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マイナカード騒動は政権崩壊を招く大爆弾である…岸田政権を巡る空気がどんどん悪くなる根本原因

プレジデントオンライン / 2023年7月7日 9時15分

自民党役員会に向かう岸田文雄首相(手前)=2023年7月4日、東京・永田町の同党本部 - 写真=時事通信フォト

■役人の天下り確保で、4兆円以上が消えた

週刊誌の連載記事が、政権を崩壊させることがある。

週刊現代で2001年から約1年間続いた連載記事「『年金崩壊』のウソ 誰が安心を食い潰したのか」を覚えているだろうか。

筆者であるノンフィクション・ライターの岩瀬達哉氏は丹念な取材で、国民から集めた「掛金」が健康福祉センター(サンピア)や大規模年金保養基地(グリーンピア)などの建設に流用され、官僚たちの「利権」と「天下り先」になっていることを突き止めた。その結果、総額約4兆3000億円の年金財源が失われたことがわかった。

この連載は年金問題の先駆けとなり、国民の怒りに火をつけた。岩瀬氏は民主党(当時)の長妻昭議員とタッグを組み、「消えた年金問題」を長妻が国会で徹底追及した。これがきっかけとなり、社会保険庁は解体され、2007年の年の参議院選挙で自民党は改選前の64議席から37議席に減らすという大惨敗を喫したのである。

その後、安倍首相が体調を理由に首相の座を降りたことで第一次安倍政権は崩壊し、その後の民主党政権成立へという流れができた。

今回のマイナカードの“迷走”を見ていると、当時と同じような“空気”を感じる。

消えた年金はサンピアやグリーンピアという無駄な施設に湯水のようにカネをつぎ込み、役人たちの天下り先としたが、一般の国民たちはそんな存在さえも知らないうちに4兆円以上の国民の年金が失われてしまった。

この「分かりやすさ」が国民の怒りに火をつけたのだが、健忘症気味の日本人はわずか16年前のことも覚えていないかもしれない。だが、今回のマイナカード問題も同じようにとても分かりやすいのである。

■「2万円」というアメをぶら下げて加入させたが…

5000円付与ではマイナカードが普及しないことに業を煮やした岸田文雄首相が、2万円に引き上げるという大きな「アメ」をぶら下げて国民に加入を促した。入るだけで2万円ももらえるならとあっという間に国民の80%近くがカネに釣られて加入した。

岸田首相は無鉄砲だけが取り柄の河野太郎氏をデジタル相に任命したが、その河野担当相が突然、「マイナンバーカードと健康保険証を一体化する」(昨年10月13日の会見)と発言したのである。

続いて岸田首相が「2024年秋に現行の健康保険証を廃止してマイナ保険証に一体化する」と明言したから、2万円だけもらって、使うのはずっと先だからタンスにしまっておけばいいと思っていた多くの人は、「冗談じゃない。話が違う」と大反発したのである。

アメを配っておいてそこそこ行き渡ったら、生死に関わる健康保険証をマイナカードに一本化すると「ムチ」を振り上げた。

だが、それと同時にマイナカードのトラブルが次々に明るみに出てきて、政権の支持率は大きく下落したのである。

■「制度自体信頼できない」「詐欺の手口のよう」

「『制度自体信頼できない』『詐欺の手口のよう』『河野大臣は失敗したので更迭すべきだ』――。毎日新聞が6月17、18日に実施した全国世論調査で、トラブルが後を絶たないマイナンバーカードに対する不安や怒りの声が多数寄せられた。

(中略)今回の調査でマイナンバー制度について尋ねたところ、『不安を感じる』との回答が64%で、『不安は感じない』(22%)を大きく上回った。現在使われている健康保険証を2024年秋に原則廃止する政府方針についても『反対』が57%に上り、『賛成』は31%だった」(毎日新聞デジタル版2023/6/25 11:30)

朝日新聞(6月9日付)も社説で「マイナ保険証『一本化』強行許されぬ」として、

「今後最も懸念されるのが、来年秋の健康保険証の廃止と、マイナ保険証への移行だ。先週法律が成立したが、利用者や医療・介護現場の不安は置き去りのままになっている。

高齢者や障害者が円滑にカードを取得し利用できるのか。認知症の人の意思確認や暗証番号の扱いはどうするのか。高齢者や障害者の施設では、健康保険証を預かっている例も多いが、マイナ保険証で同様の運用ができるのか。こうした疑問に政府は十分答えていない」

私のような高齢者は、政府が運営するオンラインの「マイナポータル」にログインするためのパスワードと、6桁から16桁の申請用のパスワードを覚えておけるはずがない。

■高齢者施設では「預かれない」と不安の声

深刻なのは高齢者施設である。

「京都市にある特別養護老人ホーム『原谷こぶしの里』。この施設では医療機関への受診に備え、入居者約100人のほぼ全員の健康保険証をカギ付きの引き出しに保管している。受診の頻度は、およそ3日に1回に上り、看護師や生活相談員が付き添っている。

施設長の介山篤さん(45)は、マイナ保険証への一体化に対し、『銀行のキャッシュカードを持ち歩くようなもので、紛失や漏洩(ろうえい)があったらだれが責任をとるのか。容易に預かることはできない』と言う。

マイナ保険証では受診の際、暗証番号が必要になる場合もある。暗証番号を覚えたり入力したりするのが難しい入居者に代わり、職員が暗証番号を管理することにも抵抗を感じるという」(朝日新聞7月2日付)

週刊誌も黙ってはいない。特に新潮が熱心に反対キャンペーンを続けている。直近でも、

「もうやめよう『河野太郎』が引き込む『マイナカード地獄』」(6月22日号)
「『マイナ保険証』やっぱりいらない」(6月29日号)
「『マイナカード』まだまだ不都合な真実」(7月6日号)

と、マイナカード不要論を訴え続けている。7月6日号を紹介しよう。

■一本化されればトラブルは100万件を超える?

「『本人とは似ても似つかない写真がカードに使われる例が増えているんです』

と、まずは現場の声からお届けしよう。

『今後、これが身分証明書として使われて大丈夫かと心配になりますね』

そう嘆くのは東海地方のさる地方自治体でマイナンバーカードの業務補助員として働く女性である。(中略)

交付作業自体にも難あり。

『一人3分以内を想定し、それ以上にはならないようにとの指示を受けている。うちの役所では多いときには150人も交付した日があります。それくらいのペースでさばかないと進まないですからね。写真について尋ねたりしていたら、あっという間に時間が過ぎてしまいますよ』

カップラーメンを作るほどの時間で大事な『身分証明書』が交付される。それが今後、本人証明の唯一の手段となったら……実に恐ろしい」

続けて新潮は、全国保険医団体連合会の住江憲勇会長にも話を聞いている。

「『私たちが全国の医療機関で行ったアンケートによると、回答があった1万件のうち、現時点でトラブルが起こったと答えた割合は3分の2にも及びます。その中の3分の2は保険証が無効とされる事案で、3640件もありました。そもそも今、マイナ保険証を提示される方は全体の6%、16分の1に過ぎません。しかも、全国に医療機関は18万カ所ありますから……』

マイナ保険証に一本化されれば、単純計算で3640×16×18。100万件を超えるトラブルが予想されるというのだ」

積み重ねて置かれた膨大な紙資料
写真=iStock.com/smolaw11
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/smolaw11

■次は銀行口座なども紐付けられるのは間違いない

「『これだけならまだ支払い上の問題ですが、先のアンケートでは他者の医療情報の誤登録も114件あった。政府はこれを単にトラブルと呼びますが、病歴や血液型、処方歴、アレルギーなどの誤認は命に直結するため、トラブルでは片付けられません。それもGW明けから6月までの短期間でこの数字です。本当に一本化が始まれば、一体、何が起きるのか……』

かくして、デメリットばかりが目立つ“マイナス事業”へと変質した一連のマイナ事業」

このような不安が広がり、取得したマイナカードを返納する動きまで出てきている。

岸田・河野コンビは、“功”を焦りすぎて墓穴を掘ったといっていいだろう。

私はマイナカードを持っていないし、申請しようとも思っていない。これ以上、自分のプライバシーを国に渡すことに我慢がならないからだ。

これまでも国民総背番号制(住民基本台帳法)や、作家の城山三郎氏が「平成の治安維持法になる」といった個人情報保護法にも反対してきた。

ここで、マイナカードと保険証の一体化を許せば、銀行口座など次々に紐付けられていくことは間違いない。

来年の7月前半に新札を発行する予定だといわれている。国税庁の狙いは何十兆円ともいわれるタンス預金を炙り出し、税を徴収することにあるはずだが、これもマイナカードで個人の資産を把握しようという前段の動きだろう。

■「私は国民ではあるが、番号ではない」

少し古いが、国民総背番号の改正が成立した直後、保守派の論客である櫻井よしこ氏が新潮(2002年1月31日号)に書いた一部を紹介しよう。

櫻井氏は、国民総背番号制と同じような社会保障番号制が導入されているアメリカの例を出し、当初は公的年金や社会保険目的に限定されていたのに、ローンの貸し出しや図書館での借り出し、税金、病歴、離婚歴まで、あらゆる個人情報が番号の下に集積され、拡大していっていることへの危機感を訴える。そして、こう書く。

「番号をふられICカードを持たされる国民の姿は個人情報を逐一把握され、国家によって支配され、プライバシーの侵害を恐れる脆弱(ぜいじゃく)な姿である。自由を保障され、一人一人がのびやかに生きる健全な民主主義社会の姿とは程遠い。

闊達(かったつ)な精神と尽きない想像の力、深い理解力を持った魅力的な人間集団としての国家は、その基本で、最大限の自由が保障されているはずである。日本はそんな国を目指さなければいけない。

そして私は国民ではあるが、番号ではない。番号になることも断じて嫌である。私たちはこの悪法、改正住民基本台帳法を廃止すべきである。国民の多くがその存在さえ知らない悪法によって、この国の自由なる精神を阻害してはならない」

■その姿は、まるで幽霊に憑りつかれたよう

あれから20年以上が過ぎ、国は国民のプライバシーを根こそぎ把握しようと、マイナカード普及に躍起になっている。

マイナカードのシステムのお粗末さも、プライバシー管理の脆弱さも無視して突き進んでいる姿は、まるで幽鬼に憑りつかれたようである。

だが、多くの国民の「信頼できない」「不安だ」という声はさらに大きくなるはずだ。

「消えた年金」で安倍第一次政権を崩壊させたジャーナリストの岩瀬達哉氏も再び動き出した。週刊現代(7月1・8日号)で「巨弾スクープ 日本人の『マイナンバーと年収情報』はこうして中国に流出した」という連載を始めたのだ。

岩瀬氏は消えた年金問題の追及を受けて社会保険庁が解体された後、新たに日本年金機構を設立するにあたって、設立委員会の委員に就任し、その年金機構を「調査審議」する社会保障審議会年金事業管理部会の委員も務めてきた。

岩瀬氏は連載の第1回でこう書いている。

「日本年金機構が業務委託した事業者(SAY企画)から、厚生年金受給者のマイナンバーのほか、住所、電話番号などの個人情報、さらには所得情報までが中国のネット上に流出したのは、わたしが年金事業管理部会の委員在任中のこと」

■再び政権を吹っ飛ばすかもしれない

「この流出問題を調査する『検証作業班』が、同管理部会の中に設置された際、わたしも4人の検証委員のひとりとして調査にあたってきた。

『検証作業班』での調査は約1年半におよび、その過程で判明したことは、機構と厚労省年金局が国権の最高機関である国会で、虚偽答弁を繰り返していたという驚くべき事実だった。

日本年金機構と年金局は、『虚構のストーリー』と『欺瞞(ぎまん)の論理』で国会を欺き、国民を騙し続けていたのである。その犯罪的行為を、事実をもって集中連載で明らかにしていくことにする」

これは面白くなりそうだ。再び政権を吹っ飛ばすかもしれない。マイナンバー情報が中国に流出したとすれば、プライバシー管理の脆弱性が問われるのはもちろん、それを扱う官僚や委託業者たちがその事実を隠蔽(いんぺい)していたとすれば国民を欺く行為である。マイナンバー制度を白紙に戻さなくてはいけなくなるかもしれない。期待したい。

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元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、近著に『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。

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(ジャーナリスト 元木 昌彦)

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