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パナソニック飛躍の原点 松下幸之助が愛した社交場 電気事業の誇り刻み続けて 大大阪 モダン建築を歩く㊥ 中央電気俱楽部(1930年)

産経ニュース / 2024年5月9日 10時30分

大阪・造幣局に国内初とされる本格的な西洋式ガス灯が点灯されたのは明治4(1871)年。石油ランプや電灯など、その後も時代とともにツールは変わりながらも、暗闇を照らし出す文明の利器は人々の生活に大きな恩恵をもたらしてきた。電気事業が発展を続ける大正3(1914)年、大阪・堂島の地に現在の中央電気俱楽部が誕生する。電気事業者の社交場となった俱楽部は、松下電器製作所(現・パナソニックホールディングス)の経営者、松下幸之助が飛躍するきっかけの場にもなった。

発表演出する舞台

先月5日、中央電気俱楽部会館5階大ホールで開かれた公開講演会。PHP研究所の渡邊祐介取締役が「松下幸之助生誕130年 アントレプレナーシップの原点を考える」と題して講演した。大阪の自転車店にでっち奉公に出た少年時代の幸之助を取り上げ、そこでの体験や出会いが企業家としての幸之助の基礎を築いたと指摘。約80人の参加者が熱心に耳を傾けた。

今からおよそ90年前の昭和7(1932)年5月5日、幸之助はこの大ホールで創業記念式を開き、壇上から「すべての物資を水のごとく無尽蔵たらしめよう。水道の水のごとく価を廉(れん)ならしめよう」と社員に呼びかけた。水道の水のように良質な商品を安い価格で大量に生産・提供し、社会を豊かにするとうたった幸之助の主張は後に「水道哲学」と呼ばれ、経営の柱のひとつになった。演説に興奮した社員が次々に壇上にあがって決意表明する姿を幸之助は自著『私の行き方 考え方』の中で感動をもって振り返っている。

「幸之助は、自らの理念をどういう場所でどう表現すれば最大のインパクトを与えられるかを常に考えていた。発表を演出する舞台として、日常使っている自社の社屋より俱楽部のほうが最適だと判断したのではないか」と渡邊取締役は語る。

幸之助自身、のちに理事長を務めるなど俱楽部との関係は続いた。俱楽部には幸之助が役員会議で使っていた机が寄贈され、今も活用されている。

東京への対抗意識

中央電気俱楽部は、東京への反骨心が生み出した組織ともいえる。当時、名古屋から下関(山口県)を管轄地域としていた電気事業者の団体、日本電気協会関西支部が、東京中心の運営方針に反発して分離独立し、関西電気俱楽部を設立したのが起源だ。大正4年には中央電気俱楽部と改称。当時、幸之助も在職していた大阪電灯の社長で財界の重鎮だった土居通夫が初代理事長に就いた。

なぜ「中央」の名を付けたのか。「公式には管轄地域の範囲が日本の中央にあたるので『中央』を名乗ったと聞いています」と同俱楽部の疋田孝純(たかし)常務理事。ただ設立の経緯からしても、東京への強烈な対抗意識があったことは想像に難くない。

初代の俱楽部会館は火災で焼失、2代目も手狭になったことから建築されたのが現在の建物だ。設計したのは、大阪を拠点に活動していた葛野(かどの)壮一郎。大阪・西天満に現存するオフィス建築、大江ビルヂングなどを手がけたが、三井俱楽部や交詢社(いずれも東京都)の建設に関わるなど、俱楽部建築にも造詣が深かった。

客室と食堂の延長

中央電気俱楽部が完成する昭和5年、葛野は「クラブ建築の目的と設備に就て」という文章の中で俱楽部を「(家庭の)客室と食堂の延長」と位置付けた。

急速な都市化で住居は職場から離れた郊外へと移り、都会で働く人々が気軽に訪問しあう環境がなくなったことが、俱楽部建築の発展につながったと葛野はみる。職住分離による弊害を埋めるため、都心部に心休まる社交の場が求められたのだ。

「3階から上の壁の材料には要所でベイマツ(米松)が使われ、山小屋のようなくつろいだ雰囲気をつくりだす工夫がされています」と疋田常務理事は内装の特徴を説明する。大食堂やそこに至るエレベーターホールの壁には、こげ茶色のベイマツが多用され、落ち着いた印象を与えている。俱楽部の部屋の中でも特に食堂を重視した葛野ならではの仕事といえるだろう。

リラックスして語りあえる場所を求める気持ちは時代を問わない。電気事業の先人たちが残した俱楽部建築は、そのことを改めて教えてくれる。(荒木利宏)

中央電気俱楽部

・大阪市北区堂島浜2丁目1の25

・竣工 昭和5(1930)年9月15日

・構造 鉄骨鉄筋コンクリート造(地上5階、地下1階)

・設計 葛野建築事務所(葛野壮一郎)

・近代化産業遺産

・年2回、館内見学ツアー実施(直近では8月予定)。06・6345・6351

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