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「居ても立っても居られず、“俺もこういうの作ってみてえ!”欲がムクムクと大きく膨れ上がってきた」…高2の樋口真嗣を創作の原点に立たせたのは、ケレン味たっぷりの飛行機バトル!【『ファイヤーフォックス』】

集英社オンライン / 2023年3月25日 11時1分

『シン・ウルトラマン』 Blu-ray特別版が大好評予約受付中の樋口真嗣監督。1982年、17歳の頃に見て“爪痕”めいた強烈な印象を得た、原点ともいうべき映画たちについて、熱情を燃やしながら語るシリーズ連載。第6回は『ブレードランナー』と同日に観た、C・イーストウッド監督・主演の『ファイヤーフォックス』。1日にこの2本はキョーレツ!

歌舞伎町は『ブレードランナー』だった

その後、長きにわたり『ブレードランナー』(1982)といえばおしゃれなサブカルでカルトな映画として、ファッショナブルな雑誌の映画特集で、「俺もしくは私センスいいもんね」アピールの道具として便利に使われてきました。 でも、劇場公開時に観たのかお前ら! このシャレオツどもめが! と、またしてもルサンチマンが頭をもたげてきやがります。



ええそうですともわたしゃ公開1週間後に、だれ~もいない映画館で観ましたよ。公開前のテレビスポットで、「ケロッグコーンフロスト」でおなじみ、低重心で高トルクを体現する内海賢二さんのタイトルコールで本格的SFポリスアクションへの期待を膨らませて劇場に行ったら、近未来を舞台にしたビターなフィルムノワールだったですよ! 『マルタの鷹』(1941)も『現金(げんなま)に手を出すな』(1954)も観たことないけど痺れましたよオトナの世界に高校2年の分際で!

とはいえこの映画、メチャクチャいい!という結論は観終わった直後は導き出せていません。その圧倒的な情報量に脳はオーバーフローを起こして麻痺状態。しかもすぐに移動しないと、靖国通りを渡った新宿ピカデリーで『ファイヤーフォックス』(1982)が始まってしまうからでした。

イーストウッドがベトナム戦争で心に傷をおった敏腕パイロットを演じる『ファイヤーフォックス』
Moviestore Collection/AFLO

歌舞伎町の新宿ミラノ座からコマ劇場前広場を突っ切って、まだいろんな条例で整備される前でなかなかどうして猥雑な歌舞伎町を急ぎ足で歩けば、ついさっき観た酸性雨の降るロサンゼルスのダウンタウンのように見えてくるではないですか。音楽と呼び込みの兄ちゃんのダミ声とテレクラの案内嬢のキンキン声がけたたましく、「入会金無料1時間800円!」が無限ループになって響きわたります。

そういえばブレードランナーの劇中、街頭でずっと流れている雑踏を行き交う人の声に「なんか変なもんが落っこちてたぜ?」というかなりはっきりした日本語がまじっていて、しかも音源がループになっているのか何度も聞こえてきます。 冒頭でハリソン・フォード扮する賞金稼ぎデッカード元刑事が入る屋台には寿司屋のオヤジがいて、日本語と英語の噛み合わない会話で何かを頼みますが、親父はデッカードの注文に「ふたつで充分ですよ!」と日本語で返すのです。

ほかにも街中には、文法的には間違っていないけど用法的におかしな日本語のネオンサインが煌々と輝いています。 正直映画の本筋には何の影響も与えないし、映画全体から得られるかっこよさとは違うけれども、とてもじゃないけど一度観ただけでは掌握できないほどの情報量——濃度と密度が今まで観たどの映画よりも桁違いに充実していました。

当時は今のように全席指定ではなかったので、劇場内に残りさえすれば2回続けて観ることもできたのですが、『ファイヤーフォックス』も気になっていたので、せっかく東京まで来たからには2本見ないと損した気分です。なにしろ田舎の高校2年生の経済観念ですから致し方ございません。

イーストウッドらしからぬ荒唐無稽な娯楽作

移動したら程なくCM予告に続いて本編の上映です。

まだソ連…ソビエト社会主義共和国連邦がアメリカと覇権争いを繰り返していた時代。 1976年9月6日、マッハ3を超えると言われた世界最高速度を誇るソ連の最新鋭戦闘機ミグ25フォックスバットが領空侵犯し、函館空港に強行着陸、操縦していたソ連空軍中尉べレンコはアメリカに亡命して大騒ぎになりました。

その事件をヒントにイギリス人の教師クレイグ・トーマスが書き上げた小説を、クリント・イーストウッドが監督・主演で映画化した国際諜報冒険大作が『ファイヤーフォックス』なのです。

『ダーティハリー』(1971~)シリーズでアクションスターとしての不動の地位をほしいままにしながら、さらに『アウトロー』(1976)や『ダーティファイター』(1980)で監督としての評価も上げ、その演じて殴ってぶっ放しながら演出までする広範にわたる活動は、恐ろしいことに今なお続いておりますが、そんな監督・主演作の中では異色とも言えるほど偏った娯楽性の高い映画でした。

国際諜報作戦なので、ちょっとした偽装変身シーンも出てきます
AFLO

アメリカと冷戦を続けてもう20年以上がたち、双方核兵器をはじめとする兵器の開発競争は熾烈を極め、陸海空全てのジャンルで互いを凌駕すべく新兵器を極秘裏に開発しあっていた1980年代。ソ連が、とんでもない速さとまったく敵から見えない隠密性と、頭で考えただけで攻撃ができる先進性を備えた(もちろん架空の話です)とんでもない戦闘機を開発したので、その秘密を奪ってしまえ、どうせ奪うなら図面とかではなくその機体をまるごと奪ってしまえ、という荒唐無稽に思えるそのストーリーも、数年前に起きたミグ25亡命事件のおかげでリアリティのある出来事として、ジェームズ・ボンド役を断ったクリント・イーストウッドが本格的スパイアクションに挑みます。

とはいっても、あくまでもリアルな国際諜報戦を目指しているので、前半の潜入行は国家から監視され統制され圧迫されている当時のソ連のお国柄をリアルに反映させており、なんとも重たく暗くドンヨリしたムードですが、後半一転して秘密兵器を奪取したクリント扮する元パイロットの諜報員ミッチェル・ガントが、超音速戦闘機ミグ31ファイヤーフォックスを駆って自由主義圏目指して逃避行するあたりから、底が抜けたようなテンションで映画が走り始めます。

そんな秘密兵器の強奪を天下のソビエト連邦が黙って見逃すはずはありません。試験飛行直前のシャワーを浴びてる最中にクリント自慢の鉄拳が顔面直撃で気絶、全裸で簀巻きにされた、恨み骨髄の正規のテストパイロットが共産主義の威信を賭けて、破壊工作を免れたファイヤーフォックス試作2号機で追撃を開始します。
シャワー浴びてる最中にクリントに殴られ気絶させられ全裸で簀巻きにされた、恨み骨髄の正規のテストパイロットが駆って、共産主義の威信を賭けて追撃を開始します。

ケレン味がリアリティを凌駕!

超音速戦闘機同士のドッグファイトこそこの映画のクライマックスであり、その視覚効果を担当したのが、1977年製作の『スター・ウォーズ』1作目において、圧倒的スピード感とダイナミズムでSF映画のルックとモーションを一新させたジョン・ダイクストラです。

しかもタイトルロールのファイヤーフォックスのデザインは、『未知との遭遇』(1977)でマザーシップを製作したミニチュアメイカー、グレッグ・ジーン。そのフォルムは、現用戦闘機の斜め上をゆくリアリティと、ケレンに満ちたカッコよさが並び立っているではありませんか。全身チタニウムメタリックのまるでミレニアムファルコンのような挙動で飛び回り、超低空を超音速で海面上を飛べばその衝撃波で海面が跳ね上がります。超音速で飛行するファイヤーフォックスのすぐ後に、2列の水柱がまるで並木道みたいにわずかな時間差でドドドドーン!と次々に高らかに立ち上がるのです。

デザインはミニチュア・エフェクトの巨匠と呼ばれたグレッグ・ジーン
Album/アフロ

衝撃波の表現としてはいろいろ難癖はつけられるでしょう。でもそのケレン味がリアリティを凌駕する時もあるんです。なんか脳から変な物質が分泌されるんですよ! ほかにもデススター・トレンチそっくりのクレパスを、これまたギリギリの高度を飛行したり、やりたい放題です。

映画のカラーを変えてしまうほどのドッグファイトの合間には、アクションスターのイーストウッドをして大きな与圧ヘルメットをかぶって戦闘機のコクピットに座らせ、超音速のGにひたすら耐えるカットが挟まるだけなんですが、それでも充分成り立つのがすごいところであります。

その後、監督・主演のシルヴェスター・スタローンの再編集で昨年復活を遂げた『ロッキー4 炎の友情』※(1985)といい、シュワルツネッガーがモスクワ警察の堅物刑事を演じた『レッド・ブル』(1988)といい、冷戦たけなわだったあの時代の旧ソ連に対する、脅威の過大評価と侮蔑がないまぜになって、かつてのドイツ軍のような大ボラが許される土壌が熟成され、娯楽映画のヒールとしての誇張がエスカレートしていくのですが、そのきっかけはこの『ファイヤーフォックス』と言っても過言ではないでしょう。
※『ロッキーVSドラゴ:ROCKY Ⅳ』として4Kデジタルリマスターで再構築、2022年8月に全国公開された

『ブレードランナー』で暗闇にネオン輝くアジア的汚れた空気感のごった煮的近未来を、『ファイヤーフォックス』で世界一を誇る覇権国家ソ連ハラショー!をたった1日で浴びたわけですから、高校2年生のワタシは居ても立っても居られなくなるわけです。 中1で『スター・ウォーズ』を観た時にはぴくりとも動かなかった、「俺もこういうの作ってみてえ!」欲がムクムクと大きく膨れ上がってきたのです。

ファイヤーフォックス』Firefox(1982)上映時間:2時間16分 アメリカ
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド、フレディ・ジョーンズ、デヴィッド・ハフマン他

Everett Collection/アフロ

冷戦時代のアメリカ。超高速でレーダー探知不可、しかも思念で操縦するという戦闘機をソ連が開発したとの情報が入る。軍は、ベトナム戦争帰りで心に傷をおって引退した敏腕パイロット・ガント(イーストウッド)に、その奪取を命令。別人になりすまし、鉄のカーテンをくぐったガントの任務の行方は。
2度のアカデミー作品&監督賞に輝くイーストウッドの映画にしては、ダントツに荒唐無稽でありながら、硬派な展開とアクションが魅力的なエスピオナージュ・バトル。

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