今の為替水準が「円安すぎる」経済学的な根拠 こんなに格差ができてしまったのはなぜなのか
東洋経済オンライン / 2024年4月14日 10時0分
ドル円レートは、2015年頃以降、 1ドル=100円から110円程度の幅で推移してきた。ところが2021年から急激な円安が進んだ。現在の購買力平価は1ドル90円程度なので、市場レート150円は、これより大幅に円安だ。両者の差がこれほど開いたのは、1980年代前半以来のことだ。昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第118回。
円の購買力は1990年頃の半分に低下
現時点の為替レートは歴史的な円安だと言われる。通常、それは150円という市場為替レートの水準を過去の水準と比較することによって言われる。しかし、1980年代の市場レートは、150円よりずっと円安だった。いまがなぜ「歴史的な円安」なのかを理解するには、購買力平価と比較することが必要だ。
購買力平価は理解しにくい概念だ。これには、いくつかの異なる概念がある。
第一は、「実質実効為替レート指数」だ。この指標は、BIS (国際決済銀行)が計算している。2020年 を基準年にし、それ以外の時点の購買力が基準時点と比べてどの程度の水準にあるかを示す。このため、「相対的購買力平価」と呼ばれる。
その推移は、図表1に示すとおりだ。2024年3月では70程度だ。過去のデータを見ると、1990年代始めには、150程度だった。95年には180程度にまでなった。したがって、95年頃の日本円の購買力は、現在の2.5倍程度あったことになる。
しかし、これをピークとして、それ以降、日本円の実質実効為替レートは傾向的に下落した。2010年の円高期に1時回復したが、2013年の大規模金融緩和で急速に下落し、100程度の値になった。そして、2021年以降、さらに下落した。
現在の日本円の市場為替レートは1990年頃の水準にまで低下したが、この頃の実質実効レートは150程度であり、現在の約2倍あった。
1990年以降、日本の物価上昇率はアメリカの物価上昇率に比べて低かった。この状況下で購買力を維持するためには、円高になる必要がある。それにもかかわらず、市場為替レートが当時とほぼ同じであるために、現在の実質実効為替レートは、1990年頃より低くなっているのだ。
ところで、相対的購買力平価は基準時点との相対的な比較であるため、任意の時点での「あるべき為替レートの水準」を示すことにはならない。それができるのは、基準時点が何らかの意味で「あるべき状態だった」と評価される場合だけだ。
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