1980年代、日本には2万5千を超える書店があった。
だが2004年に2万軒を割り込み、2022年には1万1000軒ほどにまで減少している。
悲しいことに、日本の書店数が1万軒を切るのは時間の問題のようだ。
ここのところ首都圏でも歴史ある大型書店の閉店が相次いでいるし、全国の市区町村のうち4分の1には一店舗も書店がない状況になっているという。
本屋がどんどん消えていく中、完全無人化の“未来型本屋”は、業界の救世主となり得るか
集英社オンライン / 2023年10月25日 12時1分
悲しいことに日本のリアル書店の数は減少の一途をたどり、全国の書店数が1万を切るのも時間の問題だと目されている。そんな中、現れた完全無人型のリアル書店は“本屋の未来”を変えてくれるのだろうか。
店舗数は全盛期の半分以下となり、現在も縮小の勢いが止まらない書店業界
僕は大学生だった1990年代初頭に約3年間、地元の書店でアルバイトをしていたことがある。
東京三多摩地区の私鉄駅前の、中規模書店だった。
19時から23時30分の閉店までを担当する夜シフトだったので、学生バイトながらレジの締めに立ち会うことが多かった。
もちろん季節や曜日によって上下するものの、その頃、店の売り上げはだいたい毎日100万円前後もあったと記憶している。
ときどき店に顔を出す社長は羽ぶりが良かった。会社は僕がバイトしていた店のほか、千葉県でも支店を運営しており、30〜40代の若い社長はピカピカのデカい高級4WDカーに乗って、2つの店を行き来していた。
社長以下社員数名の極小企業ながら、なかなか立派な経営状況だったことが窺えた。
だが、そんな“売れてる本屋”だった僕のバイト先は、2006年だったか2007年だったかに、ひっそりと閉店した。
そこだけではない。僕の地元駅周辺には20世紀の終わり頃まで、中小合わせて5〜6軒の新刊書店があったが、一つまた一つと閉店し、現在はかろうじて1店が残っているのみだ。
どうも、書店のことを書くと辛気臭くなる。
僕も長年にわたって版元(出版社)に勤めたうえで独立し、現在はフリーの編集者兼ライター/コラムニストとして活動している出版人。
とにかく本や雑誌が大好きなので、現在の書店業界の窮状は心痛むばかりだが、冷静に考えれば考えるほど、「あ〜、詰んでいるなあ」としか思えない。
“小規模書店”ほど運営が厳しくなる中、新規オープンした取次直営店舗
今の僕が住む東京23区内の、私鉄最寄り駅の駅ナカにあった中規模書店と、駅前にあった小規模書店は、ここ10年の間に相次いで店を閉じた。
現在、家の近くには小さな書店が一つ残るだけだ。
6階建てマンションの1階部分にあるその書店は、客が店内に入るたびに奥の間からご主人が出てきて、おもむろにレジに立つ。
そして客の一挙手一投足を見つめ続けるので、正直言ってとても居心地が悪い。
そのためかいつも閑古鳥が鳴いていて、経営状態が気になるところだけど、推測するにその書店のご主人は、上に建つマンションのオーナーでもあるのではないかと思う。
マンションの管理や保守になるから、あるいは本好きなので趣味的に、片手間で店を開いているだけで、そもそも書店経営で稼ごうとは思っていないのだろう。
あそこがテナントだとしたら、その賃料を払えるほど、売り上げが出ているとはどうしても思えないのだ。
小書店はそういった特殊事情がなければ、この先はますます残っていけないのではないかと思っていた。
だが最近、そんな斜陽に陥る書店業界にとって、小さな光明とも言える出来事があったのをご存知だろうか。
9月26日、東京メトロ銀座線・南北線の溜池山王駅構内に、「ほんたす ためいけ 溜池山王メトロピア店」(以下、「ほんたす」)という、完全無人書店がオープンしたのである。
取次(出版物の問屋)最大手である日販(日本出版販売株式会社)が運営するこのお店。
入退店にはLINEミニアプリを活用し、決済は現金NGでセルフレジによるキャッシュレス決済のみとすることで、完全なる無人化を実現している。
店舗面積は15坪あまりと、書店としては決して大きくないが、この小さな小さな無人書店が、今後の出版業界、書店業界の行く末を占うのかもしれない。
「ほんたす」の試みは始まったばかりで、成功なのかどうかはまだわからないが、この新しい書店を手掛かりとして、書店業の興味深い未来が描けそうなのだ。
リアル書店は今も間違いなく重要な役割を果たしている
現在の書店業界の窮状は、インターネットの普及により、読書人口が少なくなったことがまず第一に挙げられる。
だがそれだけではなく、今も変わらず本を読む人も、便利な電子書籍やオンライン書店ばかりを利用し、書店の実店舗からは足が遠のいているのだ。
だが書店の実店舗は、今も間違いなく重要な役割を果たしているはず。
紙の本が持つ手触りや香りを楽しみつつ、本選びを楽しみたいという需要は、根強く存在しているからだ。
「検索」によって目的意識を持って本を見つけ出すネット書店ではなく、出会い頭のような本との偶然の出会いがもたらす特別な喜びを求めたいと考える人も多い。
ネット書店と電子書籍さえあればいいじゃないかという話ではなく、実店舗の書店が新しい提案さえすれば、歓迎してくれる人が一定数いることは間違いないのだ。
敷地面積が小さく、品揃えが限られる店舗だからこそできること
無人書店「ほんたす」溜池山王店に対するネット上の口コミを見ると、そのあまりの小ささに文句をつけている人が多い。
だけど、現状ではほぼ崩壊しつつある、ごく小規模の書店が成り立つか否かこそが、今後の書店業界存続にとっての大きなポイントになるのではないかと思う。
店舗が狭くて品数が少ないことのデメリットは、特定のジャンルやテーマに焦点を絞りやすいというメリットに変換することも可能だ。
「ほんたす」溜池山王店は、ビジネス街の駅ナカという立地のため、ビジネス書と実用書、それに新刊ベストセラー書を中心とする品揃えになっていたが、書店は規模が小さいほど、場所柄に合わせてセグメントしたラインナップを提供することができる。
従業員を常駐させる必要がない無人式であれば、運営コストを低く抑えられるので、従来型有人書店ではすでに立ち行かなくなりつつある、専門性の高い小規模書店を維持できるのではないかと思うのだ。
観光地に設置された無人書店は、その地域の観光名所や歴史に関連する本を多く取り揃え、観光客に魅力的な情報を提供できるだろう。
大学の周辺に設けられた無人書店は、学術書や専門書を豊富に取り揃え、学生や研究者をサポートできるかもしれない。
スタジアム近くの無人書店にはスポーツ関連書やアーティスト関連書を、山深い地方のサービスエリア設置された無人書店にはアウトドア関連書を、大きな病院内の無人書店には健康関連本や入院患者のための心休まる読み物を、サーキットの中に設置した無人書店にはモータースポーツ関連本を……といった具合に、その地の特徴に即した無数の展開を考えることができる。
もちろん接客以外の仕事、たとえば品出しや返品作業、店舗清掃や書棚整理、機器類のメンテナンスなどのために、無人書店であっても人員は必要だが、小型であるほどその数は少なく済み、1日のうちに一人で何店舗か回れば事足りるかもしれない。
そして人件費を筆頭とする運営コストを抑えられれば、以前より客の絶対数が少なくなっていたとしても、店舗は十分持続可能になる。
本屋の実店舗は無人化させることにより、電子書籍やオンライン書店と共存しながら、読書文化を支え続けるという、素敵な未来を想像せざるを得ない。
だけど現状は……。
小型無人店のメリットを活かし、需要の喚起を促すことこそが重要
などと立派なことを考えながら、「ほんたす ためいけ」溜池山王メトロピア店での買い物を楽しんだ。
LINEを使った入退店の仕組みは、文字で説明しようとすると面倒くさく見えるので省くが、お店の入り口に掲げられた説明を軽く読めば、ほぼ直観的にこなすことができた。
店内は確かに狭いが整然としていたし、出店地の特徴を捉えて芯を食った品揃えは、とても好感が持てた。
それにしても気になるのは、現状における認知度の低さだ。
店は駅ナカのそれなりに人通りがある場所にあるのだが、多くの人は「なんじゃこりゃ?」と一瞥をくれるだけで、ただその前を通り過ぎていく。
僕が滞在した15分ほどの間、ほかに客は誰もおらず、たった一人でお店を独占した。
レジでセルフサービスの会計をしているとき、新しいお客さんがやっと一人入ってきたが、いくらオペレーション費を安く抑えた無人店だとしても、この調子では長くは持たないだろう。
まだ実験段階だからなのかもしれないが、もっとしっかりと広報宣伝し、需要を喚起しなければ、とまったく他人事ではない気持ちで考えながら店をあとにした。
写真・文/佐藤誠二朗
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