インド月探査「チャンドラヤーン3号」月を周回していた推進モジュールが地球周回軌道に再投入
sorae.jp / 2023年12月8日 10時56分
インド宇宙研究機関(ISRO)は2023年12月4日、月探査ミッション「チャンドラヤーン3号(Chandrayaan-3)」の推進モジュールを月周回軌道から離脱させて、地球周回軌道に再投入したことを明らかにしました。【最終更新:2023年12月7日11時台】
ISROによると、2023年10月9日・10月13日に実施された計2回のエンジン噴射と4回の月フライバイを経て、チャンドラヤーン3号の推進モジュールは2023年11月10日に月の作用圏(Sphere of Influence)を離脱。地球を約13日で1周する軌道傾斜角27度の高軌道に入り、2023年11月22日には高度15万4000kmで最初の近地点(地球に最も接近する軌道上の一点)を通過しました。今後の軌道は周回する度に変化し、予想される最小の近地点高度は11万5000kmとされています。
■チャンドラヤーン3号のこれまでの動きチャンドラヤーン3号はISROによる3回目の月探査ミッションです。探査機は月面に着陸するランダー(着陸機)の「Vikram(ビクラム、ヴィクラム)」、ランダーに搭載されているローバー(探査車)の「Pragyan(プラギャン)」、着陸前までの飛行を担う推進モジュールで構成されていて、ランダーには3基、ローバーには2基の観測装置が搭載されています。
【特集】インドの月探査ミッション「チャンドラヤーン3号」
2023年7月14日に打ち上げられたチャンドラヤーン3号は2023年8月5日に月周回軌道へ到達し、ランダーは日本時間2023年8月23日21時32分に月の南極点から約600km離れた地点(南緯約69度・東経約32度付近)へ着陸することに成功しました。インドとして初めての月着陸であり、世界でも4か国目の成功で、月の南極付近への着陸は世界初です。
チャンドラヤーン3号の月面でのミッション期間は月での半日に相当する14日間でした。ランダーとローバーによる探査活動は着陸後間もなく開始され、着陸地点の表面下数cmまでの温度や元素組成などが調べられた他に、将来のサンプルリターンや有人ミッションを見越してランダーを数十cmだけ上昇・接地させる実験を実施。ISROによれば、チャンドラヤーン3号ミッションの目的は完全に達成されました。なお、太陽電池から電力を得ていたランダーとローバーは着陸地点が夜を迎える前の2023年9月4日までにスリープモードに入り、予定されていたミッション期間の終了後に通信が再確立されることはありませんでした。
一方、2023年8月17日にランダーから切り離されたチャンドラヤーン3号の推進モジュールは、その後も月を周回し続けていました。推進モジュールの主な役割は前述の通り着陸前までの飛行を担うことでしたが、分離後は偏光分光観測装置「SHAPE(Spectro-polarimetry of HAbitable Planet Earth)」の運用が約3か月に渡って実施されることになっていました。SHAPEは太陽系外惑星の生命居住可能性や生命そのものの兆候を探索する将来の調査に備えて、地球の大気の分光観測や雲からの偏光の変化を測定する実験を行うために搭載された科学機器です。
ISROによると、チャンドラヤーン3号の打ち上げに使用された「LVM3」ロケットによる軌道投入が正確だったことと、その後の地球と月での軌道遷移が最適に行われたことで、推進モジュールには月周回軌道での運用が1か月を過ぎた段階でも利用可能な推進剤が100kg以上残されていました。そこで、SHAPEによる地球観測を継続するとともに、将来の月探査ミッションに向けた追加情報の取得とサンプルリターンミッションの運用戦略を実証するために、推進モジュールを地球周回軌道に再投入させることが決まりました。
高度約150kmの円軌道を飛行していた推進モジュールは、2023年10月9日のエンジン噴射で遠月点(月から最も遠ざかる軌道上の一点)高度が5112kmに変化。続く10月13日のエンジン噴射と11月7日までに実施された4回の月フライバイでさらに軌道を修正し、前述の通り11月10日に月の作用圏を離脱して高軌道に入りました。ISROによれば、SHAPEは計画通り地球が視野にある時は常に運用されており、今後も運用が継続されるということです。
Source
ISRO - Returns to home Earth: Chandrayaan-3 Propulsion Module moved from Lunar orbit to Earth's orbit文/sorae編集部
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