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パチンコ派を強奪、有名タレントのCM攻勢…バブル崩壊後、凋落し続けていた公営競技はいかにして“V字回復”したか

集英社オンライン / 2023年10月9日 12時1分

公営競技は馬券・車券・舟券の売上で成り立っており、2021年度の売上額合計は、同じ年度防衛予算の1.7倍に相当する、およそ7兆5000億円になった。この巨大なギャンブルアミューズメント産業が、いかにしてここまでになったのか。その歴史を追ってみよう。『公営競技史 競馬・競輪・オートレース・ボートレース』 (角川新書) より、一部抜粋、再構成してお届けする。

バブル期に迫る公営競技の売上増

バブル崩壊後、長期にわたり低落を続けていた公営競技の売上は2011年頃からようやく上昇に転じた。

基本的には景気回復の影響とみるべきだが、売上回復の度合いは各競技一律ではない。特にボートレースの伸びが著しい。21年度の売上額は2兆3926億円と、1991年度の2兆2137億円を上回り過去最高の売上となっている。



繰り返し述べてきたことだが、ボートレースがもっともとっつきやすい競技だということは確かにあろうが、それだけではない。

有名タレントを上手く使ったテレビCMの多さは他の競技を圧倒しているし、吉本興業のタレントとのコラボレーションも多い。

また、パチンコ関係のライターにボートレースをアピールさせるなどの手法で、パチンコ愛好者をターゲットにファン増大を狙うなど、他の競技に比べると戦略的に広報活動をおこなってきた成果も大きいだろう。

そもそもボートレースは他の公営競技に比べて開催日数が多い。中央競馬とボートレースは縮小期でも開催日数を減らさなかった。中央競馬の開催日数は77年以来ずっと288日で一定だし、ボートレースも91年度以降もほぼ同じ日数で開催を続けている。

91年度と2010年度の開催日数を比較すると、地方競馬、競輪、オートレースはいずれも約四割減っている。競技場廃止の影響も大きいが、競輪とオートレースでは施行者が開催日数を減らしているのだ。

競輪では1991年12月末に4379人いた選手が2010年12月末には3386人に減っている。さらにその後も減り続け、19年には2190人となっている。グレードレース以外を七車立てとしたのは、選手数の減少によるところも大きい。また、オートレースでは非グレードレースでの二回乗り(一日に二回出走)を復活させている。

競技場の廃止や選手数の減少は、製造業でいえば工場や熟練工の削減にあたる。景気が良くなったからといってすぐに増やせるものではない。あくまで結果論だが、「工場」と「熟練工」を維持したボートレースの成長は当然だろう。

21年度の地方競馬の売上額は9333億円で、1991年度の9862億円に迫る額となった。

91年度は全国30の地方競馬場(うち3場はJRAから借用)で24の主催者が2417日間地方競馬を開催。2021年度は14の主催者が17場(うち、JRAから借用の札幌と中京は長らく開催されていないので、実質15場)で1271日間開催した結果だ。

開催日数はバブル期の52.6パーセントで、売上は94.6パーセントだ。一日あたりの売上は91年度が4億円、21年度が7億3000万円と大きく増えている。

だが、伸び率は主催者ごとに大きな差がある。岩手県競馬組合や石川県・金沢市(金沢)は91年度の売上に届いていないし、特別区競馬組合(大井)も91年度とほぼ同じ水準だ。

帯広市(ばんえい)、高知県競馬組合(高知)、佐賀県競馬組合(佐賀)、千葉県競馬組合(船橋)など、ナイター開催の比率の高いところの伸び率が高い。

「工場」と「熟練工」が減った競輪やオートレースと異なり、地方競馬は競走馬資源という「原材料」供給の問題もある。実はいま廐舎が飽和状態にある地方競馬場が多い。好景気で競走馬を所有したい人が増え、競走馬の生産頭数も増加している(価格も高騰している)のだが、受け入れ可能な廐舎が増えているわけではない。

馬だけではなく、人間の方も深刻な人手不足になっている。北海道では牧場でも門別競馬場の廐舎でもインド人を中心とする外国人労働者がいないと成り立たない状況になっている。全国の地方競馬の廐舎でも外国人廐務員が増えている。

地方競馬V字回復の理由

地方競馬のV字回復には1990年代半ばに実現した中央競馬との交流が大きく寄与している。

中央競馬と地方競馬交流競走が最初におこなわれたのは73年の中央競馬での地方競馬招待競走だった。翌74年に大井で中央競馬招待競走がおこなわれ、86年からは中央競馬のオールカマー競走と大井の帝王賞が招待競走となったが、その後長らく交流が広がることはなかった。

95年、JRAは地方競馬所属馬に皐月賞やダービーといった伝統あるGⅠ競走に出走する道を開いた。競馬界ではこの1995年を「交流元年」とよぶ。笠松競馬所属の牝馬ライデンリーダーが桜花賞・オークスに出走を果たし大きな話題となった。

地方競馬に見向きもしなかったファンが中央競馬の有力馬が出走する交流重賞の馬券を買うようになり、売上低迷にあえぐ地方競馬のカンフル剤にはなったが、この段階では売上の低下を食い止めるまでには至っていない。

2012年10月、JRAはIPAT(インターネット投票)で地方競馬のレースの発売を開始し、さらに翌13年から地方競馬主催者が中央競馬の馬券発売を受託するJ‐PLACEが発足する。中央競馬の巨大な市場が地方競馬に開放された。

この10年ほどの地方競馬のV字回復は、IPATによる売上の開放が大きく寄与している。

ネット投票を主体とする電話投票は21年度の地方競馬の売上額の9割を超えた。発売企業別にみると、SPAT4が44.8パーセントでシェアが最も高く、以下、楽天競馬18.9パーセント、JRAのネット投票15.6パーセント、オッズパーク12.1パーセントとなっている。中央競馬のファン層の取り込みに地方競馬が成功したといえよう。

JRAの売上全体からみるとJ‐PLACEのしめる比率は小さいが、地方競馬主催者および場外発売所からすると、手数料率は低くとも売上総額が大きい中央競馬の馬券の発売が経営に資するところは大きい。

売上額の伸びほど利益は増えていない

売上増大で公営競技の収支が改善し、自治体財政への繰出も復活している。

法的に「地方財政への寄与」が目的とされている以上、公営競技の収支が改善されれば自治体財源への繰入をしないわけにはいかない。

1991年度には3421億円が自治体の財政に繰り入れられた。その後公営競技「冬の時代」の2011年度の繰入金は121億円にまで減り、その後公営競技の売上が増えるにしたがって増加し、20年度には714億円にまで回復している。

売上額がバブル期に近くなった割に繰出金が増えていないのは、これまでの赤字の補てんや今後に備えての基金の造成がおこなわれているからだ。

加えて、地方競馬や競輪・オートレースでは売上にしめる民間ポータルの比率が高いため、見た目の売上額の伸びほど主催者・施行者の取り分が増えているわけではないという面もある。

公営競技からの収益金の多くはかつてインフラ整備の財源だった。初期には住宅、高度経済成長期には学校建設などが主たる使途だった。

バブル期にはいわゆる「箱物行政」の財源となった。1991年度の使途をみると、繰入額の36.8パーセントが土木費、30.4パーセントが教育費に充てられていたが、2020年度には土木費は15.4パーセント、教育費は23.9パーセントとそれぞれ比率を下げている。

地方財政状況調査の費目は、民生費、衛生費、土木費、農林水産業費、商工費、教育費、災害復旧費、その他、および公営事業会計へ繰出となっており、20年度は「その他」が50.7パーセントと半分をしめている。

今や公営競技の収益で何かを造るという時代ではなくなっている。

文/古林英一

『公営競技史 競馬・競輪・オートレース・ボートレース』 (角川新書)

古林 英一 (著)

2023/8/10

¥1,100

320ページ

ISBN:

978-4040824697

「公害」から「エンタメ」へ 7兆5000億円の巨大市場へいたる興隆史

世界に類をみない独自のギャンブル産業はいかに生まれ、存続してきたのか。戦後、復興と地方財政の健全化を目的に公営競技は誕生した。高度経済成長期やバブル期には爆発的に売上が増大するも、さまざまな社会問題を引き起こし、幾度も危機を迎える。さらに低迷期を経たが、7兆5000億円市場に再生した。各競技の前史からV字回復の要因、今後の課題までを、地域経済の関わりから研究してきた第一人者が分析する。

【目次】
序章 活況に沸く公営競技界
第一章 夜明け前――競馬、自転車、オートバイの誕生 一八六二~一九四五年
第二章 公営競技の誕生――戦後の混沌で 一九四五~五五年
第三章 「戦後」からの脱却――騒擾事件と存廃問題 一九五五~六二年
第四章 高度成長期の膨張と桎梏――「ギャンブル公害」の時代 一九六二~七四年
第五章 低成長からバブルへ――「公害」からの脱却 一九七四~九一年
第六章 バブル崩壊後の縮小と拡張――売上減から過去最大の活況へ 一九九一年~
終章 公営競技の明日
あとがき
参考・引用文献一覧

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