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バイデンは広島に「核のボタン」を持ち込んだ…「核兵器による攻撃を抑止するのは核兵器しかない」という現実

プレジデントオンライン / 2023年6月1日 10時15分

2023年5月19日、広島で開催されたG7首脳会議の一環として平和記念公園を訪問し、花輪を捧げた後、黙祷をする(左から右)ジョー・バイデン米国大統領、岸田文雄日本国首相、エマニュエル・マクロン仏大統領の様子が外務省により撮影・公開された。 - 写真=外務省/AFP/時事通信フォト

G7広島サミットでは、核軍縮に焦点を当てた「広島ビジョン」がまとめられた。一方で、中国、ロシア、北朝鮮の核兵器の脅威は高まり続けている。日本はどのように対峙すべきか。政治ジャーナリストの小田尚さんは「サミットでは、核抑止の議論は影が薄かった。米国から日本の戦略的価値が再計測されている中、『核共有』についてタブー視せずに議論していく必要がある」という――。

■G7が戦時下の広島サミットで結束

G7広島サミット(先進7カ国首脳会議)が5月21日、3日間の日程を終え、閉幕した。ロシアによるウクライナ侵攻が続き、プーチン露大統領が核兵器の使用を示唆して国際社会を恫喝する中で、G7首脳は、核の使用も威嚇も許されないとのメッセージを発信したうえ、ウクライナのゼレンスキー大統領も参加し、対露制裁やウクライナ支援の強化で一致した。被爆地・広島で開かれた、戦時下のサミットで、G7がウクライナ「連帯」でまとまったという事実が歴史に刻まれた。

岸田文雄首相は、「核兵器のない世界」への決意を示しつつ、核不使用の継続性をうたい、核軍縮・不拡散に焦点を当てた個別声明「広島ビジョン」をまとめ上げた。G7首脳らが広島原爆資料館を訪れ、被爆の実相に触れたことも、その意義を高めよう。

■バイデンが示した核兵器の現在

こうした「成果」に水を差すつもりはない。だが、バイデン米大統領が原爆資料館の芳名録に「世界から核兵器を最終的に、そして、永久になくせる日に向けて、共に進んでいきましょう」と記した、その傍らに核攻撃を命じるための「核のボタン」を携行させていたのが、現実なのである。

そもそも、核軍拡を続けながら、力による現状変更を試みる中国、核兵器使用をちらつかせ、ベラルーシに戦術核の配備を開始したロシアが、広島ビジョンにまともに耳を傾けることがあるだろうか。

■核兵器から国民を守る責任がある

広島サミット開幕に先立つ5月18日の日米首脳会談は、米国の「核の傘」を含む拡大抑止を確認したとされる。だが、サミットでは、中露、北朝鮮などの核兵器の脅威からG7の諸国民をどう守るかという核抑止の議論は、影が薄かった。G7では、米国、英国、フランスが「核保有」国、ドイツ、イタリアが「核共有」国、日本は「核の傘」に入っており、核をめぐる環境がそれぞれ異なるにもかかわらずである。

岸田首相は、サミット閉幕後の21日の記者会見で、「我々首脳は、二つの責任を負っている」と述べ、「核なき世界の理想を追う責任」とともに、「国民の安全を守り抜く責任」に言及した。そうならば、国民を守る責任をもっと語るべきだったのではないか。

核大国からの攻撃を防ぐためには「自分を守る力、ハードパワーが必要だ。核を保有しない場合は、核大国との同盟は必須だ。そして、いったん核保有したら手放してはいけないことが、ウクライナ戦争から得る三つの教訓だ」(防衛省筋)という辺りから説き起こしてもらいたい。

■安倍元首相が提起した「核共有」論

ここで想起させられるのが、安倍晋三元首相の「核共有」論だ。2022年のロシアのウクライナ侵攻から3日後、安倍氏は2月27日のフジテレビ番組で、北大西洋条約機構(NATO)の核共有を取り上げ、「世界はどのように安全が守られているか、という現実について議論をしていくことをタブー視してはならない」と主張した。

令和2年4月7日、安倍内閣総理大臣記者会見
令和2年4月7日、安倍内閣総理大臣記者会見(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

ドイツやオランダは米国の核兵器を共同運用しているとして「さまざまな選択肢を視野に入れて議論すべきだ」と指摘している。一方で「被爆国として核を廃絶するという目標は掲げなければいけない」とも語っていた。核抑止と核廃絶は、政治的には必ずしも矛盾しない。

米国は、1960年代から、ドイツ(ビューヒェル)、ベルギー(クライネ・ブローゲル)、オランダ(フォルケル)、イタリア(ゲーディ、アヴィアーノ)の各国空軍基地にB61核爆弾、トルコには米空軍基地(インジルリク)にB61を計100発配備している(ストックホルム国際平和研究所)。

■NATOの核共有はNPTと表裏一体

核兵器不拡散条約(NPT)は1970年に発効したが、実はこのNATOの核共有と表裏の関係にある。核共有は当時のソ連を含むワルシャワ条約機構と通常戦力での圧倒的劣勢をカバーするためだった。

ソ連軍の戦車が東西ドイツの国境を越えて侵攻した場合、NATO4カ国の各空軍のF15、F16戦闘機が各空軍基地のB61を搭載し、その前方で運用(爆撃)するもので、通常兵器の延長線だった。B61の出力は、0.3~50キロトン(広島型原爆は15キロトン)とされる。

NATOの核共有は、物理的共有というより、情報、配備、運用、作戦、意思決定の共有なのだろう。B61は米国が管理権を有し、5カ国は米国の了解なしには使用できないが、核抑止力としては相当強いと言える。

■米ソの核戦力が均衡したことが契機に

当時の米国の核戦略を見る。アイゼンハワー米政権(1953~61年)は「大量報復戦略」を掲げ、米国の核兵器の一方的優位をバックに、ソ連・共産圏の優勢な陸上兵力を核兵器によって抑止しようとしていた。

続くケネディ政権(1961~63年)は「柔軟反応戦略」として、敵国の出方に応じて通常兵器と核兵器を選択的に使用する考え方を打ち出した。ソ連が1953年に水爆実験、57年に大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実験を成功させ、米ソの核戦力が均衡したことが背景に挙げられる。

NATOはこの状況に、1955年に加盟した西ドイツのアデナウアー首相を先頭に米国に核共有を要求したのだが、米国にもドイツの核武装を抑えたいとの思惑があった。

フランスは、ドゴール大統領が1958年に政界復帰すると、核保有を宣言し、60年に核実験を成功させた。米国とは一線を画した「独自路線」を取っている。

米国はNPT体制を維持するためにも、核を持たない同盟国には核共有という形で核抑止力を提供し、今に至っている。

■「核共有」と「核の傘」のリアルな違い

安倍氏は「欧州5カ国は、核攻撃を受けたとき、どの核を使うかを決めている。実戦に備え、そのための訓練もしている。日本が、米国に対し、日本が核攻撃された時にどの核を使うのかと聞いても、米国は言わない。そこが全然違う」と語っていた。

「核の傘」とは具体的には何を指すのか。米国から差し掛けられた傘は3本ある。

まずは核を搭載したICBMだ。米国北部のワイオミング・ワーレン、モンタナ・マルムストローム、ノースダコタ・マイノットの3空軍基地に400基ほど配備されている。次に、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)が280基で、原子力潜水艦12隻に搭載され、どこか分からない海に潜んでいる。

3本目はB52戦略爆撃機46機で、空中発射巡航ミサイルを200基持っている。2018年までグアムにも配備されていたが、米本土に引き揚げた今は無給油で飛来しては航空自衛隊と共同訓練もしている。

■「非核三原則」は現実的な政策か

日本が米国の「核の傘」に入ったのは、1965年1月だ。佐藤栄作首相が訪米し、日米首脳会談に臨んだ際、ジョンソン米大統領に「日本が核抑止を必要とするなら、米国はそれを提供する」と切り出され、これに即応したことによる。1964年10月、当時の東京五輪の最中に中国が核実験を成功させたため、米国にも日本の核武装を封じる狙いがあったといわれている。

群衆と握手を交わすリンドン・B・ジョンソン大統領
群衆と握手を交わすリンドン・B・ジョンソン大統領(写真=Yoichi Okamoto/PD US Government/Wikimedia Commons)

佐藤首相は「核の傘」入りした後の1967年12月の衆院予算委員会で、「持たず、作らず、持ち込ませず」という「非核三原則」を表明する。だが、69年、沖縄返還交渉が進む中、佐藤氏は「持ち込ませず」は誤りだった、と密かに軌道修正を図る。

同年11月のニクソン米大統領との会談で沖縄返還協定を締結した際、「沖縄核密約」に署名した経緯がある。極東有事の際、沖縄に核兵器を再配置する事前協議に対し、日本政府が「遅滞なくそれらの要求を満たす」ことを約束した合意議事録である。

■岸田首相は「核共有論」を一蹴した

その後も「非核三原則」を見直すべきだとの声は少なくない。こうした安倍氏の問題提起は、実を結ばなかった。

岸田首相は、2022年3月14日の参院予算委員会で、立憲民主党の福山哲郎氏に核共有論への対応を問われ、「日米同盟の下、核の拡大抑止は機能しているからこそ、核共有について議論を考えないことを再三、申し上げている」「非核三原則などとの関係から議論することは考えていない」と述べ、政府内の議論を封印してしまったのだ。

■「使える核」の時代が戻ってきた

核兵器による攻撃を抑止するのは、実のところ、核兵器しかない。何十万人という単位で人を殺戮する兵器であり、攻撃すれば、即反撃される兵器だからだ。

冷戦時代は、米国、ソ連のどちらが先に手を出しても、お互いを破壊し尽くす「相互確証破壊(MAD)」という事態になり得るため、核抑止力が働いてきた。

冷戦後の現実は「使える核」の時代の再来だ。ロシアは、2009年の軍事ドクトリンなどで、通常兵器による大規模侵略を受けた結果、国家の存立が脅かされた場合に「地域的・限定的に使える核」としての戦術核を使って先制攻撃する可能性に言及した。その延長線上で、プーチン氏は15年3月、クリミア編入1年後に「核戦力を戦闘態勢に置く準備があった」と明らかにしている。

■日本の戦略的価値が再計測される

トランプ前米大統領も2018年2月、米核戦力体制見直し(NPR)で、通常兵器による攻撃にも「核の使用」を排除しない、小型核兵器を開発するとの方針を打ち出した。バイデン政権も、当初は否定的だったが、22年10月のNPRでこれを踏襲した。

米国の核戦力が持つ、戦争を抑止する力の効果を同盟国に及ぼすことを拡大核抑止という。「核の傘」もその一環だ。その時の国際情勢やトップリーダーの考えによって機能するかどうかわからないところもある。

中国、北朝鮮の核軍拡が進む間に、米国からは「カリフォルニアを犠牲にしてまで、東京を守るのか」などと、日本の戦略的価値が再計測されてもいる。今のままでは、核抑止が「万全」というわけに行くまい。

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小田 尚(おだ・たかし)
政治ジャーナリスト、読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員
1951年新潟県生まれ。東大法学部卒。読売新聞東京本社政治部長、論説委員長、グループ本社取締役論説主幹などを経て現職。2018~2023年国家公安委員会委員。

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(政治ジャーナリスト、読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員 小田 尚)

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