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「国際的に見てあまりに人口が多すぎる」東京。移民が普通の社会はやってくるのか…世界ランキングマップ

集英社オンライン / 2023年9月22日 8時1分

国連の統計(世界人口白書)によると、世界の人口は80億4500万人になった(2023年)。その中で世界の非識字者率や他国に住んでいる人の数のランキングを地図化してみると、面白いことが見えてくる。『ランキングマップ世界地理 ――統計を地図にしてみよう』 (ちくまプリマー新書) より、一部抜粋・再構成してお届けする。

SDGsの目標のひとつ―女性の教育水準と結婚年齢

国連の持続可能な開発目標(SDGs)では、「ジェンダー平等と女性のエンパワーメントを図る」(目標5)を掲げています。

エンパワーメントとは、潜在能力を引き出し、その力を発揮できるような労働的・社会的な環境を整えるという意味です。性差別をなくし、女性の地位を向上させることは、貧困や飢餓を脱し、人口爆発を抑制することにもつながるはずですが、依然として厳しい状況に置かれた女性は少なくないようです。



図表5-1は、世界の非識字者(文字が読めない人)の数と男女比を表した資料です。最も非識字者人口が多いインドは約2億6000万人(15歳以上)で、15歳以上の人口にしめる非識字者の割合は約30.7%です。そのうち、女性が占める割合が55.5%と、男性よりも高くなっています。

図5-1 非識字者人口および女性が占める割合(2015〜18年)。『ランキングマップ世界地理 ――統計を地図にしてみよう』より

非識字者の人口の上位19カ国のうち、7カ国で女性の割合が男性を上回っています。

図表5-2は、女性の前期中等教育の修了率です。中学校卒業を多くの国が義務教育としています。100%に近い国が多い中、アフリカ諸国を中心に、非常に低い値が出ています。前期中等教育どころか、読み書きの基本となる初等教育すらもまともに受けられない状況にある女性たちが特定の地域に集中しています。

インドの女性の前期中等教育修了率は85.8%と比較的高い値が出ていますが、同国の当該学齢人口(女子)が3172万人(2018年)ですので、単純計算して約450万人の女子が、中学校すら卒業していないことになります。これは、修了率が最低のシエラレオネ(約21万人)の21倍に達します。

修了率が低いベニン(約21万人)、マダガスカル(約37万人)よりも、パキスタン(51.8%/約165万人)、アフガニスタン(50.6%/約37万人)など南アジアの国の方が、未就学の女子の数が多くなっています。

図5-2 女性の前期中等教育修了率(2016〜18年)。『ランキングマップ世界地理 ――統計を地図にしてみよう』より

図表5-3は、世界保健機関(WHO)がまとめた、途上国の女性の結婚年齢に関する調査の結果です。調査年(2010〜17年:国によって違いあり)の20〜22歳の女性を対象に、結婚した年齢を尋ね、全体に占める割合を求めました。

非識字率の高い国、前期中等教育修了率が低い国と同様に、アフリカ諸国や南アジアの国々の結婚年齢が低いことがわかります。日本の中学生の年代で既に結婚し、農作業や家事労働に日々を費やしている子どもが3割近くいる国がある現状は、「女性のエンパワーメント」と大いにかけ離れていると言わざるを得ません。

図5-3 年代別女性の既婚者率(2010〜17年)。『ランキングマップ世界地理 ――統計を地図にしてみよう』より

貧しさゆえに学校に行けない、子どもを早く結婚させざるを得ないという状況を脱するためには、国際的な支援や人的・経済的な援助が不可欠で、一定の教育水準を備えた労働力が必要です。男性・女性に関係なく、向学心を持った若者に学びの機会を保証し、望む進路を実現できるような社会的な環境を整えていくことは、当該の国だけでなく、世界全体の利益になるはずです。

東京は世界的にみても人が多すぎ―大都市圏の拡大と人口増加

都市の規模を比較する際、中心となる都市の行政区の人口を数えるのではなく、通勤や通学など、緊密な関係にある周辺の市町村と合わせた「都市圏」で比較することがあります。

東京を例に取ってみると、東京の23特別区の人口は964万人(2021年)ですが、東京都の1396万人に千葉・神奈川・埼玉県の人口をあわせた大都市圏人口は約3200万人になります。世界各国の大都市圏人口は、国際連合の経済社会局が毎年統計を公表しています。

図表6-1は、1990年の世界の主な大都市圏(人口500万人以上)と、上位10都市のリストです。人口が500万人を超える大都市圏は、1990年の時点では全部で31ありました。トップは東京(首都圏)で、2位が大阪(近畿大都市圏)、3位がニューヨークでした。東京が唯一3000万人を超えている以外は、どの大都市圏も人口が1000万人台です。

図6-1 世界の主な大都市圏(人口500万人以上)(1990年)。『ランキングマップ世界地理 ――統計を地図にしてみよう』より

図表6-2は、2018年のデータです。トップは東京(首都圏)で変わりませんが、2位以下の都市の多くが発展途上国の首都あるいは経済の中心都市になっています。人口が500万人を超える大都市圏は、世界全体で81にまで増えました。このうち33都市圏が、人口1000万人を超えています。

発展途上国における都市や都市圏の急速な拡大の背景には、農村部での人口増加と、都市と農村の生活水準の格差があります。爆発的な人口増加に対して食糧の生産や土地の分配が追いつかない農村部では、多くの人々が出稼ぎや移住先として大都市を目指します。

多くの発展途上国では、植民地時代からインフラ整備のための資源を首都や中心都市に集中的に配分する政策をとってきたため、一つの都市が際立って大きい(二番手以降の都市を大きく引き離す)「プライメイトシティー」と呼ばれる現象が起きています。農村部からの出稼ぎ者は、時には最低限の住環境も整っていないスラム(不良住宅街)に住まざるを得ません。

図6-2 世界の主な大都市圏(人口500万人以上)(2018年)。『ランキングマップ世界地理 ――統計を地図にしてみよう』より

ごく限られた巨大都市への一極集中を避け、大都市を分散させる政策をとる国も見られます。図表6-3は、世界各国の人口100万人以上の都市圏の数を1990年と2018年で比較した資料です。

1979年に「改革開放政策」を始め、沿岸部に外資を誘致するための経済特区や経済開発区と呼ばれる都市を次々に誕生させた中国は、内陸部との格差の是正を目指して2001年から15年計画で「西部大開発」プロジェクトを手がけてきました。

油田や天然ガス田、水力発電所の開発や、鉄道網の整備などを通じて多くの地方都市で人口が増加しました。中国以外のBRICsといわれる国々でも都市圏の拡大が著しくなっています。一方で、ヨーロッパや日本は、これらの地域に比べると巨大都市圏の増加は緩やかです(フランス1→4、ドイツ1→4、イギリス1→5、イタリア2→4、日本4→8)。

図6-3 人口100万人以上の大都市圏数(1990/2018年)。『ランキングマップ世界地理 ――統計を地図にしてみよう』より

都市の巨大化と分散拡大化に伴って様々な問題が発生することが予想されます。都市問題はもとより、環境問題や食糧安全保障など、当該の国だけでは対処しきれない問題は隣国に波及します。人口問題とあわせて、各国の動向に注意を払っていきたい課題です。

移民が「ふつう」の社会へ―人口の国際移動

経済的な理由や政治的な迫害(難民)により、他国に住んでいる人の数は、国連の集計によると世界で約2億7000万人にのぼります(2019年)。移民の受け入れに関する各国の政策の違いや、送り出し国との歴史的・文化的な関係は、定住外国人の数や民族集団の違いに現れます。

図表7-1は、世界各国の定住外国人の数と上位10カ国です。最も多いのはアメリカで、5000万人を超えています。そのうち最も多いのがメキシコ人(約1148万人)で、中国人(約290万人)、インド人(約260万人)が続きます。2位のドイツでは、ポーランド人(約178万人)が最も多く、長らく1位だったトルコ人(約153万人)を抜きました。

3位のサウジアラビアでは、インド人(約266万人)が最も多く、次いでインドネシア人(約167万人)、パキスタン人(約145万人)が多くなっています。

日本の定住外国人人口は、世界26位の約249万9000人で、内訳は中国人(約81万人)、韓国人(約45万人)、フィリピン人(約28万人)となっています。

図7-1 外国籍住民の数と総人口に占める外国籍人口の割合(2019年)。『ランキングマップ世界地理 ――統計を地図にしてみよう』より

次に、どの国にどれだけの数のエスニシティ(民族集団)があるのか、過去と現在を比較してみます。図表7-2は、1990年の各国における外国籍の居住者を出身国別に示した地図と上位10カ国の表です。

最も多くを占めるのがウクライナにおけるロシア人です。ウクライナ国籍のロシア人を合わせると、人口4205万人の国の約3割、1197万人がロシア系の住民です。

ロシア人は国の東部と南部に多く、旧ソ連時代はロシア語とウクライナ語が公用語でしたが、ソ連崩壊後、ウクライナ政府はウクライナ語のみを公用語としたため、東部では中央政府(首都キーフ)に対する反発心が強く、後述する独立宣言とロシアへの編入強行につながりました。同じような緊張関係は、旧ソ連のカザフスタンでも見られます。
インドとバングラデシュ、インドとパキスタンの間では同じ言語・民族の人々が国をまたいで暮らしているため、相互の国内の外国人人口が多くなっています。

アフガニスタンでは、1978年から1989年まで続いたソ連の軍事介入の後、再び内戦が激化し、多くの避難民を出しました。避難民の総数は約682万3000人で、1990年の時点で総人口の約35%にあたります。

図7-2 外国への移住者の移動先と居住者数(1990年)。『ランキングマップ世界地理 ――統計を地図にしてみよう』より

図表7-3は、2019年の人口の国際移動についてまとめた地図と上位10カ国です。最も多いのが、アメリカにおけるメキシコ人で、1990年から720万人増加しています。

移住者の約半数にあたる650万人が不法就労者と言われています。共和党のトランプ前大統領は、不法移民の強制送還と入国を厳しく制限して物議を醸しました。メキシコ人以外では、中国やインドなど、アジアからの移住者が増加しています。フィリピン人(204万人)、プエルトリコ人(184万人)、エルサルバドル人(142万人)、ベトナム人(135万人)、韓国人(117万人)などが居住人口100万人を超える民族集団です。

図7-3 外国への移住者の移動先と居住者数(2019年)。『ランキングマップ世界地理 ――統計を地図にしてみよう』より

2011年に起きた「アラブの春」運動をきっかけに内戦が勃発したシリアでは、トルコを筆頭に、レバノン(295万人)、ヨルダン(67万人)、総数で約660万人が避難民・難民として国外へ脱出しました。

ウクライナにおけるロシア人の数が1990年から約170万人減少していますが、これは2014年3月に強行されたクリミア自治共和国の独立と、ロシアへの編入によりロシア国籍になった人が多いためです。

西アジアでは、インド人の進出が盛んです。オイルマネーで潤った資金をインフラ建設に積極的に回しているためです。アラブ首長国連邦(約342万人)を筆頭に、サウジアラビア(約244万人)、クウェート(約112万人)と、インド人の建設労働者や技術者が西アジアに滞在しています。


文/伊藤智章 サムネイル/shutterstock

『ランキングマップ世界地理 ――統計を地図にしてみよう』 (ちくまプリマー新書)

伊藤 智章

2023/9/7

¥1,034

304ページ

ISBN:

978-4480684608

人口はまだ増える? 自然環境は大丈夫? ランキングと地図で可視化すると、これまでと違った世界がみえてくる。トリビアな話題から深刻な問題まで総ざらい。

■以下の問題、どのくらい答えられますか?(答えは本の中に)

Q:太陽光発電の発電量、第1位の国は?
1 中国 2 アメリカ 3 オーストラリア

Q:一人当たり交通事故の発生件数が多い国は?
1 トリニダード・トバゴ 2 日本 3 モンテネグロ

Q:卵1パックの値段が一番高い国は?
1 スイス 2 韓国 3 エジプト

Q:2番目に人口が多い大都市圏は?
1 ニューヨーク 2 ムンバイ 3 大阪

Q:植林義務によって緑が増えている国は?
1 中国 2 ロシア 3 インド
Q:歴代最高気温を記録した国は?
1 サウジアラビア 2 アメリカ 3 パキスタン

Q:大豆の生産量、第1位の国は?
1 ブラジル 2 カナダ 3 ロシア

【目次】
まえがきに代えて

第1章 世界の自然環境
1 世界の屋根――高い山と長い山脈
2 世界の川――長さ世界一ナイル川の苦悩
3 世界の湖――名実ともに「海」になったカスピ海
4 最高気温と最低気温――地球温暖化と異常気象
5 回帰線に沿って広がる砂漠――砂漠化の進行
6 植林義務がある国もある――森林面積と森林の増減
7 氷に覆われた場所
8 世界の自然災害――地震・水害・火山災害

第2章 人口と都市
1 2秒で一人増える国は?――人口増加する地域
2 子どもが生まれにくい国々――合計特殊出生率の変化
3 リスクにさらされる子どもの命――乳幼児死亡率の変化
4 飢える人々――栄養不足人口率と栄養不足人口
5 SDGsの目標のひとつ――女性の教育水準と結婚年齢
6 東京は世界的にみても人多すぎ――大都市圏の拡大と人口増加
7 移民が「ふつう」の社会へ――人口の国際移動

第3章 産地は変化する
1 日本は米の生産量10位以内にいるのか――米の生産国とその変化
2 小麦の最大の輸出国は?――小麦の生産と貿易の変化
3 需要が増える中国への対応――大豆の生産と貿易の変化
4 綿花の貿易はアパレルを映し出す――綿花の生産と貿易の変化
5 飼育頭数ランキング3位 羊――羊の飼育頭数と羊毛の貿易の変化
6 チーズ・バターのゆくえ――牛乳および乳製品の生産と貿易
7 とうもろこしは実は用途が多い――とうもろこしの生産と貿易の推移
8 「豊かさ」の象徴――牛肉の生産と貿易の推移
9 魚は限りある資源――漁獲量の変化
10 日本から中国へ――木材の生産と貿易

第4章 鉄鋼資源とエネルギー
1 石炭の産出が増えている国は――石炭の生産と貿易
2 中国への石油輸入が増えた地域は――原油の生産と貿易の変化
3 国境を越えるパイプライン――天然ガスの生産と貿易
4 一番伸びている再生可能エネルギーは?
5 どうする?原子力――ウランの生産と原子力発電の現状
6 「鉄は産業のコメ」――鉄鉱石と鉄鋼の生産および流通
7 アルミの街はどこにある――ボーキサイトの産出とアルミニウムの生産
8 意外な産出1位の国は?――銅鉱石の産出と銅地金の生産

第5章 サービス産業と交通インフラ
1 20年で輸出額が一番増えた国は――世界の貿易と輸出入の伸び
2 海外旅行、コロナの影響は――旅行客の移動と観光収入の変化
3 宿泊施設の客室が一番増えた国は――宿泊施設数と宿泊者数の変化
4 アメリカの鉄道距離が減少した理由――鉄道の営業距離と輸送量の変化
5 一番乗降が多い空港は?――空港の数と利用客・貨物輸送量の多い空港
6 交通事故が多い国――道路の過密度とそのリスク
7 世界の船――船舶保有量と造船竣工

第6章 生活と文化
1 国によって働き方はこんな違う――労働時間の長さ
2 スイスの卵の値段は日本の何倍?――食料品の価格
3 世界の住宅事情――持ち家・賃貸補助・公営住宅
4 社会保障費の国際比較――日本よりも多い国・少ない国
5 活字メディアの現状――新聞と出版の国際比較
6 アフリカ・西アジアで伸びる携帯――携帯電話の普及と契約数
7 三大世界宗教の信者数

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