←伊 賀 童仙坊→
甲 賀
↓
つくづく、ものすごい看板だった。このとき、私たちがいた場所は京都府南東部の山中にある三叉路……。だが、行政上の地名はあまり意味がない。このあたりは、三重県・滋賀県・京都府の境界が入り組んで接している、通称「三国越」(みくにごえ)。すなわち、忍者の里である伊賀と甲賀を結ぶ秘境の峠なのだ。
道幅は車両一本分しかなく、しかも歪んでいた。甲賀側の多羅尾集落を出て以来、対向車がまったく来ないのは助かったが、逆に言えば路肩に転落するとそのまま誰にも見つからないということだ。山深い峠道の路面には湿った落ち葉が散らばり、苔むしている。路面状況が悪すぎるので、この季節は峠を攻めるライダーもあまり来ないようだ。
私たちの行き先の住所も、京都市南山城村童仙坊という、いかにも浮世離れした地名だ。わずかな案内看板を頼りに進むと、「高麗ハウス」と日本語とハングルで書かれた寺務所が、山中に突如出現した。韓国仏教(禅宗)の日本にある総本山・高麗寺である。本堂のほか個々の建物は比較的こじんまりしたものも多いものの、墓地も含めると約6万坪の敷地があるらしい。