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勘違いから一転、新種新属の恐竜を発見するまで ウズベキスタンまで駆けつけて得られた成果

東洋経済オンライン / 2024年1月21日 19時0分

「ウルグベグ」という学名は、15世紀にウズベキスタンなどの地域を統治していたティムール王朝の君主、ウルグ・ベグにちなんでいる。ウルグ・ベグはティムール王朝の創始者であるティムールを祖父に持ち、数学者や天文学者としても名を馳せたという。

恐竜学者の北海道大学・小林快次先生とタシケントの街中を歩いていた時、たまたまウルグ・ベグの銅像に出くわしたことがある。後から気が付いたのだが、私たちが歩いていたのは「ミアゾ・ウルグベグ通り」というウルグ・ベグを記念した通りだったのだ。

私はテンションが上がり、パシャパシャ写真を撮りまくった。小林先生はいたって冷静である。銅像を見る限り、ウルグ・ベグはマッチョでイケメンだった。文武両道、およそ非の打ちどころがない、頼れるリーダーだ。地球儀を脇に携え、彼方を見つめるウルグ・ベグ像を前に、小林先生はこう呟いた。

「王さまで科学者でイケメン? そんな完璧なやつ、いるかい?」

私はウルグ・ベグマッチョ説を信じたい。

体の大きさは肉食恐竜において重要である。大型の方が、より生態系で上位の恐竜と考えられるからだ。ウルグベグサウルスはティラノサウルスのご先祖様のティムレンギアを差し置いて、当時の生態系の頂点に君臨していたようだ。

当時、カルカロドントサウルス類とティラノサウルス類が共存していたことを示す証拠だ。共存の記録として、白亜紀後期の9000万年前というのは比較的新しい。それまでの共存の証拠はもう少し古い時代(ジュラ紀後期や白亜紀前期)だった。

つまり、ティラノサウルス類が北半球で勢力を拡大し、カルカロドントサウルス類が北半球から撤退するのは少なくとも9000万年前よりも後の時代、ということになる。ウズベキスタンでの発見が、肉食恐竜の競争の歴史に、新たな情報を加えてくれた。

骨ひとつでも侮れない

あの時、留学生のオタベック君が「恐竜化石を見つけましたよ」と言って私の部屋にやってこなかったら、ウズベキスタンに行くことは決してなかっただろう。

あるいは、運よくフェルガナ盆地で化石が見つかっていたら(それはそれで最高だけれども)ウルグベグサウルスにはたどり着けなかったかもしれない。

どっちにしても、オタベック君の一言からすべては始まったのだ。フェルガナ盆地で化石が見つからなかったのは失敗ではない。いや、失敗しても良い。失敗から新たなプロジェクトが生まれるのだ。ウズベキスタンでの経験は、失敗を恐れずに突き進めと、私たちを鼓舞してくれた。

もちろん、これですべての研究が終わったわけではない。私たちのウルグベグサウルスの研究結果に異議を唱える研究者もいる。古生物学は往々にして、タイムマシンでもない限り、正解にたどり着くことができない学問である。

正解に近づくためには今後、さらなる調査が必要である。もしかしたらまだ、ウルグベグサウルスの残りのパーツがどこかに眠っているかもしれないのだ。

田中 康平 :筑波大学 生命環境系 助教

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