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じつは「ハイボール」は和製英語ではない…ハネムーン、ブライダル、ネクター「身近な英単語」の意外な由来

プレジデントオンライン / 2024年2月29日 7時15分

ハネムーンは「ハチミツ酒を飲む習慣」に由来(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/kkshepel

身近な英単語にはどのような由来があるのだろうか。元高校教師の清水建二さんは「ハネムーンはゲルマン人の花嫁の最初の仕事が1カ月間のハチミツ作りだったことに由来する。英単語の語源にはヨーロッパや世界の歴史が隠れている」という――。

※本稿は、清水建二『英語は「語源×世界史」を知ると面白い』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

■ハネムーンは「ハチミツ酒を飲む習慣」に由来

牧畜を主な生業(なりわい)とするゲルマン人は狩猟や農業も行っていたが基本的には肉食であった。

彼らが飲む酒は「ミード(mead)」と呼ばれるハチミツ酒であった。

ハチミツは水に混ぜて放置していると自然に発酵しアルコールになるので、農耕が始まる以前からあった世界最古の酒だと言われている。

一説ではクマが荒らしたハチの巣に雨水が溜まり、たまたま通りかかった狩人が飲んだことに始まるとも言われる。

「新婚旅行」の「ハネムーン(honeymoon)」という言葉は古代ゲルマン人が結婚後30日間、ハチミツ酒を飲む習慣があったことに由来する。

つまり、「honey(ハチミツ)+moon(月)」=「蜜月」が語源である。

■ゲルマン人の花嫁の仕事は「ハチミツ作り」

夫の家に嫁いだ花嫁の最初の仕事は1カ月間家にとどまり、ハチミツを作ることであったが、ハチミツには強壮作用があり、ハチの多産にあやかるためのものでもあった。

中世のイギリスでは、honeymoonという言葉は、月の満ち欠けのように、新婚夫婦の愛情と優しさに満ちた期間もすぐ変わってしまうことを伝える警句として使われていたもので、「新婚旅行」の意味で使われるようになるのは19世紀に入ってからのことである。

honeymoonは特に政治の世界では文字通り、最初の親密な関係を表す「蜜月期間」の意味でも使われ、“The honeymoon is over.(蜜月期間は終わった)”のように、すぐに終わってしまうことを示唆(しさ)する否定的ニュアンスの表現である。

■「花嫁」「パン」「出汁」の共通点

インド・ヨーロッパ語族に属する国々では古代、花嫁の仕事はほかに、パンを焼くことと出汁を作ることであった。

「花嫁」のbride、「パン」のbread、「出汁」のbrothはどれも印欧祖語のbhreu(泡立てる、グツグツ煮る、焼く)が基になっている。

broil(グリルの直火で焼く)、brew(醸造する)、breed(繁殖させる)、brood(卵を抱く)、braise(蒸煮する)、bribe(賄賂(わいろ))などはゲルマン語経由で英語に入ってきた単語である。

このうち、bribeは物乞いにパンの小片を与えることが原義で、のちに役人に贈る「賄賂」の意味に変化したものであるという説があるが、一方でパンをちぎる行為のbreakに由来するという説も興味深い。

■ブライダルの語源の一部は「ビール」

bride(花嫁)の形容詞はbridal(花嫁の)だが、この単語は「bride(花嫁)+ale(エール)」が語源で、花嫁とイギリスの伝統的なビールのエールの2語からなる造語であった。

グラスに注ぐビール
写真=iStock.com/nitrub
ブライダルの語源の一部は「ビール」(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/nitrub

なお、「花婿」はbridegroomという。夫に先立たれた女性、つまり「未亡人」はwidowというが、逆の「男やもめ」はwidowerという。

このように、女性を表す名詞から男性を表す名詞が生まれるのは稀(まれ)である。

なお、「花婿」のbridegroomは単にgroomと言うこともある。

日本語では「新郎新婦」の語順だが、英語では、bride and groomとなる。

■「グルーミング」は「幼い少年」から

groomは、元は「幼い少年」の意味で、grow(成長する)と同語源であると思われる。

また、groomは、19世紀に入ってから、「馬の世話をする男性の使用人」の意味で使われるようになると、やがて動詞として「(馬に)ブラシをかける」や「(動物の)毛づくろいをする」という意味で使われるようになった。

名詞形はgrooming(グルーミング)となる。

印欧祖語のbhreuはラテン語では、bはfの発音に変化し、ferment(発酵する)、fervent(熱烈な、燃え盛る)、fervor(熱情)、fervid(熱烈な)などの英単語を作り出している。

■ハチミツ酒を愛飲していたギリシャ人

meadという単語はゲルマン祖語のmeduz、さらには印欧祖語で「ハチミツ」や「甘い飲み物」という意味のmedhuにさかのぼることができる。

medhuが基になる単語は、ゲルマン語派の国々だけでなく、ケルト語派やスラブ語派の国々、さらにギリシャ語、リトアニア語、サンスクリット語、ヒンディー語などにも見られることから、古代から様々な国々で愛飲されていたことがわかる。

ギリシャ神話に登場する神々は不老不死の酒を飲んでいたために永久に死ぬことはなかったと信じられ、古代ギリシャ人はハチミツ酒をネクター(nectar)と呼んで愛飲していた。

現在でもバルト三国の一つであるリトアニアでは、ハチミツ酒は国家遺産に登録されているほど国民に愛されているものである。

ちなみに、某食品メーカーの商標ともなった「ネクター(nectar)」は「nec(死)+tar(超える)」が語源で、tarは印欧祖語で「通る」「超える」という意味のtereにさかのぼる。

蜂蜜
写真=iStock.com/Alter_photo
ハチミツ酒を愛飲していたギリシャ人(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Alter_photo

■「アバター」は「神の化身」

時空を超えて現世に現れた神の「化身」である「アバター(avatar)」も同語源。

tereは接頭辞trans(超えて、越えて)の基になり、transfer(移す、移る)、transform(変形させる)、transit(通過)、transition(推移)、translate(翻訳する)、transmit(送信する)、transport(輸送する)、trance(催眠状態)などの同系語がある。

やや形は変わるが、through(~を通って)やthorough(完全な)のほかに、心に突き通すような感覚から「スリル、ぞくぞくさせる」のthrillやthrillingなども同系語である。

やがて、人口の増加に伴ってミードの供給が追いつかず、高価なものとなったため一般市民は祭礼など特別な時以外は飲むことができなくなった。

アバター
写真=iStock.com/ST.art
「アバター」は「神の化身」(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/ST.art

■ゲルマン人が愛飲した「ビール」

そこで、ミードに代わってゲルマン人たちによって飲まれるようになったのがビールだ。

ゲルマン人は野牛の角で作った杯、つまり「角杯(drinking horn)」でビールを飲むことを常としており、大酒飲みとして知られていた。

一度羽目をはずすとローマの重装歩兵部隊も恐れおののくほど全く手の付けられない状態になるのが常であったようだ。

ゲルマン人の身体的な特徴としては、碧眼、金髪、長身などが挙げられる。

発掘された人骨やサンダルなどの出土品から平均的な男性の身長は170cm程度であったと推定されている。

ローマ人は自分たちより20cm近く身長の高いゲルマン人が暴れまわる姿を見ただけで恐れおののいたであろうことは容易に想像できる。

■「ビブス」の本義は「赤ちゃんのよだれかけ」

ローマ人にとって、ゲルマン人とビールは得体のしれない存在だったようだ。

「ビール」は英語で、beer(ビア)、ドイツ語で、Bier(ビーア)で共にゲルマン語に由来するが、ラテン語で「飲み物」のbiberや「飲む」のbibereからの借用だと思われる。

水以外の「飲み物」のbeverageやスポーツ選手が識別のために胸に当てる数字や色のついた「ビブス」のbibも同語源だ。

なお、「ビブス」の本義は「赤ちゃんのよだれかけ」のことだ。

よだれ掛け
写真=iStock.com/SweetyMommy
「ビブス」の本義は「赤ちゃんのよだれかけ」(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/SweetyMommy

出所によりデータは異なるが、統計情報リサーチのデータによると、男性の平均身長で180cmを超えている国は全世界で18カ国あるが、ドミニカ共和国以外は全てヨーロッパの国々である。

このうち、ゲルマン系の国は、オランダの183.8cmをトップに、デンマーク、アイスランド、スウェーデン、ノルウェー、ドイツと続いている。

■「stand」も「station」も語源は同じ

「身長」はhigh(高い)の名詞形のheightで表すが、改まった場面ではstatureが使われる。

清水建二『英語は「語源×世界史」を知ると面白い』(青春出版社)
清水建二『英語は「語源×世界史」を知ると面白い』(青春出版社)

語源は印欧祖語で「立つ」や「据える」を表すstaにさかのぼる。

基本単語でいえば、stand(立つ)、stay(滞在する)、stage(舞台、段階)、station(駅、局)、status(地位)、state(国家、州)、rest(休憩)、post(柱、地位、ポスト)などがある。

その他、distant(遠い)、constant(安定した)、instant(即座の)、assist(援助する)、consist(構成する)、exist(存在する)、resist(抵抗する)なども同語源である。

なお、北欧のフィンランドもトップ18カ国に含まれるが、彼らの祖先は現在のロシア西部のウラル山脈を流れるボルガ川流域から来た人たちで、フィンランド語もインド・ヨーロッパ語族とは異なるウラル語族に属する言語である。

■「ハイボール」は和製英語ではない

ちなみに、「角ハイ」といえば、サントリーのウイスキー角瓶のハイボールのことだが、「ハイボール(highball)」は何となく和製英語っぽく思える。

だが、これはれっきとしたアメリカ英語で、ウイスキーやバーボンなどアルコール度数の高い酒をソーダ水で割った飲み物だ。

ハイボール
写真=iStock.com/bhofack2
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bhofack2

かつて、米国の鉄道の線路脇にはball signal(ボールシグナル)という信号機が設置されていた。

信号機のポールに取り付けられた球体は手動で上下するが上にある時、つまりhighball signalの状態の時に列車は速度を緩めずに通過できることを知らせる合図であった。

■「サントリー」は創業者の名前から

この通過時に、食堂車(dining car)でバーボンウイスキーのソーダ割が縦長のグラス(tall glass)に入れて客に出されていたことに由来するという。

ハイボールの語源については諸説あるが、筆者が調べた限り、この説が最も有力であると確信している。

「サントリー(Suntory)」という社名は、英語っぽく聞こえるが、同社のホームページによると、「赤玉ポートワイン」の「赤玉(太陽)=サン」と「創業者の鳥井=トリー」が結びつき、「サントリー」となったそうだ。

英語では語尾のory(ary/ery)は「場所」を表す名詞を作り、factory(工場)、winery(ワイナリー)、bakery(パン屋)、library(図書館)などはお馴染みの単語である。

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清水 建二 (しみず・けんじ)
元高校教師
1955年、東京都浅草生まれ。埼玉県立越谷北高校を卒業後、上智大学文学部英文学科に進む。卒業後、約40年にわたり高等学校で英語教員を務める。基礎から上級まで、わかりやすくユニークな教え方に定評があり、生徒たちからは「シミケン」の愛称で親しまれた。現在はKEN'S ENGLISH INSTITUTE代表として、英語教材の開発に従事。英語学習に関する著書多数。

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(元高校教師 清水 建二 )

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