【毒母育ち】役立たずの"ぬりかべ父"は子分…部屋で荒れ狂った猛毒母が15歳娘を本気で絞め殺そうとした日
プレジデントオンライン / 2023年12月23日 11時15分
ある家庭では、ひきこもりの子どもを「いない存在」として扱う。ある家庭では、夫の暴力支配が近所に知られないように、家族全員がひた隠しにする。限られた人間しか出入りしない「家庭」という密室では、しばしばタブーが生まれ、誰にも触れられないまま長い年月が過ぎるケースも少なくない。
そんな「家庭のタブー」はなぜ生じるのか。どんな家庭にタブーができるのか。具体事例からその成り立ちを探り、発生を防ぐ方法や生じたタブーを破るすべを模索したい。
今回は、15歳の時に両親を見限り、脱出計画を立てた現在30代の女性の家庭のタブーを取り上げる。彼女の「家庭のタブー」はなぜ生じたのか。彼女は「家庭のタブー」から逃れられたのだろうか。
■自己愛母とぬりかべ父
東海地方在住の奈良弥生さん(仮名・30代)の両親は、父親が28歳、母親が26歳の時にお見合いで出会い、翌年結婚。母親が29歳のときに奈良さんが生まれ、その6年後に弟が生まれた。
「母曰く、まわりの目もあるので早く家庭を持ちたくて、安定した収入を得られる公務員の父と結婚したそうで、愛はなかったようです。両親が仲良く話しているところを見たことがありません。不仲というよりは淡々としていました」
奈良さんによると、母親はとにかく短気で、気に入らないことがあるとすぐに切れて叫び出すという。田舎で「女に学歴は必要ない」と両親に言われて育ち、最終学歴は短大卒。学歴コンプレックスから、子どもには勉強や習い事を強要した。
「母は、『女は結婚して家庭に入るんだから教育なんて受けなくていい』という価値観で育ったとよく愚痴っていて、自分に学歴がないことがとてもコンプレックスで、親を恨んでいました。かといって、知識やキャリアを獲得しようという努力はしない人でした」
奈良さんが物心ついたときにはすでに母親の支配は始まっており、気に入らないことがあると、「ブス、バカ、役立たず」などと罵られるのは日常茶飯事。逆らえば平手打ちが飛んできて、ヒートアップすると容赦なく腹部を殴られた。
一方、父親は母親の言いなりで奈良さんが罵られていようが殴られていようが、同じ部屋でお笑い番組を見て笑っていられる人だった。
「子どもの頃は、体が大きく見えたので、何もしないでただぼーっと存在しているその姿は、ゲゲゲの鬼太郎のぬりかべみたいだと思っていて、決して『親』ではありませんでした。家族以外からは、柔和な印象で妻に付き添う“いい夫”に見えていたと思います」
母親は、6歳下の弟には暴言だけにとどめ、暴力は振るわなかった。長男だからなのか男の子だからなのかはわからないが、きょうだいで差をつけられていたようだ。物心ついたときから反骨精神を持ち、納得できないことには反論していた奈良さんに対し、弟は支配的な母親に怯え萎縮し、おとなしい性格に育っていた。
■見栄ばかりで足るを知らない生活
奈良さんの母親は、いつも「お金がない、お金がない」と言い、夜中まで内職をしていた。家族旅行はほとんどなく、外食も月に一度あるかないか。父親は公務員なのに、なぜそんなにお金がなかったのだろう。
「母は、結婚前は大手企業で働いていました。わが家は田舎だけど持ち家の一軒家で、外車を2台所持しており、庭はいつもきれいな花が咲いていました。さらに、私と弟は数多くの習い事をさせられ、私も弟も私立の中学受験をさせられました。私が中学生になったあたりから、母はショッピングセンターや運送会社の裏方事務のパートに出始めましたが、自分も同じ立場なのに『ろくな人間がいない人材の墓場だ』と愚痴っていました」
つまり、わざわざ身の丈に合わない生活を選択して、自分で自分の首を締めていたということだ。
「母は、車も家もきれいで子どもも良い学校に通っているという理想を実現するために、子どもを支配していました。どこの学校に通うか、どの友達と遊ぶか、何の習い事をするか、今日何を着るか、今日は何時まで勉強するかまで、全部母に決められて反抗は許されませんでした」
いつも「お金がない、お金がない」と言われれば、大黒柱である父親は面白くないはず。だが、父親が母親の金遣いの荒さや見栄っ張りをたしなめた様子はない。おそらく父親も、精神的に母親に支配されていたのだろう。
それでもまだ奈良さんは、自分の家庭がおかしいとは夢にも思っていなかった。
■もしかして、うちの親っておかしい?
奈良さんは4歳の頃からピアノ・プール・体操・習字・英語・2年ほど先取りの学習系通信教育、そしてスケートをやらされ、10歳から中学受験の塾に通わされていた。
「母は、『お前は人よりも劣っているから、人よりも何倍も努力しなければならない』が口癖でした。どれも自分からやりたいと言ったこともなければ、やめる権利もありませんでした。どんなに嫌で泣いても、親が不機嫌になるだけでかえってつらく当たられるので、だんだんと抵抗することもなくなりました」
小学校高学年になったとき、当時は毎日ピアノの練習を2時間+受験勉強を2時間させられ、毎週のように全国模試を受けさせられていた。そして、模試でどんなに良い順位をとっても、悪い部分ばかり指摘され、なじられるばかりで、褒められたことは一度もなかった。
一度奇跡的に全国3位を取ったことがあったが、母親は、「なんでいつもこれくらい頑張らないの? 親の金をドブに捨てさせたいの?」と冷たく言い放っただけだった。
「この頃の私は、小学校の友だちが、『良い成績を取ると、親は喜んで褒めてくれる』『悪い成績を取ると、次はどうするか一緒に考えてくれる』と話しているのを聞いて、『なんで成績が下がったあの子は殴られないの?』『先生はこんなに褒めてくれるのに、なんでうちの親は褒めてくれないの?』『もしかして、うちの親っておかしい?』と思い始めていました」
しかし、まだ小学生の奈良さんには知識も語彙(ごい)力もなく、母への違和感をうまく言語化できないまま月日が流れていった。一度芽生えた親への猜疑心によって勉強に身が入らなくなり、成績はみるみる下降。受かるはずだった第一志望の中学校に落ちてしまった。
■過干渉からネグレクトへ
奈良さんが第二志望の中学校に通い始めると、母親はすっかり失望し、今までのガチガチに管理する過干渉から一変して、ネグレクトが始まった。
「第二志望を選んだのも母なのに、第一志望に入れなかったことがどうしても納得いかなかったようです。この手のひら返しには参りました。今まで何時に何をするかなど、一日のスケジュールは全部母に決められていたので、急に手綱を放棄され、自分が今日何をすればいいのか、本気でわからなくなりました」
物心ついたときから、一挙手一投足まで親に決められた生活をしてきた子どもは、自分で考え行動する力が身に付かないということを表す実例だ。
何時までに学校に着くには朝何時に起きて、何時に家を出なければいけないなど、自分で計画を立てることや、時間を管理することをしてこなかったため、毎日のように遅刻してしまう。中学の制服のリボンの結び方もわからなかった奈良さんは、母親に聞いても無視されるため、学校で友だちに教えてもらった。
中学生になった奈良さんは、自分の親がいかにおかしいのかが気になって仕方がなくなり、「機能不全家族」や「アダルトチルドレン」について本やインターネットで調べまくった。そしてよせばいいのに、得た情報を母親に訴え続けた。
もちろん母親が耳を貸すことはない。それどころか、自分の言うことを聞かない“家庭内の異分子”として、ひらすら虐げられる。奈良さんが「歯が痛いから病院に行きたい」と言えば、「そう言ってせしめた金で遊ぶんだろ?」と母親はいやらしく笑う。
「いや、遊ばないよ。虫歯だと思うからお金ください」と食らいつけば、「なら頭下げろよ。稼げないくせに」と嘲る。
またあるときは、「制服を1年も洗ってないからクリーニングに出したい」と奈良さんが言えば、「お前は本当に金がかかるな! 早く家から出てけ!」と怒り狂う。
挙げ句の果てには、「ピアノを辞めたい」と言うと、「こんなに金をかけたのに無駄にしやがって! なら学校も辞めさせるからな!」と勝手にキレ散らかしたうえに脅される。
「そもそも会話が成り立ちません。私に人権などありません。出来損ない、ごくつぶしと嘲られ、部屋は無遠慮にあさられ、暴言・暴力は日常茶飯事。歯向かうと大事な物を捨てられたり壊されたりし、『学校に行かせないぞ』と脅されました。絶対的な家庭内権力の差に、子どもの身分では抗うことは不可能でした」
かろうじて衣食住は与えられ、世間体を気にしてなのか、暴力は痕が残らない程度。私立中学に通わせてもらい、他人からは、「お金をかけてもらっているお子さん」にしか見えない。
しかし連日奈良さんと母親が大声で言い争い、物が壊れる大きな物音がしていたはずだが、近所の人や警察が何かを言ってきたことも、助けてくれたことも一度もなかった。
「毎晩悔しさと怒りで頭の中が“真っ赤”になり、泣き疲れて寝落ちするありさまで、『死ぬほど泣いても涙は枯れない』ということを思い知りました」
母親は自分の親を恨んでおり、関係は希薄。父方の祖母は奈良さんの母親との嫁姑関係が険悪だったため、祖母は奈良さんをかわいがらなかった。
他人を頼ることができない環境で育ったせいか、奈良さん自身が教師や友人に助けを求めたことは一度もなかった。
■最悪の日
奈良さんが中学3年生になったある日のこと。その日の母親は特に虫の居所が悪かったようで、たちまち奈良さんと言い争いになった。
「母にとっては、私に当たれれば何でもよかったように思います。制服を片付けていないとか、食事の後に食器を下げなかったとか、いつも火種は日常のささいなことです。どんなに気をつけていてもどうしようもなく、弟の試験の成績が悪ければ、『お前に金をかけすぎたからだ!』などと理不尽な怒りをぶつけられることも非常に多かったです。突然過去を蒸し返されることもあり、地雷がどこに埋まっているか全く予想もつかないため、避けることは不可能でした」
中学3年生ともなれば体格は母親と同じくらいだが、44歳になっていた母親は奈良さんにつかみかかり、ベッドに押し倒す。母親が馬乗り状態になり、動きを封じられた奈良さんが怯んだその拍子に、あろうことか母親は自分の娘の首に手をかけ、こう叫んだ。
「お前さえいなければ‼‼‼」
奈良さんは一瞬耳を疑ったが、必死にもがき、母親の腕を振りほどくと、半ばパニックになりながら仕事中であるはずの父親に電話をかける。そして代表電話番号に出た人に、「奈良の娘です。緊急事態なので電話をつないでください」と震えた声で依頼。電話に出た父親は話を聞くと困惑した様子で、「わかった帰る」とだけ言った。
電話を終えた奈良さんは、家を飛び出し、近所の公園に身を隠した。
「自分の娘に手をかけるなんて、いくら気が立っているとはいえ狂っているとしか思えません。母から逃げるために外に出ましたが、暗くなった公園にはホームレスがうろついており、それはそれでめちゃくちゃ怖かったのを今でも覚えています……」
父親が帰って来た頃を見計らって家に帰ると、部屋にあった物が全部ゴミ袋に詰め込まれ、荒れ放題の奈良さんの部屋に、怒りと興奮で真っ赤な顔をした母親と、呆然と立ち尽くす父親がいた。
「学校の教科書とかカバンとか、とりあえず部屋のものを手当たりしだいゴミ袋につっこんだような感じでした。でも、母は本当に捨てる勇気はないんです。その証拠に破られたりはしておらず、それらを私に泣きながら現状復帰させることで、支配感に酔いたかったのではないかと思います。何時間も私を立たせたまま説教をしているときの母親は、それはもう楽しそうでしたから。怒って子どもを屈服させることに快感を覚えていたんだと思います」
父親がいることにかすかな安堵(あんど)を覚えた奈良さんは、「お母さんをなだめてくれたのかな? さすがに仲裁してくれるかな?」という淡い期待をしていた。
しかし次の瞬間、その期待は無惨にも打ち砕かれる。
「お前、お母さんに何をしたんだ?」
感情のこもらない声で父親は言った。奈良さんは電話でも伝えたが、もう一度順を追って起こったことを父親に説明した。
「父を呼んでも意味はなかったですね。ただ“母がブチ切れて暴走した”ということのみが最優先されました。その後、母は私の部屋のものを捨てることをやめ、両親ともリビングへ戻り、私は茫然としながらゴミ袋を開封しました。ただただみじめでした……」
この日を奈良さんは「最悪の日」と呼ぶ。
部屋の現状復帰をしながら、奈良さんは思った。「父も母ももう駄目だ。どうにもならない」
人生最大の絶望を感じていた。
奈良さんの「家庭のタブー」はなぜ生じたのか。彼女はその地獄の淵から逃れられたのだろうか。(以下、後編に続く)
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ライター・グラフィックデザイナー
愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する連載の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、東洋経済オンライン「子育てと介護 ダブルケアの現実」、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、日経BP 日経ARIA「今から始める『親』のこと」、朝日新聞出版『AERA.』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。
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(ライター・グラフィックデザイナー 旦木 瑞穂)
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