「人災 二度と起こさないで」JR脱線事故19年の現場で祈り 記憶と教訓の継承が課題
産経ニュース / 2024年4月25日 12時24分
あの日から19年、まぶたの裏に浮かぶ大切な人の姿を思い、静かに祈りをささげた。乗客106人と乗員が死亡した平成17年4月のJR福知山線脱線事故。兵庫県尼崎市の事故現場に設けられた追悼施設「祈りの杜(もり)」では朝から追悼慰霊式が営まれ、JR西日本は改めて鉄道の安全と再発防止を誓った。社内では事故後に入社した社員が多くなったが、時が過ぎてもなお、遺族らの悲しみが癒えることはない。
事故が起きたのは19年前の午前9時18分。この日は朝早くから、遺族や関係者らが現場に足を運んだ。事故発生とほぼ同時刻になると、大阪方面へ向かう快速電車がいつもより速度を落として現場を通り過ぎた。
線路沿いで電車の方に向かって手を合わせた大阪府高槻市の西尾裕美さん(66)は、次男の和晃さん(37)が事故車両の2両目に乗り合わせ、左足を複雑骨折した。「(和晃さんの)搬送が遅れていれば、救命が間に合わなかった。事故は天災ではなく人災だからこそ防ぐことができる。二度と起こしてはならない」と話す。
事故直後の救助活動に加わったという兵庫県西宮市の鉄工所経営、中川政樹さん(81)は、「電動工具が使えず、ハサミなどで車体の穴を広げるしかなかった」と振り返り、被害者に「頑張ってください」と声をかけることしかできなかったことを今も悔やむ。
この日、現場手前の伊丹駅を出発した快速電車の車内では「事故を心に刻み、安全運行に努め、安心してご利用いただけるよう全力をあげて取り組んでまいります」と車掌による放送が流れた。はっとした様子で頭を上げたり、祈るように手を合わせたりする乗客の姿も見られた。
休みを取ってこの電車の1両目に乗った兵庫県三田市の会社員、稲岡大晟(たいせい)さん(22)は、ゆっくりと流れる車窓を目に焼き付けた。「悲惨な事故が起こってほしくないという思いで来た。犠牲者の方々は苦しかったのだろうなということを実際に乗って強く実感した」と語る。
JR西では事故後に入社した社員が多くなり、事故の記憶や教訓をどう継承するかが課題となっている。同社は大阪府吹田市の同社研修センター敷地内に、事故車両を保存する新施設を建設中で、完成は来年12月ごろと見込む。
稲岡さんも事故当時はまだ幼く、記憶はほとんどない。「だからこそ若い世代が伝えていかなければいけない」と感じるといい、「JR西日本に限らず、全国の公共交通機関が安全第一で対策を徹底してくれることを願っている」と話した。
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