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俳優界に異変。イメージ刷新のための「怪演」から、みそぎ落としの「怪演」へ

集英社オンライン / 2022年11月3日 18時1分

佐野史郎を筆頭に俳優にとって「怪演」と称されることは、振り切った熱演が世間をざわつかせた一つの証明でもあった。しかし最近では「怪演」に世間の注目が集まるにつれ、俳優だけではなく意外なタレントたちも参入。テレビ番組に関する記事を多数執筆する前川ヤスタカが、これまでのパターンとは少し事情の違うタレントの「怪演」に切り込む。

「怪演」でブレイク! その第1号は?

近年やたらと「怪演」という言葉を耳にする。

やれ怪演女優だ、やれ元アイドルグループ俳優が殺人鬼役を怪演だと芸能ニュースを検索すればいくらでも出てくる。

奇怪な行動や行きすぎた言動のキャラクターを嬉々として演じているような場合にこの言葉は使われるが、実は広辞苑には「怪演」は載っていない。古くからある言葉ではあるが、ここまで頻繁に使われるようになったのはわりと最近のことだ。



大宅壮一文庫で調べたところでは、雑誌見出しレベルでテレビドラマや映画における俳優の「怪演」が最初に出てくるのは1988年である(これより古くから「怪演」という言葉はあり、演劇評などにおいて時折出てきてはいたが、「雑誌見出しレベル」での話ということでご了承いただきたい)。

ここで「怪演」していたのは映画『帝都物語』の加藤役・嶋田久作である。

嶋田久作は『帝都物語』に抜擢されるまで全くの無名で、これをきっかけに世に出た新人。演技もさることながらそのたたずまいがあまりにも奇怪で、魔人・加藤のイメージを世に強烈に植え付けた。

「佐野史郎=冬彦さん」で社会現象に

その次に「怪演」の見出しが並ぶのは1992年。TBSドラマ『ずっとあなたが好きだった』の冬彦さん役の佐野史郎である(ちなみに佐野史郎は前述『帝都物語』にもわりと重要な役で出演している)。

社会現象ともなったこの作品。極端なマザコンで、木馬に乗り、ムーンと泣く怪演を見せた佐野史郎は一躍有名となった。

嶋田久作にしても佐野史郎にしてもこの怪演をきっかけに世に広く知られるようになったわけだが、その反動で「怪優」のイメージがついてしまい、しばらく普通の役を演じることがなかった。

この「怪演」で世に出るパターンは役が固定されてしまうという点で諸刃の剣だが、近年でも松本まりか、松本若菜などが怪演女優と呼ばれ、そんな感じの役ばかり演じている。

しかし、佐野史郎もその後は正統派の役が増え、今では冬彦さんのイメージからは脱却しているので、世に出るきっかけと割り切って怪演するのもひとつの選択肢なのかもしれない。

イメージを覆す「怪演」は俳優の武器になる

そこからしばらくして新たに出てきたパターンが、そもそもすでに有名な俳優さんが脱皮を図るため敢えて「怪演」方向に舵を切るケース。

これは、たとえて言うなら、プロレスでいうベビーフェイスがヒールに転向するようなもの。正規軍にいるけどちょっと伸び悩んでいる、どうも最近冴えないといった場合に、ヒール転向で人気が上向くケースは多々ある。

デンジャラス・クイーン北斗晶も、元々は正統派でみなみ鈴香とのタッグ・海狼組(マリン・ウルフ)時代は、ライオネス飛鳥みたいな外見だった。それがヒール転向後、血みどろで抗争を繰り広げ、鬼嫁と呼ばれ、引退後はコストコで大量に買い物するようになるとは当初は誰も思わなかった。

なんの話でしたっけ。そう、正統派からの脱皮パターンの話である。

80年代後半『君の瞳をタイホする!』(フジテレビ)などトレンディドラマ常連だった三上博史は、92年のドラマ『あなただけ見えない』(フジテレビ)で三重人格の人物を怪演。元々寺山修司に見出されアングラ気質だった彼は、以後恋愛ドラマのかっこいい役から、癖のある役を選ぶ役者になっていった。

最近で言えば、「21世紀の石原裕次郎オーディション」でグランプリを獲得して世に出た徳重聡が『下町ロケット』(TBS)『愛しい嘘〜優しい闇〜』(テレビ朝日)などで怪演しているのが印象的だ。

さらに時代が進むと、普段のイメージを逆手にとって「怪演させる」ケースも出てきた。

たとえば2017年『おんな城主 直虎』(NHK)における今川義元役の春風亭昇太。眼鏡でにこやかでいつも明るい噺家というパブリックイメージの昇太に、白塗り顔(いわゆる麻呂メイク)で、表情だけの演技をさせるのはかなりの冒険だったはずだが、それに怪演で応えた昇太もすごかった。

最近だと『魔法のリノベ』(関西テレビ)における原田泰造のパワハラ部長役、『鎌倉殿の13人』(NHK)における佐藤二朗の比企能員役などが、普段のイメージがあるだけにより一層怪演っぷりが目立った。

「怪演でカムバック」が急増中。その事情とは…

そして近年とても多くなっているのが「みそぎとしての怪演」のパターンである。私生活などで色々ゴタゴタあった人が「怪演でカムバック」するケースが増えているのだ。

その代表例といえば高嶋政伸だろう。元々好青年役が多かった高嶋は、泥沼離婚、DV疑惑などでワイドショーの話題となり、その後はすっかり怪演俳優に生まれ変わった。最近では正統派の役をやっても「裏があるのでは」「この後、実は悪い人なのでは」などと勘繰られるようになっている。

その他、ひと頃「怪演女優」の代名詞になっていた水野美紀もこのパターンだし、近時のベッキーもそんな感じである。

興味深かったのは最近の小出恵介のインタビューで「今の自分の状況では、癖のある役柄の方が声がかかりやすいかなと思うんです。そうした役もありがたいですが(中略)ポジティブで正義感あふれる男性像のキャラクターをまたいただけたというのが、すごくうれしかったです」と語っている。

やはりゴタゴタあった人は、「怪演」でないと使いづらいという傾向はあるようだ。

そこでちょっと気になるのは梨園方面の昆虫の好きなあの方である。

元々『龍馬伝』(NHK)あたりから濃厚なやりすぎ感のある演技が売りになり、『半沢直樹』(TBS)など顔芸も駆使した演技が印象的だったあの人は、謂わば「怪演カード」をもう切ってしまっている状態だ。どうするのだろうか。

これまで色々なパターンの怪演を見てきたが、近時「怪演」という言葉は、随分と安易に使われるようになっている気がする。最近のニュースを検索しても、えっあれが怪演?と思うようなものも数多くあった。

元々「怪優」にしても「怪演」にしても明確な定義がない言葉だが、冬彦さん世代の私からすれば「怪演」は振り切った演技にこそふさわしいと思ってしまう。

先述の通り、近年は「みそぎとしての怪演」パターンは増えている。あの人やあの人が、しばし後、どこまで振り切った怪演を見せてくれるか、楽しみである。

文/前川ヤスタカ イラスト/Rica 編集協力/萩原圭太

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