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「こんなアンフェアなことが許されるのか!」選挙に取り憑かれた“絶滅危惧種ライター”に引退撤回を決意させた、ある国政政党とのバトル【映画『NO選挙,NO LIFE』公開記念鼎談】

集英社オンライン / 2023年11月26日 11時1分

近ごろ「政治」「選挙」を扱ったドキュメンタリー映画が活況だ。数年前なら考えもしなかったことが、いまや大きな台風に化けようとしている。そこで今回、前田亜紀監督の『NO選挙,NO LIFE』公開に際して、同作の主人公にして「絶滅危惧ライター」と呼ばれる畠山理仁氏、彼をよく知る水道橋博士と前田監督の3人で、映画のバックストーリーを語り尽す。(#1・#2)

#1

水道橋博士の議員辞任

前田亜紀(以下、前田) 博士は昨年、参院選に出られて「楽しかった」と話していましたが、選挙戦じたいはハードで大変だったと思うんです。その中で「楽しい」というのは?

水道橋博士(以下、博士) 選挙カーで「毎度おなじみの、“与党交換”に参りましたー」とアナウンスしたり、マイク持って麻生さんや安倍さんのモノマネしたりして、文化祭のようにみんな面白がってくれていたから。



前田 でも、票のプレッシャーは?

博士 ぜんぜん。選挙に出た目的として松井一郎氏との裁判を世の中に知らしめるというのが先ずあって。自分は受かるわけないと思ってやっていましたから。

前田 畠山さんは博士の現場も取材されていたんですよね。

畠山理仁(以下、畠山) はい。大阪で。

鼎談はオンラインで行われた

博士 あのときボクは「終わったら(僕の政策秘書を)ヨロシクお願いします」という気持ちだったから。というのもボクが議員辞任に至ったのは政策秘書のことが大きかったから。

畠山 えっ、そうなんですか?

博士 れいわ(新選組)の山本太郎代表のところの政策秘書は学者さんとか政治活動を積んできた人で、政策立案もできるし国会答弁もできる。だけどボクのところはことごとく意見が嚙み合わず――

前田 では、畠山さんが要請を断ったのが議員辞職の一因に?

畠山 だけど僕がもしもなっていたら、議員辞職はさらに早まったかもしれないですよ(笑)。

博士 でも、畠山さんなら、「こういう政策を立案しませんか。そのために三日三晩一緒に徹夜しましょう」とかって言うでしょう。そういう人でないとボクはダメなんだ。

「こんなフェアでないことを言う団体が国民政党でいいのか!?」

前田 そもそも博士が畠山さんに、と考えたのはいつ頃からだったんですか?

博士 あれはいつ、言いました?

畠山 参院選に入る前、博士が出馬を決められたときに「選対スタッフに入ってくれないか」とオファーを頂いたんですよね。僕自身は「週刊プレイボーイ」で参院選の取材をすることが決まっていたので、「特定の候補のスタッフになることはできません」とお断りしたんですね。

博士 「これが最後の選挙取材のつもりですから」とも言われたんだ。

畠山 それで、「この話は聞かなかったことにさせていただきます。墓場まで持っていきます」と言ったんですね。

前田 初耳です。

博士 お互い、めちゃめちゃクチが固かったからね。

映画『NO選挙,NO LIFE』より

前田 では、博士の当選が決まったときに畠山さんはどう思ったんですか?

畠山 当選するだろうと思っていたので、心は揺らいでいたんです。ところが選挙戦の最後に「こんなフェアでないことを言う団体が国民政党でいいのか!?」という怒りを覚える、ある事件が起きたんです。これは僕がウォッチし続けないといけない。しつこく取材するのは自分以外にいないだろうと強く思いました。

だから選挙後に改めて博士から「政策秘書に」と言われたときは直接お会いして「すみません。〇〇党を追いかけないといけないんで、政策秘書の話はお断りします」と言いました。博士には「その理由、よくわからない」と怪訝な顔をされましたね。

博士 映画を観るまでは、あんなに怒っているとは思わなかったからね。

畠山 正直チラッと、博士の政策秘書になって「選挙制度改革を訴える」というのも考えはしたんです。でも、自分にしかできないことは何かを考えたときに「選挙を取材することで生活が成り立つロールモデルを作りたい」という心残りがあったんですよね。

家族から見た畠山理仁と妻への感謝

博士 そうか。ああ、これは記事にしなくていいんだけど、ボクが映画のディテールでいいなあと思ったのは、ちゃんとした家庭があり、仕事部屋が片付いていることなんだよね。

畠山 ええっ、汚いと思っていますが(笑)。

博士 まあまあ。お子さんたちもすこやかに育っているし。家庭を映した場面を見ると安心しますよね。

前田 たしかに。取材の現場だけ見ていると、家庭はどうなっているんだろうと思いますものね。

博士 子供がドラマ「積み木くずし」のようになっているんじゃないか、とかね。

畠山 逆に、カメラに向かって「うちの父がご迷惑をかけていないでしょうか?」と子供に心配されていますから。

博士 あれは本当にホッとするね。もう、あの映画に映っていたのと同じ大きな机を買おうと思っているからさあ。

畠山 机ですか。

映画『NO選挙,NO LIFE』より

博士 ウチもすごい資料の山だから。どこに何が入っていて、どう取り出すのかというのは覗き込んで見ましたよ。こんな昔のポスターまで残してあるんだ。撮影済みのビデオテープはこんなふうに整理しているんだ、とか。整理がダメだとアウトプットできませんからね。

前田 資料はたしかにすごい量でした。

畠山 選挙関係のものは、ぜんぶ捨てずに取っています。ビラとかも。

前田 ヤバくないですか?

畠山 ええ。活躍の度合いが少なそうなものはクローゼットの奥にしまい、必要に応じて取り出しています。捨てる、捨てないと区分けをしてしまうと「あるかも」と探して「ない」ということになるので、全部置いておく。とくに政治家の本はほぼ初版限りなので目にしたら買う。そういう二度と手に入らないものばかりが溜まっていって(笑)。

博士 ドキュメンタリーとか本とか書く人はファクトが大事だから一次資料はとっておくんだよね。だから、取材する仕事を支えるものが何かというのがわかって面白かったねえ。

前田 私も現場の畠山さんしか知らなくて、いつもキッチリされている人だという印象だったんですが、妻の洋子さんに聞くと「ぜんぜん」と言われるんですよね。家族が見ている夫、父の姿とのギャップが──。

畠山 家庭内でのあまりの地位の低さに(笑)。

博士 そういうもんですよ。だいたい家の中で威張っている男はロクでもない。

畠山 僕は、前田さんが家族に取材している現場には立ち会っていないんですよね。自由に話せないだろうなと思って。作品になった後、家族が自分のことをどう見てくれているのかを知り、これは感謝しないといけないと思いました。

博士 あそこは映画のキモですよね。

前田 ただ今回、私は「畠山さんの肩越しに選挙戦を見る」というのを命題にしていたので、ご家族に会うことは当初考えになかったんです。だけども、畠山さんが度々話す妻の存在が気になって。畠山さんが選挙取材をやめようかと思うと相談したら妻から「やめてはいけない」と背中をつよく押されたという。本当なんだろうか?

畠山 そう。家族の存在自体を疑われていましたよね(笑)。このひとは、妄想で家族の話をしているんじゃないかと。

前田 どうしてもここは確認をしたいと思うようになって。

博士 びっくりするほど、妻はカメラの前でちゃんと話されている。

畠山 僕は断ると思っていたんです。もしくは、よくある、顔が映らない。首から下だけカメラが撮っているとか。

前田 事件取材に多い。

畠山 そうそう。

タレント性を高めるには「朝生」に出ればいい?

博士 あと今だから言うけど、参議院選挙後に、畠山さんにボクは(維新との)「反スラップ訴訟」を訴えたいがために選挙に出たんだからゴールはここではない。半年後の大阪市長選に出るかもよと。

畠山 ええ。おっしゃっていましたね。

博士 そのときは軍師をやってくれと。

前田 へえー。

畠山 ハハハハハ。それを聞いて「週刊プレイボーイ」に謎かけみたいな原稿を書かせていただきました。

博士 だけど現実は当選してすぐコロナに罹患し、回復したら『福田村事件』の撮影に入り、もうボロボロになっていくんだから人生はわかんない。なので、この映画に出てくる人たちのその後が気になって仕方ない。

前田 私もそうです、それぞれの。

博士 選挙ドキュメンタリーというすごい鉱脈を探り当てたなあと思いますよ。

映画『NO選挙,NO LIFE』より

前田 あのう。これまで選挙と政治関係のドキュメンタリーをやってきたんですけど。さらに多くの人に観てもらいたいと思っていて。博士、名案は──。

博士 そりゃあ、畠山さんのタレント性を高めるということですよね。

畠山 えっ!?

博士 これからは、自分は主役だと思って「朝まで生テレビ」とかに出て、怒鳴ったらいいんじゃない。

畠山 僕が? 怒鳴れるかなあ……。

博士 そこは(プロデューサーの)大島新さんから、どうやったら(大島)渚監督が降臨するのか教えてもらってください。ボクは「田原総一郎の民営化」というのを掲げて、バラエティ番組にバンバン出てもらったんですが。そういう意味で畠山さんをメインにした番組をネツゲンが作ればいいと思いますよ。『ヒルカラナンデス』(畠山を「師匠」と呼ぶダースレイダー&プチ鹿島によるYouTube番組)は、いまや選挙に関心のある人たちは必ず見るようになってきたし。

前田 なるほど、なるほど。

畠山 僕は、博士のように立候補した人にしか見えない風景があると思っているんです。どんなものが見えましたか?

博士 それはもう、圧倒的に「れいわ」のボランティアに感動していました。いろんな現場に行くとわかるじゃないですか。動員で集められている人たちとはちがって、のぼりがどんどん立って、人がひとりふたりと集まり膨らんでいく。なんとか社会を変えたいと利他的に動く人たち。母子家庭であったり、生活に困窮していたり。声を聞いていると切実なんですよね。本当に。仕事するんだという気持ちになったのは、あのときですよね。

ドキュメンタリー映画で成功する方法

畠山 僕はこの映画を見たとき、前田監督と同じ現場に行ってはいるけれども、僕とはまったく違う視点があるんだと驚いたんです。予想を超えていて、本当に嬉しかった。だから、もっともっと多くの人に選挙や選挙取材に参加してほしいんですよ。それには僕が大金持ちになるシステムを作って、それを多くの人に見せて、「私も私も」と、どんどん新規参入してもらうしかないんでしょうかね?

博士 これは当時自民党の幹事長だった安倍さんと対談して映画の話になったときに、安倍さんが感動したと言ったのが海洋映画だったから、カンヌ映画祭でパルムドールを受賞した「マイケル・ムーア監督の『華氏911』はまだご覧になっていないんですか?」と話を振ったら、「どうしてあなたに映画の好みを押し付けらなければいけないんですか」とスイッチが入って。マイケル・ムーアは米国にアメリカンドリームはないと言いながら映画で大金持ちになっているじゃないですかと言われるので、「いや、彼はたくさん寄付もしていますよ」と激論になったんですけどね。

前田 へえー。

博士 たしかにマイケル・ムーアは大金持ちにはなったけれどもその分を還元しようとしているし、ビル・ゲイツもそう。こんなにもお金は要らないと思って財団をつくるわけですよね。一方、いまの日本はお金儲けの人脈づくり、権力とどうつながるかがもてはやされすぎている。ボクはそこに対して拒否反応があって。畠山さんにはそうじゃないカウンターになって「24時間テレビ」の司会とかやってほしいですよね。

映画『NO選挙,NO LIFE』より

畠山 ありがとうございます(笑)。いまも取材費に窮しながらも何故か寄付とかしちゃっている状態なんですよねえ。

前田 畠山さんは人によくおごるなあと思いながら見ていました。

博士 それでいうとドキュメンタリーの森達也監督なんかも成功者にならないとダメなんだよ。『福田村事件』は興行収益が2億3千万円くらいまでいって大成功だというんだけど、ボクは「ここからだ」とスタッフに言うの。制作費数百万で始まった『カメラを止めるな』は220万人興行、32億円の収益を上げたんだから、「『福田村事件』を止めるな!!」と言っているんだよね。

前田・畠山 なるほどー!!(笑)。

博士 本当。小池都知事と松野官房長官が観るまで止めたら、ダメ。

畠山 そのやり方は選挙運動に似ていませんか?

博士 うん。選挙に学んだね、これは。選挙に出てSNSでまたかよと思われるかもしれないけれども、ぐるぐる回し続けることでだんだん世の中の認知が変わってくるんだよね。とにかく伝える側がマイケル・ムーアくらいに大スターになっていかないといけなんですよ。

畠山 いやあ、胸に響きました。

前田 ありがとうございました。

構成/朝山実

『NO選挙,NO LIFE』(前田亜紀監督)は、東京・ポレポレ東中野、TOHOシネマズ日本橋ほか全国ロードショーで絶賛公開中!

コロナ時代の選挙漫遊記

畠山 理仁

2021年10月5日発売

1,760円(税込)

四六判/304ページ

ISBN:

978-4-08-788067-0

選挙取材歴20年以上! 『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で第15回開高健ノンフィクション賞を受賞した著者による”楽しくてタメになる”選挙エッセイ。

2020年3月の熊本県知事選挙から2021年8月の横浜市長選挙まで、新型コロナウイルス禍に行われた全国15の選挙を、著者ならではの信念と視点をもって丹念に取材した現地ルポ。「NHKが出口調査をしない」「エア・ハイタッチ」「幻の選挙カー」など、コロナ禍だから生まれた選挙ワードから、「選挙モンスター河村たかし」「スーパークレイジー君」「ふたりの田中けん」など、多彩すぎる候補者たちも多数登場!

<掲載される選挙一覧>
熊本県知事選挙/衆議院静岡4区補欠選挙/東京都知事選挙/鹿児島県知事選挙/富山県知事選挙/大阪市住民投票/古河市長選挙/戸田市議会議員選挙/千葉県知事選挙/名古屋市長選挙/参議院広島県選出議員再選挙/静岡県知事選挙/東京都議会議員選挙/兵庫県知事選挙/横浜市長選挙

黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い

畠山 理仁

2019年11月20日発売

924円(税込)

文庫判/376ページ

ISBN:

978-4-08-744049-2

落選また落選! 供託金没収! それでもくじけずに再挑戦!
選挙の魔力に取り憑かれた泡沫候補(=無頼系独立候補)たちの「独自の戦い」を追い続けた20年間の記録。
候補者全員にドラマがある。各々が熱い思いで工夫をこらし、独自の選挙を戦っている。何度選挙に敗れても、また新たな戦いに挑む底抜けに明るい候補者たち。そんな彼・彼女らの人生を追いかけた記録である。

2017年 第15回 開高健ノンフィクション賞受賞作

【目次】
第一章/今、日本で最も有名な「無頼系独立候補」、スマイル党総裁・マック赤坂への10年に及ぶ密着取材報告。
第二章/公職選挙法の問題、大手メディアの姿勢など、〝平等"な選挙が行なわれない理由と、それに対して著者が実践したアイデアとは。
第三章/2016年東京都知事選挙における「主要3候補以外の18候補」の戦いをレポート。

【選考委員、大絶賛! 】
キワモノ扱いされる「無頼系独立候補」たちの、何と個性的で、ひたむきで、そして人間的なことか。――姜尚中氏(政治学者)
民主主義とメディアについて、今までとは別の観点で考えさせられる。何より、作品として実に面白い。――田中優子氏(法政大学総長)
ただただ、人であることの愛おしさと愚かさを描いた人間讃歌である。――藤沢 周氏(作家・法政大学教授)
著者の差し出した時代を映す「鏡」に、思わず身が引き締まる。――茂木健一郎氏(脳科学者)
日本の選挙報道が、まったくフェアではないことは同感。変えるべきとの意見も賛成。――森 達也氏(映画監督・作家)
(選評より・五十音順)

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