グローバル化が進むと「封建的な世界」になる理由 ナショナリズムこそリベラルな社会の前提条件
東洋経済オンライン / 2024年4月24日 9時30分
本来であれば格差問題の解決に取り組むべきリベラルが、なぜ「新自由主義」を利するような「脱成長」論の罠にはまるのか。自由主義の旗手アメリカは、覇権の衰えとともにどこに向かうのか。グローバリズムとナショナリズムのあるべきバランスはどのようなものか。「令和の新教養」シリーズなどを大幅加筆し、2020年代の重要テーマを論じた『新自由主義と脱成長をもうやめる』が、このほど上梓された。同書の筆者でもある中野剛志(評論家)、佐藤健志(評論家・作家)、施光恒(九州大学大学院教授)、古川雄嗣(北海道教育大学旭川校准教授)の各氏が、グローバル化と国際化、アメリカをはじめ先進国で台頭しつつある国民保守主義について論じた座談会の前編をお届けする。
国民保守主義の台頭
中野:今年の2月に『The Economist』誌にて、「国民保守主義の危険性」という記事が掲載されていました。
グローバリズムによって国民の生活が貧しくなっている現実を受け、トランプ的な自由主義を否定する国民保守主義の台頭に対して、リベラル側はグローバリストとしてではなく愛国心に立脚したうえで自由主義を肯定し、国民保守主義に対抗すべきだという内容でした。
この主張について、まずは施さんに、3月6日の産経新聞でお書きになられていた「国民生活第一路線を捨てた当然の帰結としての『失われた30年』」という論考に基づいて、ご意見を伺えますでしょうか。
施:わかりました。まずは産経新聞の記事について簡単に述べさせていただきます。こちらの論考はもともと「失われた30年検証研究会」という会合で講演した内容に基づいています。結論としては、「失われた30年」とは、日本政府が自ら望んだものではないかという話です。というのも、失われた30年の主要因は、新自由主義に基づくグローバル化の推進を経済政策の基本理念とし、つまり、グローバルな投資家や企業がビジネスしやすい環境の整備を経済政策の第一の目的としてしまい、一般国民の福利の向上や生活の安定をないがしろにしてきたことだと思うんですね。
90年代半ば頃から徐々に、グローバルな投資家や企業の声が非常に大きくなってしまいました。各国の経済政策を、各国の国民の福利の向上、生活の安定のためではなく、グローバルな投資家や企業関係者がいわゆる稼ぎやすい、ビジネスしやすい環境をつくるために都合のいいように変えていくという方向になったのではないかと。
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