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なぜ朝日新聞社は私の原稿をボツにしたのか…「夏の甲子園」との異常な癒着ぶりはジャーナリズム失格である

プレジデントオンライン / 2023年5月25日 13時15分

朝日新聞東京本社(写真=Kakidai/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

日本のスポーツ界にはどんな問題があるのか。スポーツジャーナリストの玉木正之さんは「メディアとスポーツは決して正常な関係とはいえない。スポーツの健全な発展のためには、メディアが『批判的ジャーナリズム精神』を取り戻す必要がある」という――。(第2回)

※本稿は、玉木正之、小林信也編『真夏の甲子園はいらない』(岩波ブックレット)の第三章(玉木正之氏執筆)の一部を再編集したものです。

■「甲子園批判はできない」と言う朝日新聞記者への違和感

もう20年以上前のことになるが、北海道にコンサドーレ札幌というJリーグのチームが生まれたとき、朝日新聞北海道支社主催のシンポジウムが開かれ、私は司会を依頼された。

そのときはジャーナリストのロバート・ホワイティング氏や五輪マラソン・メダリストの有森裕子さん、それに朝日新聞運動部で面白い野球コラムを書いていた名物記者の某氏などがパネリストとして参加した。

が、シンポジウムの直前になって某氏が私に、「高校野球の質問は僕に振らないでくださいね」と言ったのだった。それは私が高校野球や甲子園大会を批判する原稿を書いていることを知ってのことだったのだろう。

そのときのシンポジウムはコンサドーレとJリーグが中心で、私は司会者として特に高校野球を話題にしようとは思っていなかったので、笑いながら「ハイハイ、わかりました」と答え、「やっぱり批判はできませんか?」と瞬くと、「ええ。社員ですからね」という答えが苦笑いとともに返ってきた。

最近のことになるが、テレビ朝日の「モーニングショー」に出演していた玉川徹氏が、番組のなかで「フリーランスでなきゃジャーナリストとは呼べない。会社員には制約がある」といった発言をされたが、私は玉川氏の発言も、北海道での朝日新聞記者の態度も認めることができない。

■ジャーナリスト失格

ジャーナリズムに関わっている人なら、あらゆる「社会問題」と真正面から取り組むべきだし、回答のわからないときには「わからない」と答え、会社員として答えられない問題のときは「その問題には会社員として答えられない」と答えるべきで、言論を端から拒否するような態度や行動は取るべきではないだろう。

それがジャーナリストとしての矜持だと私は思っている。

高校野球は朝日新聞社の主催するイベントだから、朝日系のメディアでは批判を口にできないというのであれば、企業の内部告発のニュースも自衛隊内部のセクハラを訴えた女性自衛官のニュースも取りあげることができなくなってしまうのではないか。

■「ジャーナリズム」にボツにされた原稿の中身

その意味でいちばん残念だったのは、朝日新聞出版発行の月刊誌『Journalism』2014年3月号に掲載される予定で執筆依頼を受けた原稿が没になってしまったことだった。「体育からスポーツへの大転換の時代――スポーツ・ジャーナリズムに求められることは?」と題したその原稿は、担当編集者と打ち合わせのうえで「高校野球甲子園大会の批判」を書くことになっていた。

「上司とも打ち合わせ済み」で「われわれ自身が高校野球のあり方を考えないといけませんから」という担当編集者の姿勢に応じて、私は喜んで原稿を書いた。

1度目の東京オリンピックではスポーツが体育として教育的にしかとらえられなかったが、2度目は純粋にスポーツとしてとらえられ開催されるはずだから、日本のあらゆるスポーツからスポーツ以外の目的は排除されるべきだと書き、メディアが利用している高校野球やプロ野球や箱根駅伝の弊害を書き並べ、メディアはスポーツ大会の主催者やスポーツ・チームの所有者(オーナー)になるべきでなく、スポーツ・ジャーナリズムに徹するべきだと結論づけた。

しかし原稿を送って数日後、編集者に「原稿は掲載できない」と言われた。「理由は?」と瞬くと編集長が言うには「いま書いてもらうならソチ冬季五輪のことだ」と。

ならば「この原稿は夏の甲子園大会のときに……」と言うと、編集者は「勘弁してください」と頭を下げた。

結局、私の原稿は没になってしまい、『Journalism』という雑誌の名前が泣く……とは思ったものの、私はそれほどショックでもなかった。というのは、以前から同様の「事件」(プロ野球や高校野球の批判記事を没にされたり、テレビでの批判を止められたこと)は、何度も繰り返し体験してきたからだ。

■「NHK会長になってもやめられない」

最近では、高校野球に関して次のような出来事もあった。あるNHK関係者に次のような質問をした。

「NHKが甲子園大会の全試合を全国放送しているのは、高校野球をプロ野球のように扱って人気を煽ることにつながり、高校生の大会として相応しくないから、中継放送をやめるべきではないか……?」

NHK某氏の回答は次のようなものだった。

「甲子園大会の中継は、私がNHK会長になってもやめることはできないでしょうね。紅白歌合戦と同じで、伝統的な人気イベントですから。それに中継することによって、すべての大会の試合が録画として手元に残ることも大きいですから……」

彼が「NHK会長になってもやめられない」と言ったのは、現在の高校野球や甲子園大会にさまざまな問題のあることは承知のうえで、それでも「やめられない」ということなのだろう。

要は大人気イベントだからということで、それが十代の高校生にとって適切なイベントか否かは、テレビ局としては問題外というわけだ。

■都合のいい解釈

NHKや主催者の朝日新聞社とクロスオーナーシップで結ばれた朝日放送やテレビ朝日は、主催者である高野連に対してテレビ中継の放送権料はまったく支払っていないという。

金銭的利益を目的にしていない高校生の大会なのだから、それは当然かもしれない。が、コロナ禍で甲子園大会が中止になったとき、「甲子園名勝負」として江川卓投手や松坂大輔投手など、プロに進んだ選手の出場した過去の試合がNHK BSで再放送されたときには少々複雑な気持ちになった。彼らには肖像権が存在しないのだろうか?

野球中継の映るテレビにリモコンを向けている手元
写真=iStock.com/Yuzuru Gima
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yuzuru Gima

■マスメディアと「正常な関係」にある競技

明治時代初期の文明開化で欧米から多くのスポーツが日本に伝播したなかで、最も大きな人気を得た野球(高校野球やプロ野球)が、新聞社やラジオやテレビ(メディア)の力のおかげで、さらに大きな人気を獲得したことは事実である。

その意味では野球が大好きで少年時代毎日のように近所の禅寺の境内で草野球に興じ、大人になってからは甲子園球場や後楽園球場などのネット裏から無料で野球を見ることができるのを大喜びしてスポーツライターになった私のような人間は、日本の野球人気を大きく発展させたマスメディアに大いに感謝すべきだろう。

しかし時代は変わった。いまやマスメディアがスポーツ・イベントを主催したり、スポーツ・チームを所有したりする時代ではなくなったはずだ。それはマスメディアと「正常な関係」を保ちながら発展している日本のサッカー(Jリーグ)を見ればわかる。

■東京オリンピックの愚を繰り返すな

JFAはすべての日本のサッカー組織を束ねているのに、マスメディアが強く支配している野球界は、プロ、社会人、高校と組織が分かれ、大学、中学、ボーイズリーグ、リトルリーグ……などに分かれたままで、「日本の野球」としてひとつの組織にまとまれないでいる。

その組織を(サッカー界のように)一本化して、審判員のライセンスをプロもアマも共通するものに(サッカーのようにS級、A級……と)整えたり、監督やコーチのライセンスも同様に整えたり、高校生だけでなく野球と取り組む青少年に対する指導や健康管理なども組織的に一元化して整えたほうが良いとは誰もが思うことであり、考えることだろう。

そして、そのようなメッセージを出すのはジャーナリズムを担うメディアの仕事のはずだが、マスメディアがステイクホルダー(利害関係者)として自らの利益を……と繰り返すのは、もうやめる。

しかしジャーナリズムを担うべきメディアがジャーナリズム以外の役割を担うと最悪の結果を招くことは、1年遅れで開催された東京オリンピックのスポンサーに大新聞社が名前を連ねたことで証明されたのではなかったか?

■わたしがメディアに求めること

玉木 正之、小林 信也編『真夏の甲子園はいらない』(岩波ブックレット)
玉木 正之、小林 信也編『真夏の甲子園はいらない』(岩波ブックレット)

いま日本の野球界は、子どもたちの野球離れ(野球人口の急速な低下)や、プロ野球とメジャーリーグとの莫大な経済格差、夏の甲子園大会のスポーツに相応しくない限界的酷暑……などなど、明らかに大きな危機に見舞われ、転換期を迎えている。

その危機を回避し、新たな形で乗り切るために、そして未来の日本の野球界が健全な発展を遂げるためには、まずはマスメディアが日本の野球の未来を考える「批判的ジャーナリズム精神」を取り戻すことだろう。

メディアがスポーツ大会を主催して良いのか? 甲子園大会は今のままで良いのか? メディアがプロ野球チームを所有しても良いのか? ……といったことを一から考え直すことも含めて、「先ず隗より始めよ」という言葉を結びとしたい。

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玉木 正之(たまき・まさゆき)
スポーツ文化評論家、日本福祉大学客員教授
1952年京都府生まれ。著作に『スポーツとは何か』(講談社現代新書)、『今こそ「スポーツとは何か?」を考えてみよう!』(春陽堂書店)など多数。

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(スポーツ文化評論家、日本福祉大学客員教授 玉木 正之)

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