“バズる”地方創生請負人が語る、これからの地方。発展のキーワードは「海外進出」と「女性の雇用創出」地域活性化の弊害は「お金を吸い上げていく東京の大企業」
集英社オンライン / 2024年5月14日 8時0分
歴史的な円安水準に突入し、「日本オワコン説」があちこちで囁かれるようになった昨今。とくに人口減が進む地方は「4割の自治体が2050年までに消滅の可能性がある」との推計も出ており、先行きを懸念する声も多い。そんな逆境の中でも、「地方から日本を元気にしよう」と取り組む2人の精鋭がいる。“日本一バズる公務員”として、高知県須崎市のふるさと納税寄付額を1000倍に増やした守時健(もりとき・たけし)氏と、テレワークで地方創生に取り組むイマクリエ代表の鈴木信吾氏だ。“地方創生請負人”として引っ張りだこの2人が語る、「地方の現状と希望」とは?
パリで大人気の日本食のコンセプトストア「iRASSHAi(イラッシャイ)」
脱・東京一極集中としての「ふるさと納税」
――地方創生の現場に立つおふたりですが、今感じている問題点からお聞かせください。
守時健氏(以下、守時) 今、というか、これまで長らく抱えてきた構造的な問題に、東京一極集中があります。東京がなぜすごいかといえば、地方で育った優秀な人材がごそっと流れつくからなんですね。
逆に我々地方の目線に立つと、教育コストを負担して育て上げた人材が結局、東京に出て行って東京に納税するわけです。18歳まで育てるのに1人当たり1700万円かかると言われてて、高知県の場合、それが年間2000人とか。べらぼうな金額なんです。
優秀な若者を供給するには、地方がまず豊かにならないと、今後の日本は立ち行かなくなるんじゃないかなっていうのは、すごく思うところです。
――この育成コストの是正策のひとつがふるさと納税でした。首都圏に納税するようになった地方出身者でも、納める税金の一部は任意の自治体に納税すると得になるよう設計し、税収を地方に還元する施策として定着しました。
守時 そうです。ふるさと納税というと、「返礼品の競争激化がけしからん」と言う声を聞くことも多いと思うんですが、これ、まったくそんなことはないと僕は思っていて。自治体は魅力的な返礼品を用意して、どんどん競争したらいい。総務省のHPにもどんどん競争しなさいって書いてあります。
どんどん競争して、ふるさと納税で競争力がついた商品が有名になって、いずれ海外展開できればいいなと思って、今、試行錯誤しているところです。
鈴木信吾氏(以下、鈴木) 地方の名産品が世界でヒットする、というのは、わりと現実的なことだと私は思ってます。というのも、弊社(イマクリエ)はクライアントから受託した業務を、完全在宅で働く5万人のテレワーカーのリソースを活用して行なうアウトソーシングが中核なのですが、登録しているテレワーカーの方は海外在住が多いんです。
この面々が現地のお店の棚を抑えて、日本の名産品を販売するっていうチャンネルを作ろうと思ってまして。
守時 待ってください! 御社はテレワーカーが5万人もいるんですか?
鈴木 はい。テレワークなので、どこでも仕事ができるんですね。弊社に登録しているスタッフは世界40ヶ国に散っています。私にとっての地方創生の先々というのは、この40ヶ国に日本の商品が届くとか、そこで売れるようになること。そうすると日本はすごく豊かになると思っていて。
守時 なります、それは確実になりますね。
フランスでおにぎりが人気の理由はアニメ?
鈴木 私が最近危惧しているのが、今、世界的に日本食が大ブームとなっているんですけど、これ、変な消費のされ方をして終わってしまうのは嫌だなと。
例えば寿司職人が海外で高給を取れる、みたいなニュースは最近よく目にしますが、本当に日本の職人さんが主体となって日本の伝統的な寿司を提供しているならまだしも、それが他国資本のお店だったらモヤモヤしませんか?
そこでオリジナルと違うサービスが提供され、本来と異なった形で消費されて伝わるのは何か違う。きちんと日本人や、日本の地方の方々が携わるべきだという想いがずっとあるんです。
なので、日本発の食材や商材の海外展開というのは、我々もすごく力を入れていきたい分野です。
守時 すごい。めざす世界観は同じですね。この構想は、どのへんまで進んでいらっしゃいますか?
鈴木 ブランドをつくるには、ヨーロッパがいいのではと私は思っていて。日本の自治体や地域とヨーロッパが直接つながる場所として、現地のお店の棚を借りて直接現地の方に販売する、みたいなことはもう始めています。
たとえば、2023年にパリでオープンした「iRASSHAi(イラッシャイ)」という日本食を扱うコンセプトストアがあるのですが、パリ在住の日本人はもちろん、日本食が好きなフランス人たちに大人気で、いつも混み合っています。
このような海外のお店で、日本の地方の特産品を販売していく。パリでヒットしたらそれはブランドになって、アメリカやシンガポールに広がっていきます。バルセロナだとラテン語圏で伸びていくイメージです。
守時 うちの強みは、いろんな地域でいろんな商品の開発をしたりプロモーションをしていることなので、何万っていう事業者さんと濃密な関係が築けているんですね。売れるものはめっちゃあると思います。
ふるさと納税でも工芸品部門で1位になった土佐包丁なんて、海外でウケそう。それこそ、パリで開催したジャパンエキスポでもめっちゃ人気になっていたし……。
鈴木 ああいうイベントに行くと、日本のポテンシャルを感じますよね。たとえば今、ライスボール、おにぎりですね、これが世界的に人気になっていて、パリだと行列店ができているほどで、そこではおにぎりが1個500円以上で売られてたりする。
これは外国人の方々が日本のアニメでおにぎりを食べるシーンを見た体験も強く影響していると思います。
守時 ですねえ。ふだん、プライドの塊みたいなフランス人も、こと話題がアニメに及ぶと日本人超絶リスペクトみたいな雰囲気になったりする(笑)。
鈴木 ですです(笑)。そうした文化的な強みを追い風にしながら、“世界で戦える地方”をどうつくっていくかというのは、可能性とやりがいを感じる分野ですね。
やっぱり外へ広がっていくことによって産業が伸びていくと、今度は外国人の方々がそれをおもしろがってくれたりするので。そういう流れをつくりたいと思ってやっています。
東京の企業が地方のカネ吸い上げる問題
――地方創生の問題点について、もう少しお聞きしたい。地方創生を進めるうえで、自治体の仕組みはうまく機能していますか?
鈴木 実務的な面を語る上で、公務員の人員配置の問題は大きいと感じます。せっかく人を紹介したり、事業を立ち上げたりしても、2年サイクルとかで部署が変わってしまう。これではなかなか知見が溜まらない。
守時 それは本当にそうで。僕が8年間務めた須崎市役所から独立して地域商社を立ち上げたのも、この問題からなんです。
――守時さんが立ち上げた「パンクチュアル」は、日本各地の名産物のEコマースや、ふるさと納税のプロモーションを手掛けてらっしゃいますね。
守時 4人で立ち上げた会社が2年目に15人になって、3年目に40人、4年目に100人になって、今年新卒が38人も入ったので150人近い規模になりました。
僕が思うに、地方への移住って何かが気に入ったとかより、人間関係や仕事があれば移住するものなんです。うちではほぼ全員、正社員として雇用して、住民票も移してもらって、地域の人々と密に仕事をしていくスタイルをとっています。
これ、いわば「異動のない市役所」を作りたかったんですね。役所みたく人事異動がない、それゆえ知見が溜まる、能力が高い集団。そんなものを目指しています。
鈴木 今の地方創生のテンプレみたいな動きとして、東京の会社がコンサルで入って、自治体から高額の報酬をもらって……みたいなのもありますよね。
守時 そうなんです、あの東京一極集中な感じが本当に嫌で。
公務員をやってたとき、たくさん見てきたんですが、東京から来た大企業が企画だコンサルだってお金を吸い上げていくんです。
それが嫌で、自分がつくった会社では、仕事をもらったらそこに営業所をつくって、住民票も移して。うまくいってるときは地域の人と一緒に喜んだらいいし、うまくいってないときは地域の人と一緒に悩みなさい、と。いまでは20拠点くらいになるのかな。だいぶ規模が拡大しました。
――守時さんが地域密着というコンセプトで地方創生に向き合うなか、鈴木さんはテレワークの活用で企業や仕事を誘致しています。
鈴木 「地方にいい人材なんていない」「優秀な人はいない」と嘆く声は、今もよく聞きます。でも、決してそんなことはありません。
出産や子育て、介護などライフステージの変化で地方に転居せざるをえなかった女性の働き手はたくさんいますし、彼女たちの中には驚くほど優秀な人が多い。弊社は東京にある会社ですが、中核メンバーの9割が東京外で、優秀な女性スタッフは本当に多いです。
むしろ、地方にないのは「東京と同水準の賃金がもらえる、やりがいのある仕事」。それをテレワークというツールを使って、地方に雇用をつくり出す。まずは僕らがお仕事を持っていきます。
それができる人材が揃ってきたら、今度は企業を誘致するように動いていく。人材は適時、リスキリングしていく。こんな感じで、地方に魅力ある雇用をつくれるようにしています。
「4割の自治体が消滅」は本当か?
――有識者からなる「人口戦略会議」という民間グループは、「今後30年間で744自治体が消滅する可能性がある」と発表しました。これは全自治体の4割にあたりますが、この数字をどう思いますか?
鈴木 これは20~30代の若年女性が今後、どう推移していくかを調べた統計がもとになっています。2050年までに、この若年女性人口が半数以下になる自治体を「消滅する可能性がある」としています。
ただ、これは取り組みしだいで解決できる問題だと私は思っていて。実際に私が取り組んだ事例でいうと、石川県の羽咋市(はくいし)がまさにそうでした。
「女性に魅力あるまちづくり」を目標に掲げた羽咋市は、20代の女性が男性に比べて1.4倍も市外に流出していることが調査でわかったのですが、その理由は皮肉にも「学力の高さ」。小学校と中学校の学力は石川県が全国1位で、中でも羽咋市はトップだったんです。
つまり、高い学力を持つ若者たちが大学進学で首都圏に出て、そのまま就職、結婚してしまい、羽咋市に戻ってこないという実態が浮き彫りになりました。ここに地方創生のヒントがあると思ったのです。
このタイミングで私は羽咋市の担当者と知り合ったのですが、女性を対象にしたセミナーを開くことにしました。テレワークを使って都会の仕事を得て地元で働ければ、女性層の流出は防げると思ったからです。
セミナーを開いておしまいにするのではなく、セミナー後も受講者一人ひとりに寄り添って、就業先の案内にも個別対応するようにしました。同時に、この講座の受講生を地元の企業に紹介して、地元の就業につなげるというアイデアも浮かんだのです。
この取り組みが評価され、後に「地方創生テレワークアワード」で地方創生担当大臣賞を羽咋市と弊社が一緒にいただくという評価も得ました。効果が出るのはまだ先かもしれませんが、じわじわと広がっている手ごたえを感じています。
何もしなければ、地方自治体は過疎化が進み、本当に消滅してしまうかもしれません。一方で、東京一極を避けるような施策をどんどん打っていき、世界や若年層にアピールできれば、「魅力的な地方」は創生できると思っています。
これからが正念場。地方からニッポンを元気にしていきたいですね。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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