【内田雅也の追球】雨も風も受けいれ、自然に任せ、投手にも無理させない…岡田監督の真情
スポニチアネックス / 2024年5月7日 8時1分
午後4時前、中止のアナウンスが流れると、「あ~」とため息が漏れた。ゴールデンウイーク最終日の甲子園球場はファンの出足が早く、雨の中、周辺は家族連れなどでにぎわっていた。
天気予報を承知していたのだろう。人びとは記念写真を撮ったり、売店で買い物をしたりして、引き揚げていった。
「今日は仕方ないよ」と阪神監督・岡田彰布は言った。やりたかったか、中止で良かったか、の問いに「別に、どっちでも」と言った。雨も風も野球の一部ととらえ、決して逆らおうとしない。
先の東京ドーム3連戦は好天のなか、青空も星空も見えない屋根付き球場で行われた。「こんないい天気の日にもったいないなあ」と漏らしていた。自然が好きなのだ。
阪神を愛した阿久悠の自称「空想野球小説」の『球心蔵』(河出文庫)の主人公は阪神監督の岡田である。このなかで、甲子園での試合が中止となり、岡田が神戸・三宮に飲みに出るシーンがある。<やはり野球は自然の中でやるのがいい、雨や風が神になったり悪魔になったりするのがいい>と岡田の思いが記されている。阿久は岡田の真情を分かっていた。
詩人であり、書家でもある相田みつをに「雨の日には 雨の中を 風の日には 風の中を」という言葉がある。著書『生きていてよかった』(ダイヤモンド社)で<雨の日には、雨を、そのまま全面的に受け入れて、雨の中を雨と共に生きる。風の日には、風の中を、風といっしょに生きてゆく>と解説している。<特別なことではない、ごくあたりまえの生き方のことです>。岡田の言う「普通にやればいい」に通じている。
雨も風も受けいれ、自然に任せる。決して無理はしないし、させない。特に投手陣の運営に気を配る。何しろキャンプ中から各投手の球数を監督室に一覧表で掲示していたほどである。
先発陣はスライドさせず、救援陣は登板過多にならぬよう、またリード、ビハインドの展開での役割分担を崩さない。「シーズンは長い。無理させれば絶対にしわ寄せがくるし、体よりもメンタル面で疲れが出る」
阿久の小説に<夢と志だけで、七カ月は走れないのである>とあった。長丁場を見すえる岡田はむろん、承知している。 =敬称略= (編集委員)
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