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本当のバカほど「自分がバカ」と気付かない…高学歴の人でも「明らかにバカなこと」を疑わない根本原因

プレジデントオンライン / 2023年8月31日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/78image

賢く生きるために必要なことは何か。医師の和田秀樹さんは「変わり続ける、成長し続けることがもっとも大切だ。自分がバカになってないかどうかはつねにチェックしたほうがいい」という。作家・橘玲さんとの対談をお届けしよう――。

※本稿は、和田秀樹『前頭葉バカ社会』(アチーブメント出版)の一部を再編集したものです。

■成長できない人が一番のバカ

【和田】いやみに聞こえるかもしれませんが、東大医学部卒という肩書きのことをいわれるのに以前から違和感があって、それは自分が歳をとればとるほど強くなっています。60歳を過ぎても学歴のことをいわれるなんて、この40年間あまり進歩していないと思われているに等しいと感じるんですよね。

対談のテーマは「前頭葉バカ」ですが、僕自身は変わり続ける、成長し続けることがもっとも大切なことだと思っています。それで、いつも悪あがきをしている(笑)。なぜなら、成長できない人が一番のバカだと思っているから。よくいる日本のクズ学者に多いパターンで、留学していた何十年も前の知識に固執しているとか、教授になってからまったく勉強していないとか、まさに前頭葉バカの典型的な例ですよ。高学歴やえらい肩書きの人たちこそ、自分がバカであることに気がついていない人が多いというのが、わたしの印象ですね。

■バカは、自分がバカだと気づかない

【橘】わたしが『バカと無知』で書いたのも、まさに「自分がバカであることに気づいていない人がバカ」ということです。もともと『週刊新潮』で「人間、この不都合な生きもの」を連載していたとき、「ダニング=クルーガー効果」(注1)は認知心理学では有名なのに、日本ではあまり知られていないので、紹介したらおもしろいんじゃないかと思ったのがきっかけでした。

バカは、自分がバカであることに気づかないから修正できない。頭がいいか悪いかは関係ない。自分は何を知らないのか、どこでつまずいているのかさえわかれば、誰かに聞くなり、自分で調べるなりして、問題解決の方法がわかるじゃないですか。和田さんが『受験は要領』などで書かれていることとまったく同じですよね。今ならAIを使ってみるとか、やりようはいくらでもある。

でも、そもそも間違っていることに気づいていないとしたら、どうしようもない。すごく賢い人でも、「わたしが学んできたことや信念は正しい」と、それ以外が見えなくなると、かなり変なところに暴走していく危険はあると思います。

(注1)能力や専門性、経験値などが低い人は自分の能力を過大評価する傾向があり、逆に能力の高い人は自分を過少評価する傾向がある、という認知バイアスに関する仮説。コーネル大学の心理学者デイヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーが1999年に行なった実験で確認された。2000年にイグノーベル賞心理学賞を受賞。

■医学部志望の優等生が2浪してしまった理由

【和田】作家の林真理子さんにお声がけいただいて、「3.11塾」という震災孤児遺児の教育支援に参加していたのですが、その支援活動の中で「子どもたちの中から医師を誕生させよう」という話が持ち上がりました。とても優秀な子がいたのですが、2浪してしまった。そこで、わたしが会って話をすると、模擬試験の英語が200点満点中の140点だという。「もしかして、1問まるごと手つかずだった?」と質問したら、「そうです」と。

内外情勢調査会で講演する作家の林真理子さん=2021年12月15日、大阪市北区
写真=時事通信フォト
内外情勢調査会で講演する作家の林真理子さん=2021年12月15日、大阪市北区 - 写真=時事通信フォト

今の英語の入試問題は速読力がないと答えられないんです。それが5問も6問も出される。となると、この子がやるべきことは英文の速読トレーニングでしょ。でも彼はいうんです、「通ってる予備校では、英語の速読の講義は2学期以降です」って。それで春から予備校に通って、律儀にこれまで2年習ってきたカリキュラムをまた一から受講している。この思考が不思議ですよね。こういう人、けっこう多いと思います。

■タクシーが来ないのに列に並ぶ人たち

【橘】以前、ちょっと衝撃的な経験をしました。沖縄から東京に帰る飛行機がひどく遅延して、羽田に到着したときには公共の交通機関がすべて終わっていました。そこでタクシー乗り場に行くと、案の定、ものすごい長蛇の列で、係の人が「並んでもタクシーは来ません。ご自分で手配してください」と大声で叫んでいるんです。

ちょうどタクシー券を持っていたので、そこに書いてあるタクシー会社の番号に片っ端から電話したら、運よく羽田に向かっている車をつかまえることができました。でも不思議だったのは、その間もどんどんタクシー待ちの列が伸びていくことです。電話やスマホでタクシーを手配している気配もない。「いったい何なんだろう、この人たちは」と、ちょっと不気味に感じました。

【和田】橘さんのセンスはまっとうで、前頭葉が働いている証拠ですよね。でも日本の社会だと、「要領がいいやつだ」と批判的に見る人もいる。

【橘】「ずるい」みたいな感じがあるのかもしれませんね。でも、係の人が目の前で、「待っていてもタクシーは来ません」って叫んでいるんですよ。「なのに、なぜキミたちは並ぶのか」という不思議。他の解決策があるんじゃないかとは考えない。

■合理的でも人と違うことをするのは不安

【和田】わたしが前頭葉に着目したのは、そこなんですよ。多くの日本人は側頭葉や頭頂葉を使い、本を読んだり数独をしたりと、教養レベルや知的レベルを高めることにはわりと一生懸命なんだけれど、疑問を持つ、今の状況を変えるにはどうすればいいか考える、人と同じことをやっていてはダメだと気がつく、そういった力がとても弱い気がします。日本は変わり者が排除されて、協調性や共感力のある人が評価されるいやな社会だから、タクシー乗り場の行列は、みんなが並んでいるから並ぶということなんでしょう。

【橘】何時間か待てばいずれタクシーは来ると思いますけど、それはわたしみたいな人間が全員、車をつかまえたあとですよね。どれほど不合理でも、人と同じことをしていれば安心できる。逆に、合理的でも人と違うことをするのは不安だ、ということなのかなと思いました。

福岡の博多駅ビルの外の歩道でタクシーを拾うために列に並ぶ人々
写真=iStock.com/yokaew
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yokaew

【和田】子どもに普通に勉強させて成績が上がらないなら、まずやり方を変えないことには現状は打開できないのに、やみくもにもっと努力させるとか、あるいはこの子は勉強には向かないからあきらめるとか、すぐ短絡的になってしまう親がいます。親の前頭葉が働いていないから、子どもに前頭葉教育ができないのです。

全員が同じやり方で勉強しているかぎり、生まれつきの頭の良し悪しを一生逆転できない。でも勉強のしかたを変えれば、勝てるかもしれないじゃないですか。貧乏な人がどんなに“普通に”努力したって逆転できなくても、何か別の突破口を見つけられたら大金持ちになる可能性はある。今、起業して成功している人はたいていそうでしょう。

■残りの1%でどう他人と違うことをするかが重要

【和田】橘さんは、ご自身をバカだと思うことはありますか。

【橘】基本、バカの程度が違うだけで、自分も含めてみんなバカだと思っています。『バカと無知』にも書いたように、そもそも人間の認知能力は非常にかぎられていて、すべてのことを理性的に判断するなんてできるわけがない。そう考えると、生きていくうえで99%くらいは他人と同じことをして、判断を自動化したほうがいい。

伝統というのは、多くの人が試行錯誤して「こうやればうまくいく」と経験値を積み上げてきたものなのだから、その知恵を利用すれば認知資源を大幅に節約できる。でも今おっしゃったように、すべてみんなと同じなら差別化ができず、持って生まれた外見、知能、家柄などで人生が決まり、逆転の余地がなくなってしまう。そう考えれば、残りの1%でどう他人と違うことをするかが重要ですよね。基本的に99%はバカというか、他人と同じことをやっていればいい。

■みんなにバカなときと賢いときがある

【和田】最近、わたしが主張しているのは、バカな人と賢い人がいるのではなく、みんなにバカなときと賢いときがあるということ。バカなときが少ない人ほど、やはり人生はうまくいくし、最終的に賢く生きられる。長いスパンで見ると、やはりバカなときを減らしておいたほうが賢くいられると思うのです。

【橘】たしかに、長期では複利効果が利いてきますからね。少しずつでも正しい判断を積み重ねていくと、人生は生きやすくなってくる。逆に間違った判断を続けていると、いずれ挽回できなくなってしまう。

【和田】わたしが自分の成長エネルギーにしていることのひとつに「バカへの恐怖」があります。バカになりたくない、バカと思われたくないという。進歩のない人間、自己反省や自己改造ができない人間にはなりたくないんですね。

和田秀樹『前頭葉バカ社会』(アチーブメント出版)
和田秀樹『前頭葉バカ社会』(アチーブメント出版)

たとえば、東大を首席で卒業した人が会社に入ってみたら、適応力がなくてダメ社員の烙印を押され、上司から「勉強ができるからって何でもできるわけじゃないって気づけよ」とか「営業は足で稼ぐもんだ」とか説教されたとき、「あの上司はバカだ」なんて見切ってしまうと、もう自分を変えられない。でも、実際は会社で一番出来の悪い営業マンなのだから、置かれている状況を謙虚に受け止めたほうがいいよ、と思うわけです。

だから、自分がバカになってないかどうかはつねにチェックしますね。わたしはわりと感情的な人間なもので、ついカッとなって相手を批判しがちですが、ふとわれに返って「他の可能性もあるよな」「この人にも立場があるわけだし」と考えるようにしています(笑)。その点、橘さんは冷静でしょう。

【橘】自分も含めて「人間なんてこんなもの」「それを前提に生きていくしかない」という、あきらめのようなものがあるかもしれないですね。わたしたちが求めているのは、賢く生きることではなく、「幸せになること」じゃないですか。だからバカでも幸せになれるなら、人それぞれだし、それでいいと思います。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

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橘 玲(たちばな・あきら)
作家
2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎文庫)、『言ってはいけない』(新潮新書)、『バカと無知』(新潮新書)、『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹、作家 橘 玲)

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