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子どもがスマホばかり見ていて本を読まない…そう嘆く親に灘中高の国語科教師が返す痛烈質問

プレジデントオンライン / 2024年4月29日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jovan_epn

どうすれば子どもは本を読むようになるのか。灘中学校・高等学校の国語科教諭を務める井上志音さんは「『子どもが読書をしなくて困っている』とおっしゃる保護者の方には、なぜ子どもに読書をしてほしいのかを自分に問いかけてみてほしい」という――。

※本稿は、井上志音著、加藤紀子聞き手『親に知ってもらいたい 国語の新常識』(時事通信社)の一部を再編集したものです。

■本も漫画も「楽しいから読む」もの

Q子どもが読書をしません。好きなゲームの本だったら読むかと思って買ってみたものの、画面の写真だけを見て、文字を読もうとしません。どうすれば本を読んでくれるでしょうか。

【加藤】読書のきっかけはなんでもいいですよね。たとえば漫画がきっかけで歴史ものの本を読むようになったという話はよく聞きます。

【井上】もちろん漫画でもいいと思います。ただ、基本的に本も漫画も「楽しいから読む」ものですよね。動機づけがなければ何も進みません。何のためにするのかと言うと、自分のためですから。そこを大事にしながら興味・関心の幅を広げていくことが大切です。「何かの力をつけるために読書をしましょう」と、読書の動機づけとして目的をぶら下げるのであれば、それはナンセンスです。

【加藤】内発的な動機による行動に対して、外的な報酬などを与えることでモチベーションの低下を招いてしまう現象は「アンダーマイニング効果」と言って、1971年に心理学者のデシとレッパーによる実験で証明されています。純粋に楽しむ行為に「目的」を放り込んでしまうことによって、子どもの無気力さを増長してしまうというのは、こうした研究で証明されていることなのですね。

■子どもが読書をしている家庭は「環境」が違う

【井上】「子どもが読書をしなくて困っている」とおっしゃる保護者の方には、なぜ子どもに読書をしてほしいのかと問いかけてみたいですね。

また、保護者の中には、ご自身が子どものころに読書をしていた方と、読書をしていなかった方がいると思います。後者の方は、なぜご自身は読んでいなかったのに、子どもには読書を要求するのだろうと思うんです。

私は小学校時代は中学受験があったためにほとんど読書をしませんでした。ただ、妻は文芸作品をよく読んでいたようです。家に本があって、ほかに娯楽がなかったからだと言います。でも今は子どもたちに本を読むようには言いません。子どもが本をほしがったときに買い与えるというスタンスです。

【加藤】子どもが読書をするには家庭の環境づくりがとても大切だと言われています。

たとえば厚生労働省の調査では、子どもが1カ月に読む本の冊数は、両親が読む本の冊数が多くなるほど増える傾向となっていることがわかっています(*1)。ベネッセコーポレーションの調査でも、1カ月に3冊以上読む人が読書を好きになったきっかけとして、子どものときに読み聞かせてもらったとか、身近な人が本を好きだったからという回答が多かったようです(*2)

*1 厚生労働省「第8回21世紀出生児縦断調査(平成22年出生児)の概況」
*2 ベネッセコーポレーション「第1回 現代人の語彙に関する調査」結果速報

子どもが読書をしている家庭では、親に読書の習慣があったり、読み聞かせをしていたり、家族が集うリビングに本棚があったりするなど、子どもが読書をしたくなるきっかけが家庭内にあることがさまざまなリサーチでわかっています。まずはそうした「環境づくり」に取り組んでいただくといいでしょうね。

■断片的な文章を読むことにも価値はある

【井上】そう思います。親が言葉に触れない生活をしているのに、子どもにだけは本を読ませたいというのはなかなか難しいのではないでしょうか。

【加藤】親がずっとスマートフォンばかりを見ていたら、子どもも見てしまいます。

【井上】では、スマートフォンのネット記事やSNSの投稿を読んだりすることは読書と見なせないのか? という議論が出てくるわけです。1冊の本を読むことと断片的な文字情報を読むこと、どちらにも価値があると思うのですね。

【加藤】確かに現代は娯楽があふれていて、五感を刺激するメディアやコンテンツに囲まれていますから、親自身もそちらに流れてしまいがちです。でも、文字情報だけから得られる、自分の頭の中で想像する世界の楽しさがあると思います。私は、現代の作家さんたちが小説の世界でがんばっていることにすごく励まされます。今、自分が置かれている世界とは全く違う世界を、文字の中で体験したり想像してみたりするのはとても豊かな時間です。

スマートフォンを操作する子ども
写真=iStock.com/Wako Megumi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wako Megumi

■「本を1冊丸ごと読むこと」の価値を説明できるか

【井上】あとは、どんなジャンルであれ、1冊丸ごと読むことの価値を大人が説明できるかどうかが重要です。たとえば、最近では見開き2ページで一つの項目が完結しているようなつくりの本を書店でよく見かけますが、ああいう本を1冊読むことと、小説を1冊読むことは全然違いますよね。

「なぜ本を1冊丸ごと読まないといけないのか」と子どもから問われたときに、国語科の教員としては、授業で使っている教科書にしろ受験の問題集にしろ、みんなが読んでいるのは切り取られた文章だということ、一つの作品を丸々味わう機会はみんなが思っているほど多くはないということを伝えたいですね。授業や受験で触れている文章で事足りていると思わないでほしいと。もっと広い言葉の世界があって、作家はもっと広い視野で作品全体を構築しているわけで、それを体感する機会は学校にはほぼないんだ、ということをしっかり教えてあげる必要があります。

【加藤】長い文章が苦手な子であれば、星新一さんのショートショートから入ってもらうことを試すのはどうでしょうか。自分たちが生まれるよりずっと前の人が、今の世の中のことをこんなに想像していたのかと思うとわくわくする気がします。

【井上】いいと思います、その子が納得しているのであれば。

■子どもと読書をする時間をつくるのも一つの方法

【加藤】子どもに読書の習慣をつけさせるのは、ほんのひと手間だと思うのです。親自身が、子どもが学校や塾でどんな文章に触れているのかに興味を寄せて、その中でも子どもがちょっとでも食いついているものがあったら、「お母さんはこの続きを読んでみたいな。図書館で借りてこようかな」と働きかけてみたり。

親がそんなふうに働きかけられるのは、子どもが小学1年生に上がる前から小学6年生になるまでの、たかだか7年間ほどなのです。保護者の方もお忙しいとは思うのですが、「人生100年時代」のわずか7年くらいは、1日のうち5分でも10分でも子どもと一緒に読書をする時間をルーティンにされてはどうでしょうか。子どもが読書をしないと悩むよりはそのほうが手っ取り早いですし、子どもの成長後に振り返ってみれば、一緒に笑ったり、喜んだり、悲しんだりと、こんなかけがえのない親子の時間はなかったと思えるはずです。

子どもが読書の習慣を身につけるには?
・家庭の環境づくり(親が本を読む、読み聞かせをする、リビングに本棚を置く)
・子どもが学校や塾でどんな文章に触れているのかを知る
・子どもが特に興味を持った文章の出典を入手して、一緒に読んでみる

■「文章を読むのが遅い」という悩み

Q子どもが中学受験を控えていますが、文章を読むのが遅いので、親としては心配です。

【井上】灘校にも読むのが遅いと悩んでいる生徒はいます。ほかにも大人を含めて本を読むのが遅いと悩んでいる人が多いのか、巷では速読法のようなものもたくさん出回っていますね。

【加藤】そもそも、読むのが遅いことは問題なのでしょうか?

■「飛ばし読みをする」はすすめない

【井上】試験では不利になります。ただ、助言には注意をはらいます。たとえば「飛ばし読みをする」などの手法はあるのですが、読む力を一層低下させるリスクもあるので、私からはすすめにくいのです。

そもそも、なぜ読みが遅くなるのかというと、情報処理の問題になります。どうしても「書かれていることを理解しながら読みたい」という気持ちが先立ってしまうと、なかなか目が先に進まなくなります。そんなときは、一度立ち止まって自分はどこがわからないのか、遅くなるときの文章種はどのようなものかといった自己診断をしてみましょう。短絡的に目先のテクニックには飛びつかないほうがいいよ、と生徒には常に言っています。

【加藤】それでも、「どうしたら速く読めるようになりますか?」と聞かれたら、どのように答えていらっしゃいますか?

【井上】それはもう、「急がずに慣れていくしかない」としか言いようがないですね。

【加藤】数をこなすしかないのですね。

■遅くてもいいからじっくり読む習慣が重要

【井上】読むスピードというものは、背景知識の量に比例するものです。読むのが遅いと悩んでいる子を見ていると、どんな文章でも遅いわけではなくて、文章のテーマによるのですね。では、どの領域の知識が不足しているのか、それを振り返りながら一つずつ吸収していくことです。この作業を続ければ少しずつ速くなっていくのですが、やはり受験生のいる親は心配になりますよね。

【加藤】結局、問題なのは試験の制限時間に間に合わなくなることであって、子どもが好きで読書をする分には、ゆっくり読んでもいいわけですよね。

井上志音著、加藤紀子聞き手『親に知ってもらいたい 国語の新常識』(時事通信出版局)
井上志音著、加藤紀子聞き手『親に知ってもらいたい 国語の新常識』(時事通信社)

だから、たとえば子どもが自分の好きな本を読んでいるときに、「そうやってゆっくり味わって読むのはいいよね」とひとまず認めてあげた上で、「それじゃあ、試験のときはどうしようか」と問題意識を持たせるというのはどうでしょうか。

【井上】それもいいかもしれませんね。保護者へのアドバイスとしては、受験のことは気になりますが、それでも焦らずに、遅くてもいいからじっくり読む習慣をつけさせましょうとしか言いようがありません。ゆっくり読んだ本の情報が、次の読書の礎となって、次第に読む速さにつながっていく。無理に速く読ませようとすると歪みが出てきてしまいますから焦らないことです。

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井上 志音(いのうえ・しおん)
灘中学校・灘高等学校 国語科教諭
1979年奈良市生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科博士後期課程 単位取得退学。文学修士(学校教育学)。2013年より現職。灘中高での本務のほか、学外においても「国語科教育論(大阪大学・神戸大学)」「IB教育の理論と実践(立命館大学大学院)」を担当している。専門は国際バカロレア(IB)教育をふまえた教科教育学。高校国語科教科書(東京書籍)の編集委員のほか、「NHK高校講座 現代の国語」(Eテレ)では監修・講師も兼任している。著書に『メディアリテラシー 吟味思考を育む』(分担執筆、時事通信社)、『国際バカロレア教育に学ぶ授業改善』(共編著、北大路書房)、『これからの国語科教育はどうあるべきか』(分担執筆、東洋館出版社)など。

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加藤 紀子(かとう・のりこ)
教育情報サイト「リセマム」編集長
1973年京都市生まれ。1996年東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後はフリーランスライターとして中学受験、子どものメンタル、英語教育、海外大学進学、国際バカロレア等、教育分野を中心に「プレジデントFamily」「ReseMom」「NewsPicks」「ダイヤモンド・オンライン」「『未来の教室』通信」(経済産業省)などさまざまなメディアで取材、執筆。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーとなり、韓国、中国をはじめ6カ国・地域で翻訳されている。その他著書に『ちょっと気になる子育ての困りごと解決ブック!』(大和書房)、『海外の大学に進学した人たちはどう英語を学んだのか』(ポプラ新書)がある。

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(灘中学校・灘高等学校 国語科教諭 井上 志音、教育情報サイト「リセマム」編集長 加藤 紀子)

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