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なぜ日本では「すぐに住めるきれいな家」が大量放置されているのか…空き家問題が解消しない根本原因

プレジデントオンライン / 2023年11月23日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/akiyoko

なぜ日本では「空き家問題」が発生しているのか。空き家コンサルタントの和田貴充さんは「売却するのか、賃貸に出すのか、親族の誰かが使うのか……。結局は、家族の心が決まらないため、放置される空き家が増えてしまっている」という――。

※本稿は、和田貴充『今すぐ、実家を売りなさい』(光文社)の一部を再編集したものです。

■実家が「空き家」になる前にやっておくべきこと

現在、別居ではあるが、親も健在。自分たちは家族で自宅を購入・賃貸して幸せな日常を過ごしているみなさん。

このタイミングだからこそ、空き家対策は効くのです。年老いた両親がいるなら、いずれ実家が空き家になる日に備えて、今からできることに取り組んでいきましょう。この本では、みなさんにこう提案していきたいと思っています。

なぜなら、実家が空き家になる前に準備ができていれば、実際に空き家になったときに悩まずにすむからです。

誰も人が住んでいなくてもかかる費用(固定資産税、火災保険などの保険類、電気、ガス、水道といった公共料金、庭木の剪定や掃除といった管理費)を、払わずにすむことができるのです。

ここからは、実家や空き家の状態と、読者のみなさんの立ち位置を対応させながら、僕が考える処方箋をお話ししていきたいと思います。図表1をご参照ください。

空き家の問題の所在マップ
『今すぐ、実家を売りなさい』より

■最も大切なのは親との会話

タイプ①特効薬は「家族の会話」

まずは図表1の①の状況に当てはまるという方に実践していただきたいこと。実家を空き家にしないためにもっとも大切なのは、まずは両親からどうしてほしいかという意向を聞いておくことです。ただ、ナイーブな内容ですから、話をするにあたって配慮が必要ですね。

実家に帰省して、「ねえ、お父さんとお母さんが亡くなったら、この家はどうしたらいい?」といきなり切り出したら、「そんな話はするんじゃない!」と怒られてしまいそうです。

そこでおすすめなのが、思い出話をすることです。帰省したときにふとした会話の中に出てくる思い出話の機会を逃さず、親が実家の土地や家屋をどうしたいと考えているかを、さりげなく聞き出すのです。とりわけ、子どものころの思い出話は盛り上がるもの。

例えば、僕にも小学校時代の鉄板エピソードがあります。僕は小さいころ、暗いところが大嫌いでした。でも、子どもながらに弱いところを見せたくないと思っていたのか、2階の部屋に行くときには、まず妹に先に行かせて電灯をつけさせてから、おもむろに自分も階段を上っていたものです。僕の怖がりは家族にバレていて、みんな気づかないふりをしていたのです。この話をすると「そういうこともあったねー」と家族でいつも盛り上がり、笑いが起きます。その笑いが起きたときが絶好のチャンス。

「あれから40年経ったよね。この家も建て替えするの?」とさりげなく聞くのです。すると親も、「自分たちが死んだら、この家は売っていいよ」「家の処分については遺言書に書いておくけど、物が多いから少し処分しておこうかね」などと前向きに考えてくれるでしょう。

■「家を頼むぞ」ではダメ

実家の扱いについて親と一度でも話ができていれば、片付けをするなどという次のステップに進みやすくなります。ゆくゆく家を売却する場合でも、相続後にためらうことなく動けますし、親族にも「本人の希望なので」と説明することができます。

両親を淋しい気持ちにさせず、楽しい思い出話とポジティブな雰囲気の中で、待ち受けている未来について話すこと。これが、タイプ①に当てはまる方への、実家の処遇についてのコツです。

ここでよくあるのは、「両親から『家を頼むぞ』と言われた」という話です。「頼むぞ」とは、売らずに守ることなのか、好きなようにしていいのか――。この解釈に悩み、もしくは想像をめぐらせ、長らくお金を払いながら保有していた人も多くいます。

「頼むぞ」という抽象的な言葉ではなく、「売っていい」「処分しなさい」といった具体的な指示をもらうことを大切にしてください。親が亡くなったときにすぐ実家を処分するのは気が重いものです。家族みんながゴールを頭に入れておくと、いざというときに迷わず意思決定ができます。

実家を売るのか、貸すのか、それとも親族の誰かが受け継ぐのか。そのどれにするのかを、できるだけ両親の意思を聞き、イメージしておきましょう。

■片付けは親族だけで行ってはいけない

タイプ②とにかく「片付け」が問題を前に進める

実家を相続して、空き家の所有者になった図表1のタイプ②に当てはまるあなた。面倒な相続を終えただけでやり切った感がありますよね。

「やれやれ、やっと終わった。実家は空き家になったけど、まあしばらくこのまま置いといて、そのうちなんとかしよう」と思っていませんか? 「そのうち」って、いったいいつ対処するんですか? このままずるずると数年が経ってしまう、というのはよくある話です。

とくに遠方に実家があったりすると、よくても年に一度しか行けない、というのはみなさんも現実味があるのではないでしょうか。

プロに頼んで、とにかく片付ける、きれいにする両親がなくなって一周忌が終わったら、あるいは三回忌が過ぎたら手を付けよう。それまでは、遺品や家族の思い出の品もそのままにしておこう。そしていざ片付けようと実家へ行くと、アルバムを開いて何時間も見入ってしまう……。「これは必要、これは不必要」と仕分けているつもりが、どれも大切に思えて、とりあえず片付けをやめてしまう、なんていう展開もよくあります。自宅の引っ越しでも同じような経験をした方はたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。

僕たちに寄せられる相談も、片付いてないものや残置物が山盛りなケースがほとんどです。

実家の片付けを進めるときは、

①業者など他者の力を借りること
②8~9割は処分する覚悟を持つこと

の2点がポイントです。

■さっさと捨てるべきもの

家族が片付けようとすると、思い出に浸ってしまってなかなか進まないもの。それが片付けのプロと一緒に手を付けはじめると、不思議なほどするする進むのです。さらには実家を売る/貸すといった決断も、胸のつかえが取れて、スムーズにできるものです。プロへの相談費用はかかりますが、そのまま放置し続けた場合にかかる費用や、どんどん売却金額が下がっていくことを考えれば、圧倒的にお得です。ついでにご近所へかける迷惑も考慮して、庭の樹木なども処理しておけば、対処をしている期間中に近隣と関係が悪化したり、足が遠のいたりすることもなくなります。

国土交通省「令和元年空き家所有者実態調査」によると、空き家のままにしておく理由の1位は「物置として必要だから」で、次いで「解体費用をかけたくない」「更地にしても使い道がない」となっています。このほかに「住宅の質の低さ(古い・狭いなど)」「将来、自分や親族が使うかもしれない」「好きなときに利用や処分ができなくなる」といった理由も見られます。

ただ、「物置として必要」というのは、言い換えれば「家の中にある大量の物を片付けるのが面倒で、結果として物置になってしまっている」ということでしょう。確かに、何十年もの間に蓄積された思い出の品を整理し処分するのは、大変な労力を伴います。

■手元に残すものは1~2割でいい

親が生きているうちに、しっかりコミュニケーションを取りながら、できるものから片付けていけるといいですね。また、たくさんの物の中で、家族が実際に使える物はごくわずかです。引き出物でいただいたバスタオル、子どものころの学用品、食器類など……。これらの物は、もったいないと思わずに、思い切って処分してしまいましょう。

今、使っていないのであれば、これからも絶対に使いません。手元に残すものは1~2割に絞りましょう。

せっかく片付けてきれいにした部屋でも、使われていないとどんどん傷み、長く放置している状態に戻ってしまいます。片付けが終わったものの、具体的な売る/貸すといった対処の完了までは時間がかかりそうな場合は、見回りや管理、通風などを代行してくれるサービスなどを利用します。

月々かなり安い金額で実施できることも多いので、雨漏りや床が抜ける、湿気がたまって壁が剝がれるといった状態にならないよう、ぜひ定期的な管理を行うことをおすすめします。

古家リフォーム物件のリフォーム前
写真=iStock.com/TATSUSHI TAKADA
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TATSUSHI TAKADA

■不動産の対処方法は3つだけ

タイプ③不動産の対処方法の全体を理解して進める

空き家を所有し、そして片付けまで終わった。そんな人はページ図表1の③のタイプに当てはまる方も多くいます。一日も早く対処しましょう。

しかし、不動産会社に自分の物件の対処を依頼しようにも、どんな対応方法があるのかすら知らない方も多いことでしょう。まずは不動産取引の全体像を把握して、相談先の不動産会社から提案されるものが空き家について回る問題に対して網羅的なのか、それとも部分的なのかを整理することが大切です。

足りない部分があれば、別の会社にも話を聞いてみます。その際に、聞くべきことも明確ですよね。「他社では売ることを前提に話をされたのですが、貸したりはできないのでしょうか?」と。

空き家とはいえ、早期に対処できれば立派に売れる中古不動産です。これからお話しする方法で、手持ち資金の有無や、実家がある地域の市場も勘案しながら対処を検討してみましょう。

網羅的に選択肢を出した上で、自分の望む方向で実現可能な手段を選択します。

まず、不動産の対処方法は、3つしかありません。

その1、売却する
その2、貸す
その3、自分が使うか、家族か親族の誰かが住む

このどれかです。

■放置で得することは何もない

空き家問題の本質のひとつは、長らく放置することで、その間の費用が増え、のちの収益も減少させてしまうことにあります。それどころか、将来処理をする際にも、さらに出費が増えてしまう可能性も高い。

逆に考えると、今すぐにでも親と話すこと。これは0円です。次に片付けをする、そして物件の状態がよいうちに不動産会社に相談すること。すべて早めの対応が、かかる費用を軽減し、よい条件で売れる/貸せる可能性を高めます。

図表2で詳しく説明しますが、当然、僕たちでいう「0.5次対応」で早く手を付ければ、1次対応、2次対応でコストを少なく、高い価値でプラスの取引ができます。

対処のタイミング別コストの見立て表
『今すぐ、実家を売りなさい』より

■空き家問題の本質は、「人の心の問題」

繰り返しになりますが、これだけ合理的に誰もが納得する計算ができるのに、空き家のまま放置するのは、家族の心が決まらないためです。

売却するのか、賃貸に出すのか、親族の誰かが使うのか……。家が古いからどうせ売れない、と決めつけている人もいます。

しかし、その結果、空き家が市場に出回らず、空き家を使いたい人たちがいるにもかかわらず、欲しい人のところに情報も物件も行き渡らないという状況になっているのです。

そうです。空き家問題の本質は、「人の心の問題」です。「誰に相談したらいいのか分からない」「面倒くさい」ために、せっかくきれいな家なのに、何年も、ときには10年も20年も放置している家すらあります。所有者さんが空き家をどうしたいかという意思が定まらずに放置しているために、「世の中に空き家が出てこないのが問題」なのです。

和田貴充『今すぐ、実家を売りなさい』(光文社)
和田貴充『今すぐ、実家を売りなさい』(光文社)

空き家はたくさんあり、買いたい人もいっぱいいる。それなのに、所有者さんが手放す動きをしないために、売る物件がないといういびつな現象が起きているのです。その現状を変えるためにも、僕は「そのまま何年も放置しておくのだったら、誰かに使ってもらいましょう」と、所有者さんの背中を一押ししたいのです。

人が住むことで、家の物語は続いていきます。雨戸を閉めたままの家が点々とある状態は、街の物語を分断させてしまいます。街を悲劇的な状態にしないためにも、空き家はそのままにせず、次に住む誰かにつないでいきましょう。

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和田 貴充(わだ・たかみつ)
空き家活用 社長
1976年生、大阪府摂津市出身 。24歳で不動産業界へ飛び込み、新築分譲会社で営業責任者を経験。 2010年、新築戸建分譲の株式会社オールピース設立。2015年空き家活用株式会社を設立。自社で空き家調査を行い16万件のデータを収集。そのノウハウを活かし、自治体サポートサービスを開始。自治体が自ら空き家を調査し閲覧・管理ができるアプリケーション「アキカツ調査クラウド」を提供。「アキカツカウンター」では、空き家所有者のよろず相談に乗り、活用希望者へと繋げる。 YouTube「ええやん!空き家やんちゃんねる」では空き家情報を発信し利活用希望者とマッチングを実現。1年で登録者36,800人超え、総動画再生回数550万回を突破。

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(空き家活用 社長 和田 貴充)

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