「なぜ人類は絶滅しない?」哲学者が出した"答え" 「進化したサピエンス」がなぜ生きづらいのか?
東洋経済オンライン / 2024年4月24日 13時30分
死活問題であるにもかかわらず、僕らは予定を忘れてしまう。だからこそ、数週間後の予定ですら、Google カレンダーに記入し、記憶を外部化させたりするのです。
あるいはSNS。
SNSは単なるテキストデータ、画像データの蓄積のはずです。ですが、ひとはSNSに疲れてしまう。それはSNSが承認と嫉妬が交錯する欲望の場となっているからでしょう。
そこでは、人々は「私」という美術館を作り上げています。「私」の経験という履歴の中から、他者に見せたいもの、見せられるものだけを丁寧に選別し、ガラスケースに入れた美術品のように展示しています。
そして、その展示を見たひとは、自分の持っている美術品と価値を比べてしまう。私が努力して集めた絵画より価値のある絵画があったと嫉妬し、彼女の彫像よりも私の収蔵している作品の方が美しいと自己正当化する。
かくして僕らは他者からの眼差し、そして他者への眼差しに疲れ果てる。
なぜこのようなことが起こるのか?
その理由はこうです。
僕らの脳と身体、精神は現代社会という「環境」に適した形ではデザインされていないから──。
脳・身体・精神と環境のミスマッチ
僕らの脳と身体と精神は、現代のこのような社会生活を想定して作られていない。
精神科医アンデシュ・ハンセンのベストセラー『スマホ脳』に次のような思考実験があります。
10万年前サバンナに生きていた2人の女性を登場させます。カーリンとマリアの2人。カーリンは高カロリーの甘い果実が実る木の前へやってくると、1個だけ食べて満足する。次の日また食べようとその木の前へやってくるが、他の誰かが全部食べてしまっていた。
一方、マリアは甘味を認識する遺伝子に突然変異が起き、甘い果実を食べると脳内でドーパミンが大量に分泌される。ドーパミンの効果によって、マリアは目の前の木の実を全部食べたいという強い欲求を持つことになる。それゆえ彼女はその甘い実を食べられるだけ食べてからその場を去る。翌日、また食べたくなって木の下へやってきたが、カーリンの時と同様にもう木の実は残ってはいなかった。
生き延びる確率が高いのはマリアだということは、わけなく推測できるだろう。消費しきれないカロリーは脂肪として腹部に蓄積され、食べられる物が見つからないときにその人を餓死から守ってくれる。そうすると、子を産み遺伝子を残す可能性が上がる。このカロリー欲求は遺伝子のせいなので、その特質は次の世代にも受け継がれ、その世代も生き延びて子を産むことが容易になる。そこに、環境における要因も関わってくる。強いカロリー欲求を持った子供が徐々に増え、生き延びる可能性が高くなる。何千年か経つ頃には、カロリーへの欲求はゆっくりと確実に、その人たちの間で一般的な性質になっていく。
(アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』29‐30頁)
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