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「年収900万円→工場夜勤バイト」57歳男性の綻び それでも高級分譲マンションに住み続けるワケ

東洋経済オンライン / 2024年1月18日 11時30分

くも膜下出血を発症後、高次脳機能障害と診断されたイサオさん。家族に対して怒りっぽくなったというが、取材中は終始知的で穏やかだった。高次脳機能障害が「見えない障害」といわれるゆえんである(編集部撮影)

現代の日本は、非正規雇用の拡大により、所得格差が急速に広がっている。そこにあるのは、いったん貧困のワナに陥ると抜け出すことが困難な「貧困強制社会」である。本連載では「ボクらの貧困」、つまり男性の貧困の個別ケースにフォーカスしてリポートしていく。

パン工場での夜勤アルバイトを終えて帰路につく。街はまだ夜明け前だ。自宅は東京郊外の高級分譲マンション。最寄駅はまもなく会社に出勤する人たちでごったがえすだろう。道すがら、ふと自分だけが人の流れと逆行しているような気持ちになる。

【写真】イサオさんが最近読み始めたという、脳卒中の後遺症と向き合う人たちの実話を基に描いた小説「片翼チャンピオン」(編集部撮影)

手入れの行き届いた植え込みとガラス張りのエントランス、3LDKの居室。イサオさん(仮名、57歳)が15年ほど前に約4000万円でこのマンションを買ったときは、自動車部品メーカーに勤める会社員だった。年収は約900万円。「妻がすごく喜んでくれたのを覚えています」。

もう一度、妻とここで暮らしたい

その妻が離婚を求め、子どもたちと一緒に出て行ったのは3年前。以来、ずっと独り暮らしだ。今は時給の高い夜勤のアルバイトを掛け持ちしており、収入は月30万円ほどになるが、その半分はローンの返済と管理費に消えていく。それでも、イサオさんがマンションを手放さない理由はただひとつ。

「もう一度、妻とここで暮らしたい」

人生の歯車が狂い始めたきっかけはなんだったのか。イサオさんは「くも膜下出血で倒れたのが10年前になります」と語り始めた。

当時は地方に単身赴任をしていたが、たまたま自宅に戻っていたときに発症したことから一命をとりとめた。目に見える後遺症はなく、数カ月で復職。再び単身赴任生活が始まった。日常が戻ってきたように思われたが、イサオさん自身は明らかな異変を感じていた。

「今までできていたことができなくなったんです。イライラすることが増え、感情の起伏も激しくなりました。何かがおかしい。以前の自分とは違う。そんな不安が募りました」

イサオさんの仕事は代理店向けの営業や現場での施工指導だったが、複数の業務を掛け持ちすることが難しくなった。いわゆるマルチタスクができなくなったのだという。

また、街中で前方から歩いてくる人と肩がぶつかってトラブルになり、一緒にいた同僚を驚かせたこともあった。「ほんの少し私が譲ればすむのに、自分からぶつかっていく感じ。以前の私なら考えられないことでした。もともとはそういうトラブルを取りなす側の人間でしたから」。

経済的DV、そしてギャンブル依存へ

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