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10年後も食える会社、消える会社【2】

プレジデントオンライン / 2013年5月21日 8時45分

あなたの会社の給料は? リストラ危険度は? 業界研究のスペシャリストが280社を徹底分析。「ものづくり日本」の落日が数字でも明らかになった――。

■「建設・不動産」は大手にも“黄信号”

過去に営業CF赤字が1回でもあった企業は60社。全体の約2割だ。6期中に営業CF赤字が2回以上あったところとなると1割を切る17社に減少する。

調査対象企業が大企業中心とはいえ、営業CF赤字が少ないことは評価していいだろう。ただし、「建設・不動産」では営業CF赤字が複数回あった企業が目につく。08年に米国発のサブプライム問題が国内に波及して不動産不況が深刻化、アーバンコーポレイションなど倒産ラッシュが続いた。経営体力のある大手といえども、今後も営業CF赤字を繰り返すようであれば、継続に“黄信号”が点滅する可能性がないとはいえないだろう。

「安定性」の評価では、営業利益や当期純利益、自己資本比率、手持ち現金の推移なども評価の対象にしている。

自己資本比率が高いということは、借入金の割合が少ないということ。「精密機器・医療機器・工作機械」「電子部品・自動車部品」「医薬品・化粧品」などで、高い自己資本比率の企業が多い。オーナー系や世界トップ級のニッチ製品を手がけている企業が、業界大手を上回る例が目立つのも特徴だ。

「稼ぐ力」では、現金ベースの「投資活動によるキャッシュフロー(以下、投資CF)」を重視した。

「投資CFは、将来の利益獲得・拡大に向けた企業の資金活動を見るうえで欠かせない指標。意外に誤解が多いのがこの投資CFです。『赤字=悪』と思い込んでいるからでしょう。工場新設、企業買収などの活動を活発化すれば、子会社の売却や工場の譲渡などで得る資金を上回ることになる。すなわち、入金よりも出金のほうが大きい出金超というわけです」(池田総合会計事務所所長・池田陽介氏)

つまり、投資CFがマイナスであるほうが、前向き姿勢と見ることも可能ということ。もちろん、投資すればいい、というわけではない。業界・業種別に投資CFの推移を見てみよう。

日立製作所やパナソニック、ソニーなど電機大手9社合計の6期累計投資CFは、約18兆円の出金超である。パナソニックが三洋電機やパナソニック電工を完全子会社化したり、シャープが大阪府堺市に液晶パネル工場を新設と、大手9社は過去6年間、企業買収や設備投資に18兆円を投じてきたといっていいだろう。

そしてその結果はといえば、6年間の9社合計で10兆円に迫る純損失だった。パナソニック、ソニー、NECなどが大規模なリストラを迫られ、シャープが台湾企業の資本を受け入れざるをえなかったのは必然だろう。

同様に計算すると、「自動車・二輪」9社の場合は、28兆円を投じて8兆円強の純利益を計上と、30%弱の回収率である。投資規模が断トツな業界だけに、ややモノ足りない数値だ。

もっとも回収率が高かったのは「造船重機・建設機械」で、70%弱。一方、10%台の低い数値にとどまったのが「エネルギー・建設・不動産・住宅」だ。東京電力の巨額最終赤字が数値下落の最大の要因だが、油田やLNGなど海外でのエネルギー開発には巨額の投資資金を要するだけに、リスク管理が将来を左右するキーワードになってくることはいうまでもない。

■海外M&A加速の「医薬」「ビール」

投資CFにおける海外企業買収の占める割合も増えている。国内需要の減少がはっきりしているだけに、買収先の選択眼はこれまで以上に重要になる。

医薬品やビール各社はここ数年、競うように大型の海外M&Aを実行。武田薬品工業にいたっては、1兆6000億円を超す手持ち現金を4500億円にまで減らしても、あえて海外医薬品メーカーの買収を繰り返してきた。

ただし、その武田を含め、アステラス製薬や第13共、キリンホールディングス(HD)、サントリーHD、アサヒグループHDなど、巨額投資に見合う成果がまだはっきりと見えてこないのが現実。買収選択眼の巧拙を含め、今後の推移に注目したい。

もちろん、企業の持続的成長に投資活動は欠かせない。しかし、その資金は営業活動で獲得した資金を原資とするのが基本だ。自由に使える余剰資金を指す「フリーCF」という言葉を、新聞などで目にする機会が多くなっているが、求める計算式は「営業CF+投資CF」。これまで触れたように、営業CFは入金超、投資CFは出金超であるのが一般的なことから、両数値の差額ととらえたほうが理解は早い。もちろん、プラスが望ましい。

最後に「リストラ余力」「給与上昇期待度」を見ていこう。全体の結論は、多少のリストラはあれど雇用はある程度守られるが、給与が上昇する可能性はきわめて低いということだ。

世界経済には暗雲が漂っているが、それでも、国内企業は生き残りをかけて海外に向かう。製造業だけでなく、内需型の小売や外食、サービス業も同様だ。ただし、海外での稼ぎは海外での再投資に向かうのが基本。国内の従業員給与に回る可能性は低い。雇用は維持されても、国内従業員の年収アップは期待できない、ということだ。グループ従業員は増えても、国内は減少傾向の企業が多く、リストラ余力も少なくなりつつあるのが現実である。

■利益率40%強のファナックに学べ!

経済環境が波乱続きのなかで、健闘している企業も少なくない。その代表が産業ロボットや工作機械の頭脳に相当するNC(数値制御装置)を手がけているファナックである。

同社が過去6期に計上した当期純利益の合計は約6300億円。同期間の投資CFの合計出金超過額は1400億円だったことから、投資の4.5倍の利益を確保したことになる。リーマンショックで落ち込んだ売上高も順調に回復、手持ち現金も伸張させている。

売上高営業利益率は、製造業にもかかわらず40%強。同数値が高いことで定評のあるキヤノンですら10%をわずかに超える程度であり、驚異的といっていいだろう。自己資本比率にいたっては、借入金がないどころか負債がほぼゼロを意味する90%に迫る。

「安定性」「稼ぐ力」でほぼ満点に近い評価。従業員給与も上昇傾向。工場の海外移転が加速する流れにあって、国内工場で生産し、海外で稼ぐのもファナックの特筆すべき点である。

同社をベンチマークにして、あとに続く企業が多数登場することを待ち望みたいところだ。

(ビジネスリサーチ・ジャパン代表 鎌田 正文)

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