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裏金問題「安倍派」で拡大した訳と改革派への期待 政治改革の裏で温存されていた日本的慣行

東洋経済オンライン / 2023年12月18日 18時15分

先に変わったのは経済界であった。1990年代には、大銀行が反社会的勢力に利益を供与していたことが露見し、自殺者が出る騒ぎとなった。以後、コンプライアンスはかなり進んだ。

経済をコントロールしていた官僚組織にもその変化は波及した。今や、接待や談合はほぼなくなったと思われる。企業は競争にさらされ、生き残っていかなければならないので、ルールの変化には適応する。

日本的システムの温存が続いていた

政治の世界では、1990年前後の大疑獄事件の衝撃で制度改革が行われ、昔のような汚職は影をひそめた。しかし、政党や政治家はグローバルな競争にさらされることはないので、タテマエの陰での日本的システムの温存も続いた。今回の裏金事件は、洋式のルールと日本的システムの乖離が、ようやく政治の世界でも露見した事件と性格づけることができる。

残された問題は、ルールとホンネの二重構造が、なぜ安倍派(清和政策研究会)でかくも大規模になったのかということである。このやり口は森喜朗会長の時代に始まったという週刊誌報道もある。それにしても、栄華を極めた安倍晋三首相のもとで集金も還元も大規模になったことは疑いない。

第2次安倍政権は、史上最長を記録したが、桜を見る会や森友学園問題のように、権力の私物化やルール違反が指摘され、決して清廉潔白ではなかった。さまざまな疑惑を隠蔽できたのは、首相の権力が肥大化し、チェック機能がマヒしたためであった。

アメリカの政治学者が書いた『民主主義の死に方』という本の中に、民主的に選ばれた為政者が暴走しないために、法律という硬いガードレールと並んで柔らかいガードレールが必要だという議論がある。それは、為政者が、明示的に禁止されていなくても公平な審判者に対しては権力行使を差し控える自制心を持つという慣習のことである。

安倍首相は、検察庁法改正の試み、メディアへの威圧など、柔らかいガードレールを壊したことで、権力を持続した。公文書改竄や国会での虚偽答弁など、あらゆる手段によって権力乱用を隠蔽し、それが派閥全体の順法意識を低下させた。今ようやくその違法行為が摘発された。

ルールとホンネの二重構造は崩壊へ

これから自民党はどうなるのか。中期的に見れば、政治の世界でもルールとホンネの二重構造は崩壊するであろう。政治資金の流れに関するキャッシュレス化などの改革は不可避である。金の流れが細くなれば、派閥は求心力を失う。本来であれば、野党が政権交代を起こし、改革を進めることが理想である。

しかし、当面そのような気配はない。政治に人々の常識を取り戻すという喫緊の課題にどう取り組むか。30年前に若手改革派として躍動していた石破茂、岡田克也、岩屋毅、野田佳彦といったベテランが、政治家人生最後の務めとして、党派を超えて、議員立法で改革に取り組む、あるいは改革を実現する暫定政権をつくるという動きを起こすことを祈る。

彼らの同時代人として政治を論じてきた私自身と同じく、彼らもこのままでは死んでも死にきれないと思っているはずである。

山口 二郎:法政大学教授

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