インバウンドが持ち込む「スーパートコジラミ」の脅威 駆除困難、ホテルや電車にまで潜伏
産経ニュース / 2024年5月6日 8時0分
刺されると眠れないほどの激しいかゆみや発疹を引き起こす害虫「トコジラミ」。被害は国内でも広がってきており、大手衛生用品メーカー「アース製薬」に寄せられた相談件数は、昨年3月の18件から今年3月は301件と急増した。背景には新型コロナウイルス禍を経て、インバウンド(訪日外国人客)が増加するなどし、日本に持ち込まれていることが指摘されている。潜伏場所は宿泊施設だけでなく、交通機関にも広がっているとみられる。夏にかけて活動のピークを迎えるトコジラミの被害を防ぐにはどうすればよいのか。
SNS上に、大阪市内の地下鉄にトコジラミがいたという複数の投稿があったのは昨年11月。真偽は不明だが、大阪メトロはこれを受け、保有する1380の車両を同月下旬から12月上旬にかけて清掃。トコジラミは確認されなかったという。
今年3月には、X(旧ツイッター)上に、写真とともに「電車にトコジラミがいた」という趣旨の投稿があり、大きな反響を呼んだ。
JR東日本によると、写真はJR宇都宮線の電車内で撮影されたものだといい、同社は投稿を認知した日に車両の燻煙(くんえん)を行ったという。同社は「特に注意して清掃していきたい」としている。
コロナ後に増え続ける被害件数
アース製薬などによると、トコジラミは、体長約5~8ミリの褐色の昆虫。狭くて暗い場所を好み、ベッドやカーペットの裏、壁の隙間などに潜む。夜になると就寝中の人の血を吸うために生息場所から出て、吸い終わると元の場所へ戻っていくという。成虫の寿命は3~4カ月ほどで、雌は一生の間に200~500個も産卵するため、瞬く間に繁殖してしまう。
戦後、強力な殺虫剤の普及や生活環境の改善により昭和45年ごろには激減したとされる。しかし、殺虫剤の毒性が問題となり使用禁止に。その後、安全性の高い殺虫剤が広く使用されるようになったが、平成12年ごろ、抵抗性を獲得した「スーパートコジラミ」が出現したという。
兵庫医科大の夏秋優(なつあき・まさる)教授(皮膚科学)の外来では、平成22年ごろから被害例が増加し始めた。令和2年からはコロナ禍により人流が止まり、トコジラミも繁殖や移動ができなくなったことで被害も減少。新型コロナウイルスの感染症法上の分類が5類に移行した昨年5月以降、インバウンドの回復により再び被害が増加しているという。
アース製薬に寄せられたトコジラミに関する相談件数は、令和4年が313件、5年が975件、今年は3月末時点ですでに407件と、年々増加している。
被害は深刻だ。初めて刺された場合は全く症状が出ないというが、何度か刺されることで皮膚症状が表れ、多数刺されると眠れないほどの激しいかゆみに襲われることもあり1、2週間ほど症状が続くという。
皮膚症状が軽い場合、市販の虫刺され用の塗り薬を使えば1週間程度で治癒するというが、「症状がひどい場合は、皮膚科を受診してほしい」と夏秋氏はいう。また、室内にトコジラミが繁殖している場合、根絶しない限り症状は治まらないという。
荷物の置き場所に注意
スーパートコジラミは一般的な殺虫剤では駆除が難しく、夏秋氏によると、専用の殺虫剤を使う必要があり、「トコジラミに効果的な殺虫剤や燻煙剤をうまく組み合わせたら駆除は可能」だ。
室内のあらゆる隙間に潜伏するトコジラミは、夜間に吸血が終わると元にいた隙間などへ戻ってしまうため、日中に見つけるのは難しい。夏秋氏によると、皮膚症状自体は他の虫に刺された場合とそれほど変わらないため、トコジラミによる被害だと確認するためには、「うそ寝作戦」が有効だと話す。
その名の通り、寝たふりをしてトコジラミをおびき寄せる作戦で、夜に寝具の上で横になって照明を消し、30分ほど経過したら再点灯し、吸血しに来たトコジラミを探して捕獲する。この方法で室内にトコジラミが生息しているかどうかを高確率で確認することができるという。
被害を防ぐには、家にトコジラミを持ち帰らないことが何より重要だ。宿泊施設で繁殖することが多いとされ、「宿泊する際は常に注意する必要がある」(夏秋氏)。
寝具周りに荷物や衣類を置くと、その中に潜り込んでしまう可能性がある。そのため夏秋氏は、宿泊する際は衣類や荷物をポリ袋に入れて入り口付近に置いたり、電気をつけたままの洗面所に荷物を置くなどの対策を勧める。そうすることで「トコジラミが荷物に混入するリスクは格段に低くなる」としている。(高田和彦)
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