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「年収900万円→工場夜勤バイト」57歳男性の綻び それでも高級分譲マンションに住み続けるワケ

東洋経済オンライン / 2024年1月18日 11時30分

イサオさんは机をたたくなどして抵抗したものの、警察側は「このまま帰すことはできない」の一点張り。最後は根負けしてパトカーに乗り込み、そのまま精神科病院に移送された。当時の状況について、イサオさんは次のように語る。

「家族が見ているところでわざと砥石で包丁を研いだり、『この家を事故物件にしてやる』と言ったりはしました。子どもに対する(取っ組み合いや胸ぐらをつかむなどの)振る舞いも、妻の目には虐待と映ったのかもしれません。でも、妻に手を上げたことは一度もありませんし、警察沙汰になったこともありません」

イサオさんの話が事実なら、やはり強制入院は行き過ぎだし、警察の対応も民事不介入の原則に照らせば完全な越権行為である。

イサオさんは医療保護入院について「拉致監禁も同然」と憤る一方で、「借金や、私の感情の起伏が激しくなったせいで迷惑をかけたことに対する罰として受け入れなければならないのかなとも思いました」と揺れる心情を吐露した。

ただ入院中は大きな転機もあった。くも膜下出血が原因の高次脳機能障害という診断を受けたのだ。高次脳機能障害とは、脳卒中や交通事故などにより脳が傷ついたことによって生じる認知機能障害のこと。新しいことが覚えられない、集中できない、計画通りに行動できない、怒りっぽくなるといったさまざまな症状がある。

残ったのは障害者手帳と借金だけ

イサオさんにとっては思い当たることばかり。皮肉なことに強制入院の結果、10年近くさいなまれてきた「以前の自分ではなくなった」という不安の正体が明らかになった。これにより毎月約6万円の障害年金を受け取れるようにもなったという。

一方で入院期間は2カ月に及んだ。自宅に帰ると、すでに妻と子どもたちの姿はなく、荷物も運びだされた後だった。ほどなくして妻から離婚調停を申し立てられたが、イサオさんはこれを拒否。子どもたちはすでに成人しており、イサオさんは婚姻分担費用として毎月1万5000円を払い続けているという。

イサオさんは自嘲気味に「残ったのは障害者手帳と借金だけです」と言った。

自動車部品メーカーを辞めてからの就職活動は難航している。複数の会社に勤めたものの、いずれも短期間で退社。今は生活とローンの支払いのため携帯のバイトアプリを使い、夜間のパン工場など毎月20日前後の夜勤仕事を掛け持ちしている。収入自体は悪くないが、連日の夜勤による体への負担は小さくない。工場側の都合次第では月20日間働ける保証はないし、いつ雇い止めにされるかもわからない。この間も風俗店やラブホテルの夜間のフロント業務に応募したが、採用には至らなかった。

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