日本人が知らない南シナ海の「いまそこにある危機」 日米比首脳会談で試される同盟への覚悟
東洋経済オンライン / 2024年4月8日 16時0分
「3国(準)同盟」のテーマは主に2つ、台湾と南シナ海だ。2027年危機などとも言われる台湾海峡問題は、米中間最大の懸念事項であり、アメリカ軍基地を沖縄に集中させる日本にとっても喫緊の課題だ。
だが、とりあえずいま緊迫しているのは南シナ海である。マルコス大統領が押っ取り刀で駆けつけるのも自国の鼻先でこれまでにない脅威にさらされているとの認識があるからだ。
フィリピンは排他的経済水域(EEZ)内にあるアユンギン礁に老朽軍艦を意図的に座礁させ、海兵隊員を駐留させて実効支配の拠点としているが2023年来、同艦への補給を試みるフィリピン艦船への中国の妨害がエスカレートしている。
2024年3月23日には、フィリピン海軍がチャーターした補給船に対して中国海警船2隻が約1時間にわたって放水砲の発射を続けて航行不能に追い込み、乗員4人が負傷した。
補給船には日本が供与した44メートル級巡視船2隻がつき、海軍の艦船も2隻が後方で待機したが、中国の妨害を防ぐことはできなかった。負傷者が出たのは3月5日の前回補給に続き2度目だ。フィリピンでは強硬さを増す中国の対応に「いつ死者が出てもおかしくない」との危惧が広がっている。
バイデン大統領は4月2日、中国の習近平国家主席と1時間45分にわたり電話で会談した。2023年11月にアメリカ・カリフォルニア州で面談して以来の直接対話だった。
台湾問題、対中輸出規制、ウクライナ・中東情勢とテーマは多岐にわたったが、南シナ海問題が最重要議題の1つであったことは間違いない。
軍事的関与のハードルを下げたアメリカ
バイデン氏は中国艦船によるフィリピン船舶への「危険な行動」に対して懸念を示し、強く自制を求めた。中国の攻撃で今後、フィリピン側に死者が出た場合、同盟を結ぶアメリカの対応が問われるからだ。
2023年5月の米比共同声明は、南シナ海で「フィリピンの軍、公船、航空機に対する武力攻撃があれば、MDTが発動される」と明言した。それまで南シナ海が条約の適用範囲かどうかはあいまいだったが、バイデン政権はこれを明確にし、大統領自身も「フィリピン防衛への関与は鉄壁だ」と繰り返してきた。
中国艦船が放水砲ではなく、「本物」の銃器類を使ったり、フィリピン船を沈没させたりすれば、バイデン政権は自ら下げた軍事関与のハードルが試されることになる。
アメリカにとって「日米比(準)同盟」は対中国包囲網形成の一環だ。一強の地位が中国に脅かされているうえ、ウクライナや中東で力の分散を強いられる状況の中で、米英豪(AUKUS)や日米豪印(QUAD)などの枠組みをつくってきた。2023年8月にキャンプデービッドで主宰した日米韓首脳会談は、今回の日米比首脳会談の先例ともいえる。
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