焼肉店の「カルビ」は本当のカルビではない…消費者庁が全国焼肉協会に改善要請を出した本当の理由
プレジデントオンライン / 2024年4月26日 16時15分
※本稿は、小池克臣『肉ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める肉の教養』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■「カルビ」とはどこの部位なのか
焼肉では希少部位ブームと共に、様々な部位が広く知られるようになりましたが、定番メニューと言えるのは依然としてカルビとロースだと思います。
では、そのカルビとロースはどこの部位かご存じでしょうか。
カルビとは韓国語で「あばら骨と、その周辺の肉」を意味しています。つまり、日本名では大きく肩バラや友バラと呼ばれ、細かな部位名で言うと、ブリスケ、三角バラ、フランク(ササミ)、カイノミ、タテバラなどが含まれます。
これらの部位は、基本的に脂がしっかり付いた部位が多くなります。特に三角バラは、細かなサシが散りばめられた芸術的な霜降りの部位で、特上カルビといった具合に、カルビの中でも最上位の部位として扱われています。
■「脂のついた部位」をカルビとして提供
ところが、日本の焼肉店ではカルビの定義である「あばら骨と、その周辺の肉」以外でも、脂が付いている部位をカルビとして提供している場合があります。
日本の焼肉店では、脂のついた部位をカルビとして提供することが伝統的に行われてきたのです。
続いてロースとは「背中の肉」のことです。
肩ロース、リブロース、サーロインの3部位は背中にある1本の肉ですが、これを切り分けてそれぞれの部位として名前がつけられています。
■「脂の少ない部位」をロースとして出す店が多い
これらの部位をさらに細分化すると、ロース芯(リブロース、サーロイン)、巻き、エンピツ、カブリといった呼ばれ方をします。
もちろん、これらの部位をロースとして提供している焼肉店はありますが、カルビと同じように、実はこれらの部位以外をロースとしている焼肉店は非常に多く見られます。
カルビが脂のついた部位として認知されてきた中で、ロースは脂が少ない部位として認知されてきました。
背中の肉はご存じの通り、代表的な霜降りの部位です。
日本の焼肉店では、伝統的に脂の少ないカメノコやシンシンといったモモの部位やランプをロースとして扱うお店が多いのです。
■食品偽装ではなく、伝統的な名称に過ぎない
ここまでを整理すると、精肉店ではカルビと言えばバラと呼ばれるあばら骨周辺の肉を指し、ロースと言えば背中の肉を指しますが、焼肉店ではカルビは脂のついた部位を指し、ロースは脂のついていない部位を指すケースもあるということです。
これは食品偽装といった物々しいものではなく、古くから焼肉店で行われていた慣習でもあります。
実際にカルビの場合、霜降りであるサーロインやリブロース、ザブトンなどをカルビとして提供している焼肉店を見かけます。
これらの部位はあばら周辺の部位よりも遥かに高級なので、食品偽装が目的であれば辻褄が合いません。
■消費者庁が改善要請
この逆として、ロースの場合は、サーロインやリブロースを期待して注文をしたところ、赤身の安価な部位が出てくるケースがあります。このため、消費者庁が全国焼肉協会に対して、モモやランプをロースとして表示するのは「景品表示法違反」に当たるとして、表示の改善要請をしています。
しかし、全ての焼肉店で表示改善が行われたかというと、そうではないように見受けられます。
誤解を生まないための正しい表示と、伝統的に扱われてきた名称の整理が、消費者に向けて行われることは望ましいのです。
■「化学調味料」の正体
化学調味料とは、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムなど、旨味を刺激する物質を人工的に精製した調味料です。
スーパーなどで売っている「味の素」や「ハイミー」などが代表的な化学調味料です。
これらは、料理に旨味を与えると同時に、味のバランスを整えてくれるので、家庭はもちろん、飲食店でも使われていたりします。
かつてはポジティブなイメージのあった「化学」という言葉は、徐々に「体に良くなさそう」というイメージに変わったことで、現在は「化学調味料」ではなく「うま味調味料」という言葉が使われるようになりました。
■「サトウキビ」や「とうもろこし」から作る
うま味調味料は、世界中のそれぞれの地域で収穫される農作物を原料に作られています。
例えば、アジア諸国ではサトウキビ、アメリカではトウモロコシ、南米ではサトウキビなど、一部の地域では小麦なども使用されています。
うま味調味料の主成分であるグルタミン酸ナトリウムの製造方法は、サトウキビから糖蜜を搾り、そこに発酵菌を加えることでグルタミン酸ナトリウムが生成されます。
これを「発酵法」と呼びます。
イノシン酸ナトリウムやグアニル酸ナトリウムについても、とうもろこしなどのでんぷんを原料として、発酵法で作られます。
■天然の食材に含まれている
うま味調味料は、馴染み深い呼び名だった「化学調味料」の言葉のイメージから、安全性を心配されることがあります。
ただ実際には、うま味調味料の主成分であるグルタミン酸ナトリウムは、サトウキビを原料にしている通り、天然の食材を含む多くの食品に含まれているので、過剰に摂取しない限り安全性に問題はありません。
とはいえ、安全性に問題がないからと言って、何も問題がないわけではありません。
うま味調味料は味覚を刺激する旨味が強いので、素材の味がわかりにくくなってしまったり、つい食べ過ぎてしまったりするのです。
■ほとんどの焼肉店で使っている
うま味調味料は多くの飲食店でも使用されていますが、特に焼肉とは馴染みが深いものです。年間250回以上は焼肉を食べに行くような生活ですが、ほとんどの焼肉店でうま味調味料を使っているように感じます。
ただし、その使う分量はお店ごとに違います。
タレの味のバランスをまとめるために少し加えるお店もあれば、素材本来の味が一切わからないくらい大量に投入されているお店もあります。
もちろん、うま味調味料を使用していない焼肉店もありますが、食べログの点数を見る限りでは、うま味調味料をふんだんに使用しているお店に軍配が上がるケースが多々あります。
■化学調味料を使う店のほうが美味しく感じやすい
日本料理や鮨を食べに行く時、多くの人はその料理を味わうことに集中していると思います。
しかし、多くの人が焼肉を食べる時は、ビールで流し込んだり、ご飯でかき込んだりして、咀嚼しなくても食べることができてしまうので、素材の旨味を感じづらいのではないかと考えています。
その結果、ほとんど噛まなくても旨味を感じられるうま味調味料をふんだんに使った焼肉店を美味しく感じやすいのです。
うま味調味料を使わずにこだわった焼肉を提供するには、お客さんとのコミュニケーションを取り、お客さんを育てる必要があります。
時間をかけ、忍耐強くこれをやり遂げた焼肉店をリスペクトせずにはいられません。
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肉YouTuber
1976年、神奈川県横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。焼肉を中心にステーキやすき焼きといった牛肉料理全般を愛し、さらには和牛そのものの生産過程、加工、熟成まで踏み込んだ研究を続ける。著書に『肉バカ。 No Meat, No Life.を実践する男が語る和牛の至福』(集英社)がある。2024年現在、Instagramフォロワー4.2万人、YouTube「肉バカ 小池克臣の和牛大学」の登録者は2.7万人。
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(肉YouTuber 小池 克臣)
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