「退職金が3倍になった」という投稿を真に受けてはいけない…精神科医が教えるポジティブ投稿の本当の読み方
プレジデントオンライン / 2024年4月28日 15時15分
※本稿は、保坂隆『楽しく賢くムダ知らず 「ひとり老後」のお金の知恵袋』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■株や為替などで儲けるたった1つの方法
「老後にいくら蓄えが必要か」が話題になって以来、投資を学ぶ教室やセミナーが盛況だそうです。参加者の多くはもちろんシニアで、その目的は「退職金を増やすこと」だとか。
でも、数回の教室やセミナーに参加しただけで、自己資金を増やせるものでしょうか。
それについて知人の経済評論家に聞いたところ、とても面白い答えが返ってきました。笑いながら、「自分より愚かな人を見つければ儲かりますよ」と言ったのです。
どういうことでしょうか。
聞きようによってはずいぶん失礼な話ですが、彼は取り繕うように「いや、誰もおとしめるつもりはないんです。じつは、経済理論のなかに『よりひどい愚者の理論』というものがあるのです」と付け加えました。
「株や為替などで儲けるためには、自分が買った値段よりも高く買ってくれる人がいなければなりません。こんな人を『自分よりもさらに愚かな人』とたとえているのです」
そして、こう続けます。
「そこで考えてほしいのが、今まで投資をしたことがないという人に、自分よりも愚かな人……というと語弊がありますね、自分より投資に関して知識が乏しい人を見つけることが可能だろうか、ということです。
私が見聞きしたところでは、投資を始めた人の9割以上が3年以内に大きな損失を出して戦線離脱していますから、やはり自分より愚かな人を見つけるのは難しいのだと思いますよ」
■お金は増やすよりも減らさないことが大切
「自分よりも愚かな人を見つける」という表現は措(お)くとして、彼の言うことは一理あると思わざるを得ませんでした。
しかし、ここまで聞いても、「投資をして退職金を増やそう」と考える人は少なくないでしょう。これはおそらく、SNSなどで「退職金が3倍に増えた」「投資素人の主婦なのに、大金を手にできました!」などという自慢話を目にするようになったことが影響していると思います。
人間は悲しいもので、誰かが儲けると自分が損したと感じてしまうのです。実際には誰が何億円儲けようと、その誰かがあなたのお金を奪ったわけではありませんから、「損した」と感じるのはおかしなことです。
しかし、私たちは冷静に考えられず、「損をしたくない!」という気持ちで危険な投資に走り、虎の子のお金を失ってしまうことになるのです。
そんな気持ちにならないためには、SNSなどの情報を話半分以下とみなして読むことです。人には「成功談は口にしたがるが、失敗談は伏せておく」という傾向があります。儲かった人はひと握りで、たとえそれが事実であっても、話を“盛っている”可能性も高いはずです。
だから、「○○万円儲けた」という書き込みがあったら、それを10倍にして「それまでに、○○○万円損しているのだな。投資というのは難しいのだな」と読み解くといいでしょう。
■詐欺師たちは、欲につけ込んでくる
「なんとかして持ち金を増やしたい……」
そんな思いが、あせりにつながり、被害に遭ってしまうケースも増えているようです。
その典型的な例として「未公開株購入の勧誘」があります。
ある日突然、知らない業者から電話連絡があり、「証券取引所に上場していない株を特別に譲渡します。上場すれば数倍の値がついて儲かります」などと購入を勧めてきます。
ところが、上場予定時期を過ぎても上場しなかったり、業者と連絡が取れなくなったりするケースが増えているそうです。
騙(だま)したほうに非があるのは明らかですが、こんなケースでは騙されたほうにも落ち度があると言わざるを得ません。被害に遭う人には「未公開株を手に入れたら儲かる」という欲があるからです。
詐欺師たちは、その欲につけ込んでくるわけです。「うまい話は見ざる、聞かざる」にしておきましょう。
それでもどうしても心が動いてしまう場合は、最低限、その会社が実在するか確認すべきです。もし実在していたら、その会社に電話して未公開株を譲渡する予定があるかたしかめてみましょう。
あるいは電話の主に「幹事証券会社はどこですか?」と尋ねるのもいいかもしれません。相手が答えに詰まったら、怪しいと判断してもいいでしょう。
シニアはむしろ、持ち金を増やそうと考えるのではなく、減らさないように心がけるべきだと思います。
そもそも、お金というのはいくらあっても安心できませんし、あればあったで無駄遣いしてしまうものでしょう。
仮に投資で退職金を2倍に増やすことができたとしても、あっという間に散財してしまう可能性も高いのです。しかも、散財に歯止めはききにくいものですから、もともとの退職金まで失いかねません。
まずは「今あるお金でやりくりしていこう」という考えを基本方針にするのが賢明だと思います。
■老後だからこそ保険を真剣に考えておく
健康保険があるからとりあえず安心と思っている人も少なくないでしょうが、大きな病気になり入院したりすると、意外なほどお金がかかる場合があります。
最も大きいのは、入院する部屋によってかかる差額ベッド代です。いわゆる個室料金ですが、二人部屋などでも室料がかかることもあります。
原則として、患者さんが自ら希望した場合に費用が発生し、医療機関側が治療上の必要があって個室に入ってもらった場合には、差額ベッド代を徴収することはできない決まりになっています。
とはいえ、他人の目を気にせずリラックスできるからと、個室を希望したくなる気持ちもわかります。
すると、だいたい1泊数千円から高いところでは1万数千円以上かかります。これは都心と地方の違い、病院の価格設定によって「ピンキリ」なのですが、1カ月以上などの長期の入院になれば、差額ベッド代だけで相当大きな自己負担額になるでしょう。
また、たとえば、がん治療のなかには健康保険の適用が認められていないものもあります。一例を挙げるなら、日本で未承認の抗がん剤治療や、免疫療法の一部などがそれに当たり、何百万円もの費用は個人負担になります。
■保険料はケチケチ節約しないことが、いちばんの「節約」に
そうした突然の出費に備え、個別に医療保険やがん保険には入っておくほうがいいと思います。民間の保険会社だけでなく、郵便局や農協などでも医療保険やがん保険を取り扱っているはずです。
ほかに、何社もの保険を比較し、年齢、掛け金の予算などに合わせて最適な保険を紹介してくれる「ほけんの窓口」などの企業もあります。最近は高齢になっても加入できる保険も増えたので、一度、相談してみるのもいいでしょう。
医療関連でいうと、海外旅行に行くときには必ず、空港などで掛け捨ての傷害保険に入っておくこと。これは必須だと思います。なぜかといえば、海外の医療費は非常に高いからです。
よく「クレジットカードに海外旅行の傷害保険が付帯しているから、それで十分だろう」と思っている人がいます。カードの種類(ゴールド・一般など)によって保険金額も異なりますが、ほとんどの場合、カードの保険ではまったく足りません。
知り合いがスイスの氷河見物中に足をすべらせて骨折したのですが、1カ月の入院・治療で、ざっと500万円ほどかかったそうです。
保険料はケチケチ節約しないことが、いちばんの「節約」に通じると考えましょう。
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精神科医
1952年山梨県生まれ。保坂サイコオンコロジー・クリニック院長、聖路加国際病院診療教育アドバイザー。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学精神神経科入局。1990年より2年間、米国カリフォルニア大学へ留学。東海大学医学部教授(精神医学)、聖路加国際病院リエゾンセンター長・精神腫瘍科部長、聖路加国際大学臨床教授を経て、2017年より現職。また実際に仏門に入るなど仏教に造詣が深い。著書に『精神科医が教える50歳からの人生を楽しむ老後術』『精神科医が教える50歳からのお金がなくても平気な老後術』(大和書房)、『精神科医が教えるちょこっとずぼら老後のすすめ』(海竜社)など多数。
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(精神科医 保坂 隆)
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