見ていると、厚生労働省の子会社がひとつできたような感じさえ受ける。

これまで内閣府が所管してきた「認定こども園」や「少子化対策」「児童手当」「子供の貧困対策」などがこども家庭庁に移管されたほか、厚生労働省からも「保育所」や「虐待防止」「母子保健」「ひとり親支援」などが移された。ところが、文部科学省が所管する「幼稚園」については、いじめ防止などでは連携するとしているものの、所管は移さない。

■既存省庁に指示を出せるスーパー官庁ではない

一方で、こども家庭庁の初代長官には厚労省の子ども家庭局長や官房長を務めた渡辺由美子氏が就任した。渡辺氏は1988年に厚生省に入り、児童家庭局母子福祉課を振り出しに、社会・援護局や年金局、保健局、老健局などを歩いてきた厚生畑の官僚だ。1987年入省の大島一博厚労事務次官の1期後輩である。役所は基本的に年功序列だから後輩の長官が先輩の次官よりも格上ということはまずない。

大臣にしてもそうだ。小倉氏は衆議院当選4回の41歳。2022年8月の岸田内閣改造で初入閣したばかりだ。かたや厚労大臣の加藤勝信氏は当選7回の67歳で、官房長官も務め、厚労大臣は3回目という大ベテランで格が違う。

つまり、既存省庁に指示を出せるスーパー官庁ではなく、厚労省の指示には逆らえない第2厚労省の色彩が強い。しかも内閣府に所管があれば「政治主導」で官邸が強い権限を示すこともできたが、外局として独立してしまうと官邸のハンドリングは弱まることになりかねない。厚労省からすれば権限とポストを拡大したということになるのだろう。

■「幼保一元化」にまったく踏み込んでいない非力さ

こども家庭庁の非力さを予想させるのは「幼保一元化」にまったく踏み込んでいない点だ。文科省所管の幼稚園と、厚労省所管の保育園を統合していくことを狙って「認定こども園」を新たに作ったが、役所の所管争いから一元化は進まず、内閣府所管の「認定こども園」と共に「三元化」するという冗談のような構図になった。今回の小倉大臣の「試案」では、「幼保一元化」という言葉は一カ所も出てこない。

少子化が進む中で幼稚園は経営悪化から閉園するところが増えている。今後、保育園や認定こども園と共に子育てインフラとしてどう整備していくのか重要な論点だが、あえて省益に関わるところは触れていない、ということだろうか。

園児と先生が手をつないで丸くなって踊っている
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

そもそも小倉氏の務める少子化担当大臣は、歴代内閣が「最軽量」ポストとして軽んじてきたとみられている。2007年に第1次安倍改造内閣で上川陽子氏が就いて以来、25年間で21人が大臣になった。3年あまり続いた民主党政権では何と9人が少子化担当相になった。腰を据えて少子化対策に取り組んできたとは到底言えない状況なのだ。

小倉大臣の「試案」でも「過去30年という流れの中で見れば、その政策領域の拡充や安定財源の確保に伴い、待機児童が大きく減少するなど一定の成果はあったものの、少子化傾向には歯止めがかかっていない状況にある」と成果が乏しかったことを率直に認めている。だからこそ、本来は、強力な権限を持つスーパー官庁になるべきなのだ。

■官僚にとっては「願ったり叶ったり」の新しい役所

このところ、首相に就任すると新しい組織の設置をぶち上げる傾向が続いている。菅義偉首相は2020年9月に総裁選で「デジタル庁」の新設を掲げ、わずか1年後の2021年9月に発足させた。デジタル化によって業務を一元化することで、「行政の縦割りを打破」することが菅氏の狙いだったが、首相を退いた結果、縦割り打破には程遠く、デジタル庁もあまり話題にのぼらなくなった。

代わって登場した岸田首相は、新型コロナの蔓延期だったこともあり、感染症対応の司令塔を作ると表明。今年4月には法が成立し、内閣官房に「内閣感染症危機管理統括庁」を新設することが決まった。今秋にも設置される。こども家庭庁と並んで2つの組織を設置する「実績」を残したことになる。

新しい役所の設置は、霞が関の官僚にとっては願ったり叶ったりだ。2001年に1府22省庁から1府12省庁に再編された際、省庁は統合されただけで権限は変わらず温存されたと言われる。一方で、官僚の最終目標である「事務次官」のポストは大幅に減っていた。新しい役所組織ができれば、事務次官や事務次官級の長官ポストなどが置かれる。小泉純一郎内閣や第1次安倍晋三内閣では、長官ポストなどを民間から公募するよう圧力がかかったが、官僚機構に融和的な岸田内閣は、官僚のポスト就任に抵抗しない。

国会議事堂
写真=iStock.com/istock-tonko
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/istock-tonko

■復興庁の設置期限は10年延長された

霞が関はいったん得た権利はなかなか手放さない。その典型が復興庁だ。東日本大震災からの復興を一元的に行う役所として2012年2月に設置された。当初は2021年3月31日までの時限組織だったが、2020年に法改正して設置期限を10年間延長した。復興庁には大臣、副大臣、政務官らの政治家ポストが置かれ、歴代事務次官ポストは旧建設省出身者と旧自治省出身者が分け合っている。役所の増加は官僚だけでなく、政治家のポスト増にもつながるため、永田町と霞が関にとってはウィンウィンなのだ。

もちろん、ポストが増えれば予算も増える。こども家庭庁にも「こども予算倍増」を旗印に独自財源が割り当てられることになるのだろう。「こどもがまんなかの社会を実現する」と言われれば、ほとんどの国民は反対できない。だが、放っておけば、行政の肥大化は止まらない。ポストを減らし、予算を減らすインセンティブが官僚にも政治家にも働かないからだ。そしてそのツケはいずれ国民に回ってくることになる。

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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。

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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)

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