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なぜGAFAMのトップはインド系ばかりなのか…天才を育てるインド式教育と日本式教育の決定的な違い

プレジデントオンライン / 2023年9月17日 13時15分

IISJの教室 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■インド人抜きにして世界の成長は語れない

米国のIT産業は、なぜ世界最大になったのか。ひとつの要因は「インド系人材の活用」だろう。グーグル、マイクロソフト、IBMなど世界有数のグローバル企業のトップがインド系人材なのは偶然ではない。米国のIT産業の発展はインド人抜きでは語れない。

筆者はビジネスを通じて40年間インドと関わり続けてきた。インド人には、一見身勝手にも見える自由でアグレッシブな思考が備わっている。それは、多くの典型的な日本人に決定的に欠けている要素だ。

例えば、インドでは混雑した都会の道路を赤信号で横切ることは当たり前(というか、そもそもインドには信号機がほとんどない)で、走ってくる自動車との距離感を自分で判断して自由に車の間をすり抜けていく。その一方で、日本人は車が全く走っていない深夜の交差点の赤信号で立ち止まり、信号が青になるまでじっと待っている。

こうした日本人のメンタリティはインド人には驚きであり尊敬の対象でもあるが、単純な時間の無駄とも見られている。

信号無視を正当化するつもりは毛頭ないが、まるで正反対の性格や文化的背景、行動・思考パターンを持つインド人と日本人が、それぞれの特徴、強みを生かして協力、協働できたらどうなるだろうか。

日本のIT産業の成長にも優秀なインド人材の確保が欠かせないのは言うまでもない。しかし、法務省の調査では、国内における在留インド人数はいまだに5万人に満たず、中国、韓国、ベトナムなどに比べると圧倒的に少ない。

いったいなにが足りないのか。東京都江東区にある日本最大級のインド人学校「インディア・インターナショナルスクール・イン・ジャパン(India International School in Japan:IISJ)」の創業者であり校長でもあるニルマル・ジャイン氏に聞いた。

■日本で働くインド人の子供のための学校

――IISJについて教えてください。

IISJは、日本で働くインド人IT技術者などの子供の教育支援のために、2004年に設立したインターナショナルスクールです。現在は横浜と東京(江東区)にキャンパスがあり、日本の幼稚園から高校3年生に該当する12年生までの生徒が通っています。設立当初は27人の生徒しかいませんでしたが、現在は東京には900人、横浜には400人、合計1300人の生徒が在学しています。

IISJは、インドではメジャーな教育基準であるCBSE(Central Board of Secondary Education:中央中等教育委員会)に準拠しています。CBSEは、インド人であれば誰でもよく知って慣れており、インドから来た生徒にも、また、将来インドに帰る予定の生徒にも有効な基準なので採用しています。

IISJは営利ビジネスとして運営しているのではなく、日本で働く多くのインド人IT技術者などの子供の教育を支援することが設立時からの最大の目的なので、あえて日本の教育基準に準拠してまで学校の規模を拡大するつもりはありません。当校ではインドの学校でも利用されている国際バカロレア(IB)も認定されていますが、一般的なインターナショナルスクールと比べ相対的に安い授業料で国際的な教育機会を提供していることも特徴のひとつです。

ニルマル・ジャイン氏
撮影=プレジデントオンライン編集部
ニルマル・ジャイン氏 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■親の影響で育つ理数系人材

――どんな教育方針を掲げているのですか?

IISJでは、生徒たちの思考や行動に国際性を持たせたいと考えています。将来、子供たちが彼らにとって良い仕事に就けるように教育し育成したいのです。そのために必要な基本的、本質的、かつ時代の流れや現実に即した実用的な教育を提供しようとしており、何が必用かを日々考えて実行しています。初等、中等教育の段階では、子供たちは親に頼っても当然ですが、高校卒業後には、精神的に自立できるようになることも目指しています。

多くのインド人生徒は、自分の将来のキャリア、例えば、IT技術者、医者や研究者になりたいなどという明確な志望、意志を持っています。その背景には、自分の将来について両親との会話が多いからだと感じています。多少の親からの押しつけも含めて、そこには両親の希望や子供への期待の影響が大きいことは間違いありません。おそらく生徒たちの進路希望の80%くらいには親の意思が反映されているように思います。

また、最近のインド人の親は、自分の子供にはコンピューター、ITなど理工系キャリアを勧める傾向が強いのも特徴です。IISJでもコンピューターサイエンスを含む理数系の教育に力を入れています。だから、インドの学校には理数系に強い生徒が多く育つと思っています。

■50年前にはインド人スクールはなかった

――なぜインド人学校の設立を思い立ったのでしょうか。

私は世界遺産のタージマハル遺跡で有名なウッタルプラデシュ州アグラで生まれ、デリーで法律を学び弁護士になりました。結婚後、夫の仕事の都合で日本に移り住みました。50年ほど前のことです。日本ではインドの弁護士資格では仕事ができないため、夫に言われて教師の資格を取得しました。

来日後、私たちには3人の子供が生まれましたが、当時の日本には私たちのような日本で働くインド人夫婦の子供を通わせるような学校はありませんでした。私はNHKで30年ほど働いていましたが、当時は、日本に来て働いていた若いインド人IT技術者などには集う場所がなく、私が彼らの母親代わりになって自宅に招いたりして面倒をみました。

ちょうどその頃、日本でもようやくインド人学校を設立する動きがあったので、私もそれに参加しました。学校設立の手続きや、カリキュラム作成など、全てをゼロから初めて体験しました。その後しばらくはインターナショナルスクールで教師として勤務したのですが、より多くのインドの若者を自分自身の経験を生かして支援するために、自分自身で学校を設立しようと決意したのです。

■生徒数を増やすことで優秀なインド人技術者を増やす

――IISJにはどのような子供たちが通っていますか。

1300人の生徒のうち、日本人は約5%です。日本人生徒の入学希望は増加傾向にありますが、「日本で働くインド人の教育支援」という設立の趣旨に基づき、インド人の入学を優先せざるを得ない事情があります。自分の子供を通わせる学校がないと、インド人だけでなく優秀な外国人は日本で働きたいとは思わないからです。

IISJでは、インド、日本以外にも、バングラデシュ、パキスタン、ネパールなど南アジア諸国からの生徒も受け入れています。それらの国は、基本的な教育の制度がインドと似ているからです。IISJの授業は全て英語で教えていますが、その他に、ネパール語、ヒンディー語、タミル語、日本語、フランス語の5カ国語を教えています。

インドの教育基準であるCBSEでは、母語に加えて現地語や外国語を習得するように定められています。例えば、ムンバイであれば、英語やヒンディー語に加えて、マハラシュトラ州の言語であるマラーティー語も学習します。それゆえ、日本では日本語を学習するのは当然なのです。

インド人は言語習得においては強みを持っており、多くのインド人は3~4言語、あるいはそれ以上の言語が理解できます。また、日本語とヒンディー語は構文や文法が似ているので、インド人にとっては比較的簡単に日本語を習得できます。外国語の習得に関しては、5年生までは会話が中心で、6年生になってから文法やライティングに力を入れます。その方が言語の習得が早いからです。

最近では、日本で働くインド人は着実に増えており、IISJへの入学希望者も増えています。現在は日本政府に生徒数の増枠を申請しているところですが、入学待機者は多数います。入学できない生徒たちには、当面の学習支援として、オンラインでの教育を提供しています。

IISJの授業風景
撮影=プレジデントオンライン編集部
IISJの授業風景 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■70%の生徒が理工系を志望

――IISJでは教師はどのようにしてリクルートするのですか。

教員はインドで探すこともあり日本でリクルートすることもあります。インド大使館も協力してくれています。IISJの生徒の父親の半数以上はIT技術者で、IT企業や金融機関、自動車関連企業などで働いています。彼らの妻は、比較的高い教育を受けており、教師の資格や経験、さらに修士号や博士号を持つ人もいます。

私自身もそうですが、インドの女性は、結婚後の仕事として教師の資格を取得することも多く、このような女性をフルタイムやパートでも採用できるのです。結婚した女性にとって、教師の仕事はとても良い仕事なのです。

――IISJの卒業生の進路はどうなっていますか。

生徒の約70%は理工系を志望しており、ビジネス、商業系の志望は30%程度と少なめです。多くの親は、理系の方が子供の将来が明るいと考えているようですが、最近では、ビジネス、ファイナンス分野の職業の人気も少しずつ高まってはきています。いずれにしても、人生経験の長い親の意見は子供の将来にとって重要なアドバイスとなり、両親との会話が多い子供たちは、そのことを理解しており、親の意見を尊重しているように見えます。それが親子の絆でもあるのです。

■日本の大学へ進学する生徒が増えてきた

私はIISJの卒業生の大学進学には力を入れており、できる限り優秀でレベルの高い大学に進学してほしいと考えています。当然ですが、それが実現できるか否かは個人の努力に大きく依存します。その結果、これまで、日本の大学では、京都大学、早稲田大学、慶應大学、名古屋大学、筑波大学、芝浦工業大学などに進学実績ができています。また、海外では、米国、英国、ニュージーランド、シンガポール、香港、インドなどの大学にも進学しています。医学部志望者は英国の大学に進学しています。

コロナ以前には、卒業生が米国の大学に留学するケースが多かったのですが、最近その状況に変化が出ています。つまり、日本の大学への進学が徐々に増えつつあるのです。最近、米国が外国人留学生の受け入れを絞ってきた一方で、日本の大学では、文部科学省の「グローバル30」(G30)という事業が始まり、英語での授業や、奨学金枠を増やしたりして優秀な外国人留学生の受け入れに本気で取り組んでいます。

その結果、外国人も日本の大学でレベルの高い教育が受けられるようになり、インド人もそのことに気が付いたのです。過去3~4年の傾向ですが、日本に住む多くのインド人は、自分の子供を日本の大学に行かせようと考えるようになってきています。

私が最初に日本に来た頃は、インドについては、「カレーと熱帯の暑い国」というイメージしかありませんでしたが、最近では、「インド人は理数系・ITに強い」ということが日本でも知れ渡り、教育に携わる自分としても嬉しい限りです。

※G30は、2020年を目途に30万人の留学生受け入れを目指す「留学生30万人計画」の一環で、日本の大学の「国際競争力」を高め、魅力的な教育内容を提供することで、「能力の高い留学生」を世界中から日本に集め、外国人留学生と日本人学生が「切磋琢磨(せっさたくま)」する環境を、日本国内に設けることで、「国際的に活躍できる人材の養成」を実現することを目的とする事業。

■日本への最大の貢献は優秀なインド人技術者の誘致

――IISJのこれまでの最大の成果、貢献はなんですか。

最大の成果は、インドから多くのIT技術者が日本に来て活躍できるようになったことが挙げられます。IISJができる前は、子供の教育ができないので、若い独身者以外は日本で定住して仕事をするのが困難でした。それが今では、日本でも子供の教育ができるので、家族を持つ経験豊富なエンジニアも日本で腰を据えて仕事ができるようになったのです。

その意味では、IISJは多くのインド人に日本での就労機会を増やしただけでなく、IISJの存在は日本の産業界、経済界に貢献しているとも言えるのではないでしょうか。日本では、IT技術者を増やすことが急務といわれており、IISJの存在意義や成果を日本政府や産業界にもよく知ってほしいと思います。

図書室の様子
撮影=プレジデントオンライン編集部
図書室の様子 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■インド人にとって日本語とビザの壁は高い

――優秀なインド人が日本に留学し日本で就職するには、日本語の壁が高いと聞いています。

東京大学インド事務所は、インドの若者向けに毎月オンラインで留学説明会を開催しています。以前、東大から、「多くのインド人が米国の大学に留学しているのに、なぜ日本の大学に留学する若者が少ないのか」と聞かれたことがあります。私は「従来の日本の大学は、①難しい日本語の壁、②高い生活費、③不十分なベジタリアン対応、という3つの大きな問題を抱えており、そのために、優秀なインド人学生はなかなか日本には来ないので、それらを解消したら留学生は増えますよ」と答えました。

ただ、最近の日本の大学には、英語で受講できるコースが増えています。だから、IISJの卒業生も日本の大学で学ぶようになりました。日本の大学も徐々に変化しており、インド人には学びやすくなっています。しかし、そのことはインドではほとんど知られていないので、広くインド人に周知する必要があると考えています。

ビザの問題もあります。米国で働くIT技術者などは、その両親も一定の条件の下で米国に住むためのビザがもらえますが、日本ではそうなっていません。多くのインド人の親は子供たちと一緒に住みたいと考えています。だから、能力のあるインド人は日本よりも米国を選ぶ傾向が強いのも事実です。日本が本気で優秀なインド人IT技術者、研究者を呼び込みたいのであれば、解決すべき課題が残っています。

■あらゆる分野で求められるIT技術

――近年、多くのインド人が欧米、特に米国のトップ企業などでCEOなどのポジションを得て活躍していますが、なぜそれができるのでしょうか。

最大の理由は、ずばり彼らが数学やITなどに優れた能力を持っているからです。特に最近ではIT技術は本当に重要で必須です。例えば、PCメーカーのデルの創業者は大学を卒業していません。アップルの創業者のスティーブ・ジョブスも大学を卒業してはいません。それでも、彼らにはITのセンスと技術があったので世界的なPCメーカーを創業できたのです。インド人にも大学教育や高度な専門教育を受けていなくてもITビジネスで成功している例は多くあります。現代社会では、IT技術はあらゆる分野で必須であり、多くの人たちが習得すべき重要かつ有効な能力なのです。

■「自分の人生のリーダーは自分」「チャレンジを楽しめ」

――日本にもIT技術に優れた人材はいると思いますが、なぜインド人が飛びぬけて世界で活躍しているのでしょうか。

私の目から見ると、日本の若者は過重なストレスの下で育っているからかもしれません。そのために思考や行動において自由度が少ないように見えます。インド人は、自分が自分の人生のリーダーであるという思考がとても強いのです。つまり、自分の考えは正しいと肯定的に考え、なんでもできるのではないかと前向きに考える傾向が強く、自分の意志に従って思うように行動するのです。

IISJでは、生徒だけでなく彼らの親に対しても、「なにも心配する必要はない。頭と心をリラックスさせなさい。欲しいものは手に入るし、やりたいことは必ずできる」と前向きかつ肯定的に話をしています。学内の試験においても、「結果は気にするな、自分が頑張ったのならそれでいいのです」と心配を取り除いてリラックスさせることに注力しています。ベストを尽くせば、それでいいのです。それ以上を心配しても仕方ないのですから。

大学入試でも同じです。レベルの高い大学を目指すことでストレスを感じるのではなく、「自分自身を高めて成功に近づくためのチャレンジだと捉えるように」と教えています。まずは生徒に明確な目標を持たせ、その目標を達成するにはどうすればいいかを教え、あとは、その目標に向かってベストを尽くせばそれでいいのです。高い目標を重圧と感じさせるのではなく、自分の夢を達成するための希望にあふれたワクワクするチャレンジだと思わせて、楽しんで取り組むようにすることがベストなのです。

私は、生徒たちには常に「学校は楽しい場所だ」と思ってもらうように考えて行動しています。IISJでは、校長の私が生徒のいる教室に突然入っていっても、どの生徒も全く緊張せず、リラックスして笑いながら楽しく声をかけてくれます。自分自身も、生徒がそうなるように振る舞っています。それが私の教育ポリシーなのです。

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西川 裕治(にしかわ・ゆうじ)
科学技術国際交流センター(JISTEC)上席調査研究員
1951年生まれ。広島大学工学部卒業し、76年日商岩井(現・双日)入社。20年間海外営業を担当し、インドネシア、スリランカに駐在。広報室、人事総務部、日本貿易会出向を経て、12年より日本在外企業協会『月刊グローバル経営』編集長。15~18年 科学技術振興機構(JST)インド代表を経て、22年より現職。23年よりJSTアドバイザ。世界の優秀な若手人材を日本に招聘するJSTの「さくらサイエンスプログラム」の推進に携わる。

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(科学技術国際交流センター(JISTEC)上席調査研究員 西川 裕治)

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