1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「国家予算114兆円」がピンとくる人は何が違うか…「大きな数字」が一瞬で身近な数字に変わる「魔法の計算式」

プレジデントオンライン / 2024年5月11日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tadamichi

大きな数字をわかりやすく捉えるコツは何か。経営コンサルタントの斎藤広達さんは「数字に強い人というのは、反射的に『@変換』して、大きな数字から問題点を考える習慣がついている。例えば国家予算114兆円のうち69.4億円の税金という数字を日本の人口1億人で割ると、1人あたり年間約70万円もの税金を支払っているという計算になる。『@変換』をすることで、114兆円という途方もない数字も『多い・少ない』が考えられる身近な数字に変換できる」という――。

※本稿は、斎藤広達『頭のいい人が使っているずるい計算力』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■@変換でわかりやすい数字に置き換え、計算のハードルを下げる

数字に強い人は、自社の売上や決算額、顧客データ、ライバル企業の業績など、あらゆる数字を読み込んで、数字で話すことを心がけているものです。

しかし、数字そのものに苦手意識があると、

「金額が大きすぎてさっぱり頭に入ってこない」
「大きい数字を見ると、反射的に無理だと思ってしまう」

ということも珍しくないでしょう。もしかしたら、この本を手に取ってくれたあなたにもそのような経験があるかもしれませんね。

では、できる人たちはどのようにして数字に強くなったのでしょうか。

大きな数字をわかりやすく捉えるコツは、「自分事」にしてしまうことです。

本書では、そのための手法を「@変換」と呼んでいます。

たとえば、

・日本の国家予算114兆円
・トヨタ自動車の売上37兆円

といった国や企業の数字。

金額が大きすぎてよくわからない、と他人事になりがちです。

しかし、次のような数字はどうでしょうか?

・燃油価格高騰の影響を受け、光熱費が平均2000円の値上がり
・職員による300万円の汚職が発覚
・業績悪化により、今季のボーナスは30%減額が決定

生活費や税金、給与などの身近なお金であれば、自分事として真剣に捉えられる方も多いのではないでしょうか。

ということは、大きすぎる数字も自分に関係する数字、つまり「1人あたり」「1個あたり」といった数字に変換してしまえばいいのです。

実際に、大きすぎる数字を「@変換」で考えてみましょう。

【図表1】2023年度予算
出所=『頭のいい人が使っているずるい計算力』(PHP研究所)

■日本の国家予算114兆円を身近な数字に置き換える方法

巨大すぎて複雑に感じる数字の筆頭が、日本の国家予算です。2023年度の国家予算は114兆円。

これは、普通に生活していたらまず出合うことのない莫大な金額です。もしかすると、「兆」という単位を見ただけで拒絶反応を示してしまう方がいるかもしれません。それほど、国家予算に登場する金額は現実感が薄いのです。

ありがたいことに、ビジネスの現場でこれより大きな数字を目にすることはそうそうありませんので、ここで大きな数字に対する先入観をなくしてしまいましょう。

図表1は2023年度の一般会計歳入総額の内訳を示したものです。

所得税18.4%(21兆円)、法人税12.8%(14.6兆円)、消費税20.4%(23.4兆円)、その他税収、その他収入、公債金といったものが含まれています。

私たちが支払っている「税金」に着目して、もう少し簡単に考えてみましょう。

国民が税金として納めている金額の合計は、69.4兆円です。これを日本人1人あたりの金額を計算して、より身近な数字にしてみます。

ここではざっくりイメージが掴めればよいので、日本人の人口を1億人とすると、

69.4兆円÷1億人=69万4000円。

つまり、1人あたり年間約70万円もの税金を支払っているという計算になります。給料明細に書かれている所得税や保険料などで考えると、感覚的に金額を理解できる人も多いはずです。

もちろん、企業を経営していない人には法人税の支払いがありませんし、消費税の負担額も人によって異なります。所得税だって違うでしょう。

■ビジネスの現場でも強力な武器になる

ここで重要なのは、金額の正確さではありません。

「自分は国家予算のうち年間約70万円を負担している」という認識によって、少しでも114兆円という数字を身近に感じることが大切なのです。

国の歳出総額内訳
出所=『頭のいい人が使っているずるい計算力』(PHP研究所)

この歳出も「@変換」をしてみます。

歳出の総額は、歳入と同じ114兆円です(図表2)。

内訳で最も多いのが、私たちの生活に直接関係している社会保障関係費約36兆円。次に、道路や住宅、橋梁など、インフラ整備に使われる公共事業関係費が6兆円。学校教育や科学技術の発展のために使われる文教及び科学振興費が5兆円。

その後に防衛関係費10兆円、経済協力費5000億円、地方交付税交付金16兆円、といった数字が続いています。

それぞれ計算して、1人あたりの金額感を掴んでみましょう。

社会保障関係費:36兆円÷1億人=36万円
公共事業関係費:6兆円÷1億人=6万円
文教及び科学振興費:5兆円÷1億人=5万円
防衛関係費:10兆円÷1億人=10万円
経済協力費:5000億円÷1億人=5000円
地方交付税交付金:16兆円÷1億人=16万円

合計すると約73万円です。

支払っている税金が年間約70万円に対して、国民1人あたりに使われている税金は約73万円。これが多いと感じるか少ないと感じるかは人それぞれでしょう。

項目ごとの金額にしても、意見はさまざまあるはずです。

たとえば、社会保障費が36万円に対して、文教及び科学振興費は5万円。昨今、研究機関の資金不足や教員の労働環境・給与などの問題が話題に上がることも多いですが、こうして見ると、確かに使われている金額自体が少ない印象を受けるかもしれません。

「@変換」をすることで、114兆円という途方もない数字も「多い・少ない」が考えられる身近な数字に変換できました。

このように数字を「@変換」するテクニックは、ビジネスの現場でも強力な武器になります。

■具体的なシチュエーションに落とし込んで考える

次は、もう少し身近な話題で考えてみましょう。

2024年1月、日本の小型月着陸実証機「SLIM」が月へ降り立ったことが報道され、国内外で話題となりました。

SLIMを開発したのは、日本の宇宙開発を担う宇宙航空研究開発機構の「JAXA」です。天体や宇宙に興味がなくとも、名前くらいは聞いたことがあるでしょう。

JAXAは、政府が所管する最大規模の国立研究開発法人です。衛星による惑星探査やロケットの開発、宇宙飛行士による宇宙環境での実験など数々の研究を行い、未だ謎が多い宇宙空間の調査と科学技術の発展に貢献しています。

政府所管の法人団体ということは、国の予算が使われている、ということです。調べて見ると、2023年の予算は約2200億円でした。

はたしてこの金額は多いのでしょうか、少ないのでしょうか?

同じように国民1人あたりで計算してみると、

2200億円÷1億人=2200円。

なので、1人あたり年間2200円ほどと割り出せます。月額にして約180円です。

コンビニでスイーツを買うぐらいの金額でしょうか。宇宙開発という国家の一大プロジェクトにしては、安すぎると感じる人もいるかもしれません。

実際に、JAXAの予算はアメリカ航空宇宙局「NASA」の16分の1、欧州宇宙機関「ESA」の5分の1と言われています。

計算してみると、NASAの予算は約3兆5000万円、ESAの予算は約1兆1000万円です。単純に金額だけで比べると、確かに日本が宇宙開発に割いている予算はかなり少ないようです。

【図表3】宇宙開発予算を1人あたりに分散したイメージ
出所=『頭のいい人が使っているずるい計算力』(PHP研究所)

■2000億円の資金を寄付で集める方法

月面着陸で活躍したSLIMでも考えてみましょう。

SLIMの総開発費は149億円(2023年1月時点)。

同じように日本人の人口1億人で計算してみると、149億円÷1億人=149円です。コーヒーを買うのとほぼ同じ価格で、月面に降り立つ探査機ができてしまいました。国民から寄付金を募れば作れてしまうかもしれません。

ということで、今度はJAXAの予算担当者の立場に立って、これらの数字を企業戦略に活用してみます。

NASAやESAとの予算比較を使えば、国に宇宙開発予算の少なさを見せるわかりやすい指標となるでしょう。「@変換」よる具体例で訴えれば、国民の支持を得やすくなるかもしれません。

また、クラウドファンディングで開発予算を募るのも一案です。

たとえば、1人あたり2000円の寄付があれば、2000億円もの資金を集められます。これだけで予算にぐっと近づきます。

研究開発を促進する十分な資金を獲得できるでしょう。それに2000円なら、ちょっといいランチを食べに行くのと大差ありません。自分の興味がある事業を応援するためになら払えるという方も多いのではないでしょうか。

もちろん、日本人全員がJAXAに寄付するというのは現実的ではありません。ですが、「@変換」をすることでざっくりとした金額感はつかめたはずです。

■1人あたり年間4着ほどのアイテムを購入している計算が成り立つ

今度は市場を民間企業に移して、ビジネスで使える「@変換」をしてみます。

ファーストリテイリング社が運営するアパレルブランド「ユニクロ」を知らない人はいないでしょう。日本だけでなく海外にも展開しており、海外店舗はアジア圏を中心に1600店以上を展開。ファストファッションブランドとしては、ZARA、H&Mに続く世界3位の売上を誇る世界的ブランドです。

いまや国内売上よりも海外売上のほうが高いことでも有名なユニクロですが、だからといって国内売上が低いわけではありません。2023年度の国内売上は約8904億円で、日本のアパレル業界トップを独走しています(2023年8月期連結決算)。

日本の人口をざっくり1億人として計算すると、1人あたり年間約8900円です。

高いでしょうか、安いでしょうか。この数字の意味を理解する頃には、ビジネス現場で「@変換」が使えるようになっているはずです。

ユニクロでは季節ごとに数多くの商品が展開されていますが、1着あたりの購入単価が約2000円とすると、

8900円(1人あたり購入額)÷2000円(購入単価)=4.45

つまり、1人あたり年間4着ほどのアイテムを購入している計算が成り立ちます。

さらに考えてみると、ワンシーズンに1アイテム、あるいは夏と冬など季節の変わり目に2着ずつ商品を購入しているという仮説が立てられます。

夏にはデザインTシャツや定番のデニム、冬にはヒートテックなどの防寒着やジャケットなどと考えると、あながち間違いではないかもしれません。さらに安価な肌着類を購入している場合は、3カ月に2着ずつというケースもあるでしょう。

では、あなたがユニクロ事業の担当者なら、この数字をどう活かしますか?

次シーズンの商品開発をする場合、どのような戦略を立てれば効果的でしょうか?

数字から分析できるのは、定期的に商品を購入する層がほとんどということ。それならば、これまでどおり廉価でシンプル、かつ高品質な人気アイテムをそろえていくべき、とラインナップの方針が考えられるでしょう。

下手に新しさを狙って、凝ったハイブランド商品ばかり開発しても、普段からユニクロを利用しているユーザーにとっては「確かに品質はいいけど、この値段を出すならほかのハイブランドでいい」ということになりかねません。

一方で、価格は抑えたまま、既存ラインナップのデザイン追加や品質アップデートをする方向で商品開発に取り組めば、「新しいのが出てるなら買ってみようかな」と売上が向上する可能性も考えられます。

「@変換」を活用すれば、顧客のニーズや傾向を掴むこともできるのです。

【図表4】ユニクロの国内売上から見る1人あたりの消費額イメージ
出所=『頭のいい人が使っているずるい計算力』(PHP研究所)

■年商100億円の出版社の人材の見極めにも応用できる

さらに市場規模を狭めて、年商100億円の出版社でも考えてみましょう。

100億円を日本人の人口1億人で「@変換」すると、1人あたりの年間購入額は100円になります。ですが、100円で買える本はほとんどありません。このような場合は、本の平均単価から逆算すると数字を割り出せます。

本の平均単価が1000円と仮定すると、100億円÷1000円=1000万冊。

年間1000万冊の本が売れていることが計算できます。これを1億人で割ると、

1億人÷1000万冊=10人

「国民の10人に1人が年間1冊購入する本を発行する出版社」

ということが導き出せました。

生活必需品ではない本を「10人に1人が買っている」という状況はかなりのものです。日本には数多くの出版社が存在しますが、実際に売上100億円を超える出版社は全体のたった1%に過ぎません。

反対に考えれば、年商100億円を維持するには「10人に1人が買っている出版社」であり続ける必要があります。そのためには、コアな読者向けの本ばかり作っていては成り立ちません。普段本を読まないライト層も興味を示す本を作らなければならないでしょう。

たとえば、SNSで有名な料理研究家のレシピ本や楽して痩せられるダイエット本、最新のコスメをまとめた動画付きのメイク本など。編集者は幅広い層の購買意欲を掻き立てるような企画を求められるはずです。

また、この数字は会社が求めている人材の見極めにも応用可能です。

年商100億円の出版社であれば、最新のSNSや世間の流行を幅広く追える「本を読まないライト層」に寄り添った人材が重宝されると読み取れます。

一方で、年商10億円の「100人に1人が買う出版社」や年商1億円の「1000人に1人が買う出版社」であれば、ジャンルに特化したコアな読者がメイン層の可能性があるでしょう。

ゲームや野球、科学など、専門知識を持っている編集者が必要とされるかもしれません。

「@変換」をするだけで、こんなにも企業の情報を読み込めてしまうのです。

■大きな数字から問題点を考える習慣を

さて、ここまで日本の人口を基準にマクロな視点で数字を見てきました。

ですが、実際の仕事でよく使うのは、さらに細かい数字の「@変換」です。

今や私たちの生活に欠かせない輸送の大手・ヤマト運輸(ヤマトホールディングス)の従業員数で「@変換」してみましょう。

ヤマトホールディングスの売上は約1兆8000億円です(2023年3月期連結決算)。

連結決算というのは、グループ会社の売上も含めた決算の数字を指します。そのため、社員数もヤマトホールディングス全体の約21万人で計算してみます。

すると、1兆8000億円÷21万人=857万1428.57……

つまり、1人あたり約850万円の売上をあげているということです。

対して、同じ大手輸送業の佐川急便(佐川ホールディングス)は従業員約9万人で、売上が約1兆4000億円です。1人あたりの売上は約1500万円になります。

【図表5】輸送業者の売上比較
出所=『頭のいい人が使っているずるい計算力』(PHP研究所)

一見すると、ヤマト運輸の売上のほうが高いように見えますが、従業員単位では佐川急便のほうが2倍近い売上をあげています。表面上の大きな数字だけを見て「ヤマト運輸のほうがすごい!」と判断するのは誤り、ということがよくわかると思います。

だからといって、「1人あたりの売上が低いから効率が悪い」と決めつけるのも危険です。その数字の裏には、受託している荷物の数や料金、輸送範囲、人員コストなど、さまざまな差異が含まれています。効率のよさを問うなら、すべての条件を比較する必要があるのです。

斎藤広達『頭のいい人が使っているずるい計算力』(PHP研究所)
斎藤広達『頭のいい人が使っているずるい計算力』(PHP研究所)

経営や人事の仕事をしている人なら、先ほどの数字から、人材に余剰はないか、業務の効率化はできているか、人材不足に陥っていないか、業界の平均と比べてどうなのか、など確認すべきポイントのアタリをつけられるでしょう。

数字に強い人というのは、反射的に「@変換」をして、こうした大きな数字から問題点を考える習慣がついているものです。

大きな数字で思考停止しなくなるには、「@変換」をするクセをつけるのが一番です。何度もトライして計算に慣れていきましょう。

----------

斎藤 広達(さいとう・こうたつ)
経営コンサルタント
シカゴ大学経営大学院卒業。ボストン・コンサルティング・グループ、ローランド・ベルガー、シティバンク、メディア系ベンチャー企業経営者などを経て独立。現在はデジタルトランスフォーメーションに関わるコンサルティングに従事している。主な著作に『数字で話せ』(PHP研究所)、『「計算力」を鍛える』(PHPビジネス新書)、『入社10年分の思考スキルが3時間で学べる』『仕事に役立つ統計学の教え』『ビジネスプロフェッショナルの教科書』(以上、日経BP社)など。

----------

(経営コンサルタント 斎藤 広達)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください